過去ログ - 佐久間まゆ「まがいもの」
1- 20
80:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 07:42:43.47 ID:DL0z8tZuo
 再び訪れたファミレスは混んでいた。何ヶ月か前の昼時、ここへ来たときと同じように。
 代わり映えしない店内の風景。変わったのは私たち二人と、エアコンの設定温度くらいだろう。

 二人がけの席に案内され、プロデューサーさんはたらこスパを、私も同じくたらこスパを注文した。
 しばらくすると、テーブルにたらこスパが二皿運ばれてくる。
以下略



81:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 07:43:27.48 ID:DL0z8tZuo
「忘れないうちに」

「た、食べ終わってから、開けさせてください」

 私が急いでフォークを手繰ると、プロデューサーさんは笑った。焦らなくても逃げないよ、と。
以下略



82:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 07:44:08.40 ID:DL0z8tZuo
「は、はい……ぴったりです」

 彼の両手の離れた私の左手首には、時計の赤いバンドが巻き付いていた。
 左手をそっと耳元へ近づけると、心臓の鼓動のように時間の落ちる音がした。

以下略



83:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 07:45:09.81 ID:DL0z8tZuo
 ――――

 春休み期間のレッスンはトレーナーさんと、私とプロデューサーさんの三人で行われた。
 初めの二、三日はプロデューサーさんのことを意識して集中できずにいたけれど、
 今はそれよりも、傍に居てくれることがこの上なく嬉しかった。
以下略



84:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 07:45:41.11 ID:DL0z8tZuo
「佐久間さんにぴったりだと思って」

「そうですか……?」

「ぴったりですよねぇ」
以下略



85:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 07:46:27.33 ID:DL0z8tZuo
 レッスンが終わるとプロデューサーさんは私の家まで送ってくれる。
 車内には彼の好きだという音楽がいつもかかっていた。
 疲れに半分まぶたを落として、名前も知らないでいたロックミュージックに耳を澄ませた。

 帰りの車内でプロデューサーさんが私に話しかけることは少なかった。
以下略



86:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 07:47:49.85 ID:DL0z8tZuo
 運命というものが在ったとして、よくできていると思う。
 あの歌を歌うたび、一本の糸のような巡り合わせにぞっとした。

 もしも、あの日の喫茶店で相席にならなかったら?

以下略



87:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 07:48:28.56 ID:DL0z8tZuo
 ――――

 白く晴れた午前、私はレッスンスタジオに一人で居た。
 プロデューサーさんは打ち合わせがあるからと、私に待っているように指示をした。
 スタジオの床には冬の面影を残した空気が漂っている。
以下略



88:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 07:48:56.70 ID:DL0z8tZuo
 ゆっくり、ゆっくり、記憶をたどるように鍵盤を叩く。
 なんで辞めたんだっけ。そうそう、この曲の他にはなにも弾きたくなかったからだ。

 スペイン舞曲集第二番、オリエンタル。
 この物哀しいメロディを、私は宝物のように大切にしていた。
以下略



89:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 07:49:24.15 ID:DL0z8tZuo
「あの、勝手にピアノ弾いたこと、トレーナーさんには内緒に……」

「あははっ。彼女、怒ったりするタイプじゃないと思うけど、そう言うなら内緒にしておく」

 トレーナーさんがスタジオへ着くのは、もう少しかかるようだった。
以下略



142Res/83.83 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice