11: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 18:07:37.43 ID:WT24WuKIo
簡単に言えば運び屋だ。
出所の怪しい物品を同じく怪しい輩の手から手に。
汚い生業をする者のいわば保険というところ。
12: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 18:08:09.47 ID:WT24WuKIo
罪悪感がなかったかと言うと、それは微妙なところらしい。
「まあ割をくった奴もいたんだろう。
だが言ったはずだが俺は馬鹿だ。当時の俺はさらに馬鹿。
13: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 18:08:40.58 ID:WT24WuKIo
彼はそう言うけれど、仕方のないことではあったろう。
どうしようもないことは世にいくつもある。
「彼女に会いに行くのは怖かった。
14: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 18:09:14.57 ID:WT24WuKIo
彼は小さく荒れたらしい。
いや沈んだと言うべきか。
部屋にこもって酒だけ飲んで時々唸り声を上げた。
周囲は少し怖がった。
15: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 18:10:22.63 ID:WT24WuKIo
それから。
16: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 19:55:31.56 ID:WT24WuKIo
彼は彼女をあいつと呼ぶ。
「あいつはそれまで見てきた女の中でダントツに色気のねえ奴だった」
17: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 19:56:55.90 ID:WT24WuKIo
それでも縁はあったようだ。
「未練がましく彼女のことを思い出して飲んでたあるとき少し飲みすぎちまったらしい。
泥の中を這うような夢を見て、目が覚めるとどこか小さな部屋だった。
18: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 19:57:43.91 ID:WT24WuKIo
正直不気味だったという。
「なんだか幽霊みたいでな」
19: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 19:58:24.59 ID:WT24WuKIo
「そこは酒場の奥だったらしい。
そういうことに使われていたとかいないとか。
後から知ってげんなりしたね。そういうことをしろってか、と。
なんもしないで出てきたが、妙な感じは残っちまった。
20: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 19:59:02.45 ID:WT24WuKIo
実際その分彼は損したらしい。
いや彼自身はそう言うが、少なくとも僕はそう思わない。
「時折あいつはミスをする。店主に裏でどやされる。
21: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 19:59:56.00 ID:WT24WuKIo
そしてやはり飲みすぎた。
「気づいたらまたあの部屋だ。
俺は大きくため息ついた。
22: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 20:07:26.14 ID:WT24WuKIo
ちょうどその頃市政の状況が変わったらしい。
あまりの犯罪の横行に厳しい対応が求められ、議員の総入れ替えがあったとか。
「詳しいことは俺には分からん。だが空気の変化くらいなら全く分からんほどじゃなかった。
23: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 20:08:01.87 ID:WT24WuKIo
彼がのぞいてみると、彼女は一人でそこにいた。
「誰もいなくなった暗がりであいつは椅子に座ってた。
妙な音が聞こえると思ったら鼻歌だったらしい。
24: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 20:09:41.13 ID:WT24WuKIo
それからのことは彼は詳しく語らない。
だが最終的にこの町で、彼は酒場を開いている。
「まあいろいろあったんだけどな。別に話すほどのこたねえよ。さっきよりもっと面白くねえクソ話だ。
25: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 20:10:07.98 ID:WT24WuKIo
ふと気づいて指をさす。彼の後ろの写真立て。
男女の二人が寄り添うようにして映っている。
「それは奥さんとの?」
26: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 20:11:26.57 ID:WT24WuKIo
「まあ子供ができればお前さんほどだったかもしれないな」
「やはり身体が?」
「ちょっとあいつはひ弱すぎた。体力が足りなかったんだな」
27: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 20:12:24.69 ID:WT24WuKIo
「成り上がりを目指して中途半端で、好きな女は手に入らない。
小さな町の酒場の主に収まって、捕まえたのは幽霊女一人きり。
これが俺の分際とも、わりいことした報いとも、どうにもいうこたできるん……だが」
28: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 20:13:02.87 ID:WT24WuKIo
夜の外気に触れて吐く息は、白くかすんでかき消えた。
旅先の思わぬところで得た物語に僕は少しばかりの満足を得て、代わりに少しの悔いを残した。
僕の母は昔ある都市の酒場の看板娘だったらしい。
潰れてそこを離れたのだが心残りがあったそうだ。
29: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 20:13:30.64 ID:WT24WuKIo
大きな夢を抱いて、小さな現実だけが残る
その小さな現実をそれでいいと思う人もいる
30: ◆i2.pJBgDO.[saga]
2015/05/23(土) 20:13:59.17 ID:WT24WuKIo
おわり
31:名無しNIPPER[sage]
2015/05/24(日) 22:55:08.15 ID:0PAonUGho
乙
幸せの価値は人それぞれ
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