1: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:00:23.83 ID:vxIFxQsM0
モバマスssです。
地の文有ります。
ファンアートです。
誕生日おめでとう。
SSWiki : ss.vip2ch.com
2: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:01:53.48 ID:vxIFxQsM0
この世界で一体どれだけのひとが、運命の出会いというものを信じるだろうか。
仮にそれが存在したとして、自分が巡り合える確率は、どれほどのものなのだろうか。
3: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:03:43.81 ID:vxIFxQsM0
アイドル。それは、女の子が憧れるものの一つ。歌って踊って、ファンに夢を届ける、天使のような存在。
前線で活躍するアイドルはもちろん、まだ表舞台に立ったこともないアイドルの卵達は、日々研鑽を積む。
4: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:06:27.01 ID:vxIFxQsM0
あの夜のことは、いまでもはっきりと覚えている。
5: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:07:36.12 ID:vxIFxQsM0
せっかく自分の夢を叶えられる仕事に就いた、そのはずだった。
人気のしない夜道をひとり帰りながら、自然に溜め息が漏れる。
6: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:10:08.98 ID:vxIFxQsM0
大手芸能プロダクションに勤めて数年、プロデューサーとしての実力も漸く身についてきた。
担当したアイドルも、B級にまでなら安定してランクを押し上げてやれるほどには、なった。
ここに至るまでの過程で、自分なりのアイドル育成論のようなものも確立できたし、競争の激しい業界でも、少しは名前が通るようになった。
7: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:13:14.34 ID:vxIFxQsM0
俺は、数多存在するアイドルの中で、頂点を取るアイドルを育ててみたかった。
いわゆる、"トップアイドル"と称されるものだ。
そのアイドルのプロデューサーとして、一番近い位置で、頂に君臨する瞬間に立ち会いたかった。
8: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:14:02.98 ID:vxIFxQsM0
「アイドル、とっても楽しかったんですけど、私じゃきっと、プロデューサーさんの意には沿えないから」
9: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:18:32.64 ID:vxIFxQsM0
数時間前に聞かされたセリフがフラッシュバックする。
担当していたアイドルに話があるといって呼び出されて、聞いてみればこれだった。
10: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:20:37.48 ID:vxIFxQsM0
彼女をプロデュースしながら、俺は不安になった。
だけど、たった一人、傍で彼女を支えられる俺が逃げ腰になってはいけないと思い直し、弱音は飲み込んだ。
11: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:22:22.68 ID:vxIFxQsM0
普通なら中断させるほどのペースで、彼女はレッスンをこなした。
この娘なら、トップを狙えるかもしれない。
そう思えたからこそ、俺はすべてをかけて彼女を応援した。
12: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:23:40.62 ID:vxIFxQsM0
このところ、出会った当初に見せてくれた、花のような笑顔を見ることがなくなっていた。
嬉々として聞かせてくれた趣味の話も、ぱったりと途絶えていた。
13: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:26:01.46 ID:vxIFxQsM0
自分の靴音だけがいやに響く路地を歩きながら、俺はさっきから同じことばかりを考え続けている。
俺は彼女に、満足な指導やプロデュースを行えていたのか、ということ。
14: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:26:26.26 ID:vxIFxQsM0
『私じゃきっと、プロデューサーさんの意には沿えないから』
15: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:29:38.60 ID:vxIFxQsM0
彼女はたしかにあのとき、俺の意に沿えないと、そう言った。
暫く愕然として、思わず足まで止まってしまう。
16: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:30:25.95 ID:vxIFxQsM0
自分の脈拍が、急にうるさく聞こえてくる。
時折顔を撫でるように吹く夜風が、背筋から急速に熱を奪う。
17: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:31:29.12 ID:vxIFxQsM0
どうしてこうなったんだろう。
こんなことがしたかったわけでもないのに。
18: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:32:36.20 ID:vxIFxQsM0
その夜は、月が鮮明に見えた。
環境音すらも闇夜に吸い込まれてしまったかのように、辺りは静かだった。
19: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:34:22.66 ID:vxIFxQsM0
物事を審美するときに、美しいという言葉を使うのは無粋であると、俺はそう思う。
必要なのは、その美しさがどのような類のものなのかであり、それこそ美しいという言葉を用いずに、いかに美しいかを批評するかが有意であると、俺は考えていた。
20: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:36:10.54 ID:vxIFxQsM0
のあ「……貴方」
永遠とも感じられる沈黙を破って、彼女が口を開いた。温度を感じさせないその表情に見据えられて、我に返る。
21: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:38:15.55 ID:vxIFxQsM0
反射的に手を目元に持っていくと、涙が一筋、頬を伝っている。
実際に触って確かめるまでもなく、視界の滲みから泣いていることなんてわかりきっている。
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