281: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:57:09.35 ID:s8phhYh5O
中間管理職なんてなるもんじゃねえや、と小さく笑い、ぬるくなったコーヒーを飲み干した。
「クールビューティ、ね。確かに武器にはなるかも知れんが、まぁ……今回はお前の采配ミスだな」
「はい、その通りです。申し訳ありません」
282: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:57:50.63 ID:s8phhYh5O
港区ベイエリア、汐留再開発地区の目の前に位置する浜離宮恩賜庭園は、この時間は門が閉められている。
わざわざそんなところに用事のある人間などいるわけがなく、都心のど真ん中にありながら喧噪とは無縁だ。
283: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:58:57.33 ID:s8phhYh5O
東京湾を駆け抜けてきた潮風が、梢のざわめきを生み出しつつ、凛の灰色のスカートを揺らす。
昼間は湿って心地よくないそれも、夜になれば適度な爽やかさを持つ。
身体をクールダウンさせる風に包まれた凛の頭の中では、今日の自らの体たらくが、ずっと回り巡り続けていた。
284: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:59:23.44 ID:s8phhYh5O
無論、これまでただの一般人高校生だった凛に、初めての場でいきなり仕事意識を要求するのは酷な話なのだが。
それでも当人にとって、この日の醜態は人生最大の自己嫌悪をもたらすのに充分すぎた。
浜風になびく長い髪が頬をくすぐっても、気にかける余裕はない。
285: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:59:52.09 ID:s8phhYh5O
「……もう終わったんだ?」
てっきり、詫びの行脚や埋め合わせの会議などで、もっと時間がかかるものだと思っていたからだ。
「勝手知ったるマイホーム……だったところだからな」
286: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:00:33.26 ID:s8phhYh5O
「ねえ、プロデューサー。えっと……怒らないの?」
「馬鹿云え。これは俺の判断ミスが原因だ。適材を適所に配置できなかった俺の責任だ」
こめかみを掻いて、「先輩にこっぴどく絞られた」と、ばつの悪い顔をする。
287: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:01:02.03 ID:s8phhYh5O
綿密な戦略が必要なのだと、Pは思い知らされた。
「それに、下手をすれば……急くあまり、お前の心を折ることになってしまうかも知れなかった」
すまないことをした、とPは目を伏せ、凛に詫びた。
288: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:09:37.09 ID:s8phhYh5O
・・・・・・
289: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:10:04.87 ID:s8phhYh5O
凛は鞄を一度置いて、形の良い人差し指を顎に添えながら思案に耽る。
「んー、最初さ、麗さんに見てもらったとき、存在を表現することが気に入ったんだよね」
アイドルの世界に踏み込もうと決心した、あの日のことだ。
290: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:10:32.72 ID:s8phhYh5O
その言葉を手帖に書き留め、
「なるほどな。それじゃあ、ステージに立つ方向で試しにやってみようか」
Pは、パタンと閉じてから、視線を向けて問うた。
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