12: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:23:40.62 ID:vxIFxQsM0
このところ、出会った当初に見せてくれた、花のような笑顔を見ることがなくなっていた。
嬉々として聞かせてくれた趣味の話も、ぱったりと途絶えていた。
13: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:26:01.46 ID:vxIFxQsM0
自分の靴音だけがいやに響く路地を歩きながら、俺はさっきから同じことばかりを考え続けている。
俺は彼女に、満足な指導やプロデュースを行えていたのか、ということ。
14: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:26:26.26 ID:vxIFxQsM0
『私じゃきっと、プロデューサーさんの意には沿えないから』
15: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:29:38.60 ID:vxIFxQsM0
彼女はたしかにあのとき、俺の意に沿えないと、そう言った。
暫く愕然として、思わず足まで止まってしまう。
16: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:30:25.95 ID:vxIFxQsM0
自分の脈拍が、急にうるさく聞こえてくる。
時折顔を撫でるように吹く夜風が、背筋から急速に熱を奪う。
17: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:31:29.12 ID:vxIFxQsM0
どうしてこうなったんだろう。
こんなことがしたかったわけでもないのに。
18: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:32:36.20 ID:vxIFxQsM0
その夜は、月が鮮明に見えた。
環境音すらも闇夜に吸い込まれてしまったかのように、辺りは静かだった。
19: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:34:22.66 ID:vxIFxQsM0
物事を審美するときに、美しいという言葉を使うのは無粋であると、俺はそう思う。
必要なのは、その美しさがどのような類のものなのかであり、それこそ美しいという言葉を用いずに、いかに美しいかを批評するかが有意であると、俺は考えていた。
20: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:36:10.54 ID:vxIFxQsM0
のあ「……貴方」
永遠とも感じられる沈黙を破って、彼女が口を開いた。温度を感じさせないその表情に見据えられて、我に返る。
21: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:38:15.55 ID:vxIFxQsM0
反射的に手を目元に持っていくと、涙が一筋、頬を伝っている。
実際に触って確かめるまでもなく、視界の滲みから泣いていることなんてわかりきっている。
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