2: ◆tXSQ21DKYs[sage]
2015/12/11(金) 01:59:05.39 ID:wxXgwuIMo
「遠慮せずにくつろいでね」
穂乃果は唐突に訪れた私に嫌な顔一つ見せずに招きいれてくれた。
六帖ほどの小さな部屋。意外と整理整頓されていた。あまりじろじろ見るのも悪いと思い、中央に置かれたミニテーブルの前に座る。穂乃果は、一人キッチンへと向かっていた。
3: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 01:59:48.97 ID:wxXgwuIMo
「はえー……。やっぱり真姫ちゃんは大人だねぇ」
「……そうかしら?」
大人が、突発的な衝動に駆られて家を飛び出したりするだろうか。
4: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:00:57.71 ID:wxXgwuIMo
軽やかな音と共に、深く沈んでいた意識が浮上する。まどろみのなかで優しく響く音色は、どこか懐かしさを感じさせる。
ゆっくりと目を開ける。ぼやけた視界を二度瞬きすることで修正する。薄暗い部屋。窓から差し込む光だけが、唯一の光源だった。
欠伸を漏らしながら上体を起こす。被っていた布団がずり落ち、ひんやりとした空気に一つ身震いを起こす。枕元の目覚まし時計は午前8時過ぎを指していた。
5: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:01:24.29 ID:wxXgwuIMo
きっかけはなんだったか。夏休みだといっても部活や生徒会の業務はあって、穂乃果は生徒会の方に追われていたはずだ。
生徒数が増えたことに関するあれこれ。新学期に向けての雑務は山ほどあったようで、生徒会だけでなく、教師達もばたばたしていたのを覚えている。
私はアイドル研究部の練習が終わったら、学校に残っていることが多かった。音楽室でピアノを弾いたり、図書室で課題をやったり。練習と勉強の比率が逆転しただけで、休み前と特に変わりない生活だった。
6: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:01:56.74 ID:wxXgwuIMo
「そうだねぇ。練習はずっとしてたよ」
もそり、とジャムとバターの乗ったトーストをかじる。口内にわずかなしょっぱさとイチゴの甘味が広がっていく。
やはり穂乃果は、独学で練習していたようだ。独学、といっても今の時代ある程度の情報は手に入る。変な癖もついていないようだったし、ちゃんとした練習を積んだのだろう。
7: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:02:22.47 ID:wxXgwuIMo
「それで、今日はどうするの?」
トーストを牛乳で流し込んだ穂乃果がいう。今日は日曜だったか。
取り立てて、何がしたいというわけでもない。突発的な家出で、何か考えがあるわけではなかった。
8: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:03:18.80 ID:wxXgwuIMo
μ's解散に対する後悔はない。だけど、どこかで続けていたらと考えてしまう。
もうスクールアイドルと名乗れない立場になってしまったからこそ、そう思ってしまうのか。
現状に不満はない。いや、あるにはあるが、嘆くほどではない。ただただ、不安なのだ。
9: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:03:55.90 ID:wxXgwuIMo
「やっぱり、真姫ちゃんのピアノはいいね。とっても素敵」
一曲弾き終えると、いつの間にか隣に座っていた穂乃果が拍手をしてくれる。
少し、複雑だ。穂乃果の賞賛を受けられるほどの演奏だっただろうか。
10: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:04:27.97 ID:wxXgwuIMo
穂乃果と連れ立って外を歩く。
今日一日だけ穂乃果の服を借りることにした。そもそも寝巻きで家を飛び出してきたからそうするしかなかった。
丈が少し短いが、まぁ許容範囲だろう。
11: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:05:11.67 ID:wxXgwuIMo
忘れていた。
目の前にできた人の列を見てため息をつく。
「あ、ありがとうございます! 一生大事にします!」
12: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:05:43.93 ID:wxXgwuIMo
「お疲れ様」
「ん、ありがと」
エスカレーター付近に設置されたベンチで休息を取る。穂乃果が自販機で買ってきてくれたジュースで喉を潤す。
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