13: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:06:20.07 ID:wxXgwuIMo
「穂乃果は、アイドル続けようとは思わなかったの?」
穂乃果がスクールアイドルを引退してから、ずっと気になっていたことを口にする。
穂乃果は自身の進路についてほとんど口にしなかった。いつも能天気に振舞って、だけど準備だけはしていて。
14: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:07:03.87 ID:wxXgwuIMo
「私、一人じゃなんにもできなかったからさ。だから海未ちゃんとかことりちゃんとかに頼ってばっかりで」
「それが普通じゃない? 一人でなんでもできる人なんていないわ」
「そうかもね。皆に頼って、皆の力を借りて。それで、なんていうか、自信がついたのかな」
15: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:07:33.46 ID:wxXgwuIMo
お昼ごはん。フードコートの一角でハンバーガーを齧る。エビカツの甘味とタルタルソースの酸味、キャベツのシャキシャキとした食感が口の中で混じりあう。
味はそこそこ。美味しいが、予想の範疇を超えない。チェーン店なんてそんなものかもしれないが。
ちらりと対面を見る。そこには当然同じようにハンバーガーを口にする穂乃果が居て、楽しそうにニコニコと笑みを浮かべている。
16: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:08:19.07 ID:wxXgwuIMo
目的を済ませ、ついでに夕飯の買い物をして穂乃果の家に戻る。
日はすでに傾き始めていて、その光を徐々に赤く染めつつある。生ぬるい風がひんやりとしたものに変わり部屋の中を通り抜けていく。
「そんなところで寝たら風邪引くよー?」
17: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:09:36.32 ID:wxXgwuIMo
私が穂乃果の家に寝泊りするようになって三日が経った。
特別、変わったことはない。朝起きて、バイトへ向かう穂乃果を見送って、何をするでもなく過ごす。
だらけた生活。家主たる穂乃果は家事を手伝えとも言わず、ただただ私は世話になっている。
18: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:10:07.31 ID:wxXgwuIMo
「久しぶりだな、真姫」
いきなりのラスボスである。こんなの聞いてない。
「……ええ、久しぶりね、パパ。元気だった?」
19: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:10:38.84 ID:wxXgwuIMo
「では、何が不満だったんだ? 家を飛び出すほどだ。何かあるんだろう」
「それは」
不満を持たれているのはわかっている。が、その不満が何から来ているものかわかっていない。
この人にとって、私が飛び出したのは癇癪以外のなにものでもないわけだ。いやそれはそれで正しいのだけれど。
思えば、私はこの人のことをよく知らない。小さい頃から家を空けていることが多かったから。同時に、この人も私のことをよく知らないのだろう。
20: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:11:04.33 ID:wxXgwuIMo
ああ、そうだ。私は結局、穂乃果に劣等感を抱いているのだ。
それは同時に憧れでもある。
穂乃果はいつも私よりも前にいて、一緒に行こうと手を差し伸べてくれる。
21: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:11:44.55 ID:wxXgwuIMo
考えるのを止めよう。
自分が何のために生きているのかを真剣に考察し始めて、いよいよ迷走している。
思考停止するわけでも放棄するわけでもないが、少し休むべきだ。
22: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:14:12.87 ID:wxXgwuIMo
「穂むらを継ぐのも、考えなかったわけじゃないよ。長女だし、継ぎたくないわけじゃなかったしね」
「じゃあ、どうして?」
「私は何をしたいんだろうって考えたときに、一番に思い浮かばなかったんだよね。穂むらを継ぐのもありだなぁとは思ったけどね」
23: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:14:51.09 ID:wxXgwuIMo
トマトの赤い実をフォークで刺しながら、トマト農家になるのもありかもしれない、なんて考える。
なれるかどうかはともかく、なろうと思えるものを見つける必要がある、例えそれが、幼い子供のように単純なものであっても。
つまり、夢だ。人生を捧げる夢が必要なのだ。
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