27: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 21:55:43.39 ID:b1HKoC2c0
「結局、逃げんのかよ。全然好みじゃないし、いいけどさあ」少女が笑い飛ばす。同時に、わたしの身体から手を離した。
少女の腕に背を預ける格好となっていたわたしは、濡れた地面に尻餅を突いた。うひゃあ、と変な声が出て、少女がげらげら笑った。
「あの」尻をさすりながら、立ち上がる。「助けてくれて、ありがとうございました」頭を下げ、上目使いに、ちらっと、少女を観察する。
28: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 21:56:47.83 ID:b1HKoC2c0
「たまには善行を積むのもいいもんね。いつもはまあ、やりたい放題やっちゃってますけど」少女はまた、げらげらと笑った。
人を刺し、指を切り飛ばして喜んでるような人間が、全うな善人であるわけがなかった。
29: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 21:57:57.83 ID:b1HKoC2c0
が、少女の方を見ると、どうも上の空のようだった。何かおかしい。少なくともわたしの話は聞いていない。
やがて、少女がわたしの後方を睨んでいることに気づき、振り返る。
30: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 21:59:25.30 ID:b1HKoC2c0
少女の時と同様に、それは闇から現れた。
視認した瞬間、黒い布を被った死神に見え、びくり、と身体が震えた。
目を凝らし、よく見ると、黒い布ではなく紺のレインコートで、死神ではなく人間だと解った。
紺色の、脛辺りまである長いレインコートだ。手には、黒い革手袋。大きなフードを目深に被っており、顔が殆ど見えない。
31: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:00:44.16 ID:b1HKoC2c0
「だんまりかよ。まあ、違うなんて嘘吐いたら、舌をちょん切ってやんだけどさあ」少女は笑いながら理不尽な台詞を飛ばすと、地を蹴った。
風のように、わたしの横を抜け、少女は一直線にレインコートへ迫った。
レインコートの一歩手前で、足に力を込め急停止し、死んでいない上半身の勢いに任せ腕を振った。鋏が口を開け、襲いかかる。
32: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:02:05.84 ID:b1HKoC2c0
雨男はナイフを少女に向け、空中で彼女の姿をなぞるように、ゆっくりと動かした。どうやって身体を寸断するか、測っているようだった。
少女は調子を確かめるかのように、しゃきちゃきと二、三度鋏を鳴らした。
今度は、同時だった。両者ともが唐突に、同じ時機に、踏み込んだ。
交錯の瞬間、少女の鋏は再び空を切った。
33: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:03:13.60 ID:b1HKoC2c0
----- ✂︎ -----
「いやあ、あんな美味しいディナーまでご馳走になっちゃって、悪いわね」
34: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:05:07.90 ID:b1HKoC2c0
雨男が去った後、少女は唐突にわたしの方を向き「アンタ、名前は?」と尋ねてきた。
この危険人物に名前を教えていいものかと、わたしが口ごもっていると、少女は自身の制服のスカーフを左の二の腕に巻きながら、声を荒げた。
「聞こえなかった?お名前なあにって訊いてんのよ。ワッチュアネーム。自分の名前忘れちゃったの?だったら、アタシが思い出させてあげるけど」少女が鋏を鳴らしはじめた。
35: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:08:50.95 ID:UDVM4aPw0
まるで古くからの友のような気軽さで放たれた願いを、いやです、と、わたしは即座に拒否した。
この少女はどう考えても危険人物だ。どうすれば早くこの少女と別れられるか、と必死に考えていたのに、冗談じゃない。
「いいじゃないのよ。色々とアレなことされる前に、助けてあげたじゃん。お願い、こまっちゃん」
36: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:15:31.02 ID:UDVM4aPw0
家に向かう前に、わたしは一つ質問を返した。
「あなたの名前は、なんていうんですか?」こちらが名乗らされたのだから、これぐらい訊いても怒りを買う事はないだろう、と思った。
37: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:16:34.77 ID:UDVM4aPw0
ずぶ濡れのわたし達を迎えた母は、わたしがジェノサイダーを友達であると紹介すると、あら、と目を細めて笑むだけで、特に何を問うこともなく、唐突な来訪者の宿泊を承諾した。昔から母は、底の見えないところがある。
ジェノサイダーと入れ替わりで入った風呂から上がると、既に食卓には晩御飯が並んでおり、ジェノサイダーはその料理を褒めちぎっていた。
とにかくよく喋るジェノサイダーは母と早々に打ち解けた様子で、わたしは複雑な気持ちで箸を口に運んだ。
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