1: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:12:33.62 ID:xhFcsLfT0
丸卓を囲んで椅子に座る、AからEの五人の男たちがいた。
彼らは石造りの殺風景な部屋に押し込まれ、机に置かれた四角い缶を見つめている。
「始めろ」
彼らの背後に立つ、黒服の男が号令を下す。5人が5人とも、ただ1人の例外無く顔を強張らせた。
Aは首を回し、黒服の顔をじっと見つめた。ヤツらは何を考えている?
しかしサングラスに覆われた瞳からは何も読み取れはしなかった。
「早く始めろ」
抑揚の無い、それでいて有無を言わさない、威圧感を兼ね備えた低い声。
Aは黒服を見るのを諦め、首を戻して四角い缶に正対した。
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2: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:13:28.96 ID:xhFcsLfTo
手の平ほどのそれは、縦10センチ、横8センチ、奥行き3センチ。緑色で、材質はスチールらしい。
上には直径3センチの穴が空けられている。覗けば、そこは深闇に通じているように思われた。
だが現実としてそんな事があるはずもなく、穴から漂う甘い匂いが
3: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:14:16.48 ID:xhFcsLfTo
Aは唾を飲み込むと、ゆっくりと缶に手を掛けた。軽く持ち上がり、中身がガラリと音を立てる。
逆さに倒すと、Aの手には赤色の玉が音も無く落ちた。そのまま口へ入れ、隣のBへ缶を回す。
BもAと同じ事を繰り返し、そしてCへ缶を回す。
4: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:14:51.35 ID:xhFcsLfTo
そして三週目。
最初の男Aは、おもむろに缶を逆さにして一度だけ強く上下した。
白い玉が手の中に転がり込む。
5: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:15:59.20 ID:xhFcsLfTo
Aは天井に掲げた玉から手を離し、自らの口へ放り込んだ。
今撃たれる訳にはいかない。こちらにはまだ希望がある。
目をつむって玉を飲み、一秒、二秒、三秒――――。
6: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:16:42.17 ID:xhFcsLfTo
× B C D E
7: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:17:17.69 ID:xhFcsLfTo
『ハッカを引いたら死ぬ』。ルールは至ってシンプル。
彼らは『サクマドロップス』を用た死のゲームに身を投じていた。
勝てば一千万。
8: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:18:17.38 ID:xhFcsLfTo
五人にはそれぞれ莫大な借金があった。
ギャンブルに溺れた者、愛人に貢ぐだけ貢いで捨てられた者、株で取り返しのつかない失態をおかした者。
その経緯は様々だが、
9: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:19:01.03 ID:xhFcsLfTo
だがそんなある日、彼らに一獲千金のチャンスが転がり込んだ。
「高額の賞金が手に入るゲームあるんだ。どうだ、参加してみないか?」
話を持ちかけたのは黒服にサングラスといかにもな風体の男であったが、
10: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:19:48.48 ID:xhFcsLfTo
ゴトリという固い音を立て、Aの体が床に崩れた。
喉を押さえたまま目を剥き、色の無い目を天井に向けて横たわる姿は
さながら出来の悪い蝋人形である。
11: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:21:40.01 ID:xhFcsLfTo
Bは缶に飛び付いた。銃口から逃れるように。
慌てて振ったせいか、彼の手には二個の玉が転がり込む。
一つ目は白、そして二つ目も――――、白。
12: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:22:36.04 ID:xhFcsLfTo
このゲームのキモは、ハッカとレモンの見分けにあると言って良い。
どちらも一見すると白い玉に見える。しかし『透度が違う』というのは既知の事実である。
ハッカは白く濁っているため光を通さないが、レモンは光を通して透けて見える。
13: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:24:35.70 ID:xhFcsLfTo
Bは手中の二つに目を落とした。
可能性は『レモンとレモン』、『レモンとハッカ』、そして『ハッカとハッカ』。
どちらも『同じ白』であれば『レモンとレモン』か『ハッカとハッカ』であり、助かる可能性はまだ残る。
14: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:25:33.77 ID:xhFcsLfTo
Bは人口五千人にも満たない、小さな漁村で生を受けた。
父は漁師であり、母とは見合い結婚だったらしい。
父は二十八、母は二十六。
15: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:26:25.20 ID:xhFcsLfTo
後から聞いた話だが、傍から見れば二人の仲はそれほど悪くはないように見えたらしい。
それもそのはず、「何も起こっていない」のだから。
悪い事はもちろん、そして良い事も。あるのは喜怒哀楽のどれ一つ無い、無味無臭の空気ばかりである。
16: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:27:03.65 ID:xhFcsLfTo
高校は、父の言いつけで地元の普通科に通う事になった。
中学を卒業したばかりの身では一人でやっていける自信も無く、
表面上は素直にその言葉に従った。
17: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:27:43.05 ID:xhFcsLfTo
それからは日雇いのバイトで食い繋いだ。
父の貯金は上京前にある程度引き出したものの、頻繁にやっては居場所がばれる。
幸いにも半年ほど働いた工事現場の監督が「何ならうちで働くか?」と言ってくれ、
18: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:28:20.83 ID:xhFcsLfTo
正社員として働き出して一年。
仕事帰りに「今日は良い所に連れてってやる」と言われたのが人生の分水嶺であった。
監督に連れられて足を運んだのは、いかにも高級そうな風俗店であった。
19: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:29:14.90 ID:xhFcsLfTo
ボーイに連れられ、小奇麗な待合室に通された。
すぐさまビールが出されたが、Bは手を付ける気になれなかった。
いくら請求されるか知れたものではない。
20: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:30:02.77 ID:xhFcsLfTo
低頭するボーイの横を通り、店の奥へと導かれる。
そしてその女と出会う。
二階に上がる階段の前、赤いシルクのワンピースに身を包み、彼女はそこに立っていた。
21: ◆KpPu4lHfcc[saga]
2015/02/08(日) 20:30:45.05 ID:xhFcsLfTo
彼女はゆっくりと近付き、細い両腕をBの首へ回した。
すっと顔が近付いたと気付いた時には、呆けて開いた唇にねっとりとした熱いモノが滑り込んでいた。
こじ開けられた口の中で、それは舌全体を撫でまわすようにゆっくり、大きく動きだす。
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