過去ログ - 夕美「スーツケース」
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6: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 19:55:26.80 ID:WOjo7pAA0
そう控えめに笑いかけると、店員さんは「そっか。ごめんね」と言って花苗を元の場所にそっと戻した。

時計を見ると、あの人との待ち合わせの時間。店員さんに、軽くお辞儀をしてから、私は待ち合わせの花壇に向かった。

蛇の目は、いつまでも、私の背中を睨みつけていた。
以下略



7: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 19:56:14.64 ID:WOjo7pAA0
手荷物が多いからと、普段からスーツケースを鞄のように使う人だったけど、あそこまで詰め込まれたのを今まで私は見た事がない。

それだけ、今回の移動は長距離になるという事だろう。

「それじゃ、歩こっか」
以下略



8: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 19:57:22.68 ID:WOjo7pAA0
賑やかに会話を交わす人々の波に乗って、私たちは駅前を離れていった。

途中で何回か私から話しかけたり、あの人から話しかけられたりもしたけど、全て人々の喧噪に吸い込まれた。

ようやく落ち着いて話せるようになったのは、駅前の並木道を抜けた当たり。
以下略



9: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 19:58:19.03 ID:WOjo7pAA0
「なんで、黄色なんだろうね」

「さぁ……? あんまり混んでなさそうだし、ここで休憩しよう」

「うん。そうしよっか」
以下略



10: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 19:59:48.82 ID:WOjo7pAA0
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」

男性はこちらに気づくと手を止め、笑みを浮かべながらしゃがれた声で私たちを促した。

その声に導かれるまま、私たちは窓際の二番目のテーブルに向き合って座る。
以下略



11: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 20:00:43.86 ID:WOjo7pAA0
「俺は決まったけれど、夕美は?」

「あたしは……あたしも、一緒ので大丈夫」

店員さんを呼んで、Pさんが「コーヒー2つ」と頼んだところで、私はメニューを置いて外を眺め始めた。
以下略



12: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 20:01:54.96 ID:WOjo7pAA0
時間が止まってしまったかのような静寂にヒビを入れるかのように、私とPさんの前にコーヒーが並べられた。

私のコーヒーからは、カラメルのような甘い香りが白い湯気と共に漂っている。

対するPさんのコーヒーは、重厚でこうばしい香りを発散させていた。
以下略



13: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 20:03:22.38 ID:WOjo7pAA0
「なんだか悪いことしちゃったな」

そう言ってコーヒーを一口すするPさん。

私も角砂糖を一つ落としてから、控えめにカップに口をつけると、強い甘みが口の中いっぱいに広がった。
以下略



14: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 20:04:48.97 ID:WOjo7pAA0
まだ事務所が小さく、私以外のアイドルは数人しかいなかった時代。

事務所の中では、Pさん以外のプロデューサーさんがバタバタ忙しそうにしていて、落ち着いて打ち合わせをできないからと、よく事務所近くの喫茶店に誘ってくれたものだ。

その頃は、彼と同じコーヒーを頼んで、苦い思いをする時もあった。
以下略



15: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 20:05:58.30 ID:WOjo7pAA0
空になった二つのカップと、黄色のチューリップが乗ったテーブル。

Pさんは会計を済ませるため、スーツケースを引いて先にレジへと向かっている。

椅子を引いて立ちあがろうとした時、カップの奥底に、何か文字が刻まれている事に気がついた。
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16: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 20:07:23.07 ID:WOjo7pAA0
それからは何をするでもなく、ただ街中を歩いた。

一つ買い物をするだけでも、一人かそうでないかで時間の過ぎ方は全然違って。

私がいいなと思った服と、Pさんがそう思った服が実は一緒で、お互いに笑いあったりもした。
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