11:チビ、デブ、ハゲ[saga]
2015/04/15(水) 22:43:21.87 ID:0Yqyui5Eo
そんな心境が変化したのは、梅雨の時期には珍しい、ある晴れた日のことだった。
僕の高校の近くにはコンビニがあったが、校則で昼休みに校外に出ることは禁じられていた。
もちろんそんな校則をお行儀良く守る生徒ばかりではなく、その日も何人かが裏門を乗り越えており、たまたま通りかかった僕と友人はそれを目撃した。
12:チビ、デブ、ハゲ[saga]
2015/04/15(水) 22:43:57.23 ID:0Yqyui5Eo
体育教師のなまはげが、女生徒の集団に、「正直に言え!」と怒鳴り散らしているところだった。
なまはげと言うのは言うまでもなくその教師の渾名であるが、本物と並べて立たせても遜色ないだろうと思わせるような人物だった。
なんだなんだと物陰から窺って盗み聞きをしていると、大体の状況が把握できた。
13:チビ、デブ、ハゲ[saga]
2015/04/15(水) 22:45:03.35 ID:0Yqyui5Eo
怯えて丸まっている他の子と違い、彼女はすっと背筋を伸ばし、教師の怒鳴り声の間隙に、「私たちじゃありません」と真っ向から反論していた。
それを聞いた教師は、証拠がある云々とますます怒声を張り上げるが、彼女がそれに動じる様子はなかった。
やっていないことを只そう言っているだけなのだが、その凛とした立ち姿は、古来より揺るがず立ち続ける大木のような、そんなしっかりとした芯を感じさせた。
14:チビ、デブ、ハゲ[saga]
2015/04/15(水) 22:45:54.92 ID:0Yqyui5Eo
僕がそれを指し示すと、なまはげもようやく納得したようだった。
わかった、行って良いぞ、と言うなまはげに、彼女らに謝らなくて良いんですか、と声をかけると、それを聞いた後輩たちは慌てて首を左右に振った。
そんなことより早く解放されたいのだろう。
15:チビ、デブ、ハゲ[saga]
2015/04/15(水) 22:46:23.56 ID:0Yqyui5Eo
そんなことを切っ掛けに僕は彼女に惹かれ、半月ほど思い悩んでいたが、梅雨も開けようというある日にその想いを告げることにした。
自信があったわけでもなく、駄目元というわけでもなく、たんに想い悩むのに疲れただけというなんとも情けない理由であったが、なんにせよ、そう決心したのだった。
それからなんとか二人きりのシチュエーションを作ることに成功した僕は言い淀みつつも、あなたが好きです、と告げた。
16:チビ、デブ、ハゲ[saga]
2015/04/15(水) 22:47:14.03 ID:0Yqyui5Eo
それから、しばらくもしないうちに彼女は学校にほとんど来なくなった。
来ても保健室にいるようで、会うことはできなかった。
その間に噂に聞いたところ、彼女に告白した人は僕以外にもいたようだが、揃って返事を保留されているようなのだ。
17:チビ、デブ、ハゲ[saga]
2015/04/15(水) 22:48:16.66 ID:0Yqyui5Eo
そして彼女に一度も会えぬまま約束の時期となった。
彼女から指定された時間に指定された場所へと赴くと、久しぶりの彼女がいた。
今日は保健室に行っていたようでブレザーを着ているが、少年に似合いそうなつば付きのキャップを目深に被っていた。
18:チビ、デブ、ハゲ[saga]
2015/04/15(水) 22:48:48.73 ID:0Yqyui5Eo
それは、なんと言ったら良いのだろう。
一言で、となれば無惨としか言いようがなかった。
彼女の美しい黒絹のような髪はその大半が抜け落ち、地肌を晒していた。
19:チビ、デブ、ハゲ[saga]
2015/04/15(水) 22:49:32.31 ID:0Yqyui5Eo
髪が抜けるような副作用、もしや癌か、と考えてしまうのは自然の流れだったが、彼女は苦笑しながら「違いますよ」と言った。
「そんな死ぬような病気じゃないです。でも、もうずっとこのままです」
死ぬような病気じゃないと聞いて胸を撫で下ろしている僕に、彼女は、「どうですか」と短く尋ねた。
20:チビ、デブ、ハゲ[saga]
2015/04/15(水) 22:50:16.43 ID:0Yqyui5Eo
さて、どうですかとは、きっと、いや間違いなくその容姿についてだろう。
なんと答えたものかと迷ったが、とりあえず持ち前の素直さを発揮することにした。
ええと、前は白磁の壺ような肌だったけど、今は弥生土器、いや肌が荒れてるから例えるなら縄文土器のような肌だね。
21:チビ、デブ、ハゲ[saga]
2015/04/15(水) 22:51:13.98 ID:0Yqyui5Eo
その後、しばらくして夏休みとなり、僕は足しげく彼女の家にお見舞いに通った。
少しの間は元気が無かったが、やがてすっかり良くなったようで、今ではお見舞いというより単に遊びに行っているようなものだった。
他愛の無い話をしていると、11時をまわり、彼女は昼食の準備を手伝うと言って立ち上がった。
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