1:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:33:27.44 ID:6D4QUdRpo
楓「ただいま〜……」
美優「楓さん?おかえりなさい。珍しいですね、こんな早くに帰ってくるなんて」
楓「ええ、まあ。2次会が始まる前においとましたので」
美優「迎えに行くって言ったのに」
楓「色々あったんですよ」
美優「それと、その……後ろにあるおっきな荷物は?」
楓「ふふふ、なんだと思いますか?たぶんびっくりすると思いますよ」
美優「はあ」
楓「とにかく、これ重たいので運び入れちゃいますね」
美優「え?……楓さん待ってください、それウチに置くんですか?」
楓「そのつもりですけど」
美優「いきなりそんな大きいもの持ってこられても困ります。だいたい、置く余裕ありませんよ。ただでさえ狭いのに」
楓「まあまあ」
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2:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:34:58.43 ID:6D4QUdRpo
不満げに見つめる美優をよそに、楓はその大きな箱を重そうに持ち上げた。
楓「あら。このままじゃ私そっちに行けませんね」
アパートの狭い玄関を高さ160cmはありそうな直方体が占領した。
3:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:35:46.97 ID:6D4QUdRpo
思わず悲鳴を上げてしまいそうなほどよく出来た人形である。
「っ!」
驚いて声が出そうになるのを手で押さえる。
4:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:36:15.62 ID:6D4QUdRpo
美優は何か言おうとしたが、すぐに呑み込んで、代わりに大きく溜息をついた。
楓が勤めている会社の非常識は今に始まったことではないのだ。
まともそうな外見をしているわりに中身が適当でいい加減なところは楓とそっくりである。
突拍子もない事で驚かされるのはいつものことだった。
5:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:37:19.43 ID:6D4QUdRpo
……楓がシャワーを浴びている間、美優はリビングのソファに行儀良く座っている蘭子をじっくりと眺めていた。
生きているみたい、と思う。
というよりも、最初にこの人形を"人形"だと判断したのが不思議なくらい、見た目は人間の子供そのものだった。
6:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:38:08.93 ID:6D4QUdRpo
(関節があるってことは、つなぎ目とかもあるのかしら)
指先や肘、肩を触って調べてみたが、それらしいパーツは見当たらない。
そうして蘭子をぺたぺたと触っていると、不意に、美優は気づいてしまったように顔を赤らめた。
7:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:38:41.56 ID:6D4QUdRpo
寝巻きに着替えた楓はソファに寄りかかって蘭子の髪を弄っている。
楓「……もちろん、下半身も全部女の子ですよ」
美優「へ〜、本当によく出来てるんですねえ」
8:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:40:37.66 ID:6D4QUdRpo
楓「これはwebのアクセス認証用紙ですよ。ちょっとパソコンお借りしますね」
デスク型の量子基盤は旧世代の電子コンピュータと区別してQPC(Quantum Personal Computer)と呼ぶのが通称だが、現代においてPCやパソコンと言えばこの量子基盤を指す場合が多いため、わざわざQPCと呼びにくい名称を使う人は稀である。
またQuantumとあるが、大戦以前にあった量子コンピュータのモデルとは全く異なるという事を付け加えておく。
9:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:41:42.66 ID:6D4QUdRpo
◇ ◇ ◇
翌朝、楓は美優の小さな悲鳴で目が覚めた。
楓「どうかしましたか……?」
10:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:42:26.20 ID:6D4QUdRpo
美優「な……な……!?」
楓「あ、目を覚ました」
楓はニコニコと微笑みながら蘭子を正面から見つめ返した。
11:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:44:01.89 ID:6D4QUdRpo
食卓を3人で囲んで、1人は朝食を美味しそうに食べ、1人は挙動不審にチラチラと横を見やりながら危なっかしく箸を運び、1人は椅子に座っ
たままじっと目を伏している。
美優「ら、蘭子……ちゃん?」
12:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:45:21.28 ID:6D4QUdRpo
楓「……えー、まず所有権ですが、私と美優さんの共有財産ってことになります。二人まで登録できますので、まあいわゆる親権、みたいな感じですか」
見やすいように拡張されたPCのスクリーンに細かい規約がびっしりと書かれている。
蘭子と美優は講義を受けるような格好でちょこんと座ってそれらを仰ぎ見ていた。
13:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:46:52.55 ID:6D4QUdRpo
楓「取説はあらかじめ美優さんのIDOLに同期しておきました。ドールについて分からない事があればIDOLで調べれば問題ないかと思います」
IDOL(Individuals Databasing Of Lingo)とはポータブル式の量子基盤である。
旧世代における携帯電話と同じような形をしており、用途も似たようなものだが、本質は似て非なるものである。
14:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:47:36.10 ID:6D4QUdRpo
美優「蘭子ちゃんは、そのうちしゃべったり動いたりするんですか?というか……成長とか、するんですか」
楓「はい。まあ私たち次第でしょうけれど」
美優「というのは?」
15:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:48:37.52 ID:6D4QUdRpo
楓「確かに値段は張りますけど、安いのもあるんですよ。実際、会社の先輩にもローンを組んで飼ってる人いますし」
美優「飼うって、もうそれペットじゃないですか……」
楓「言葉のアヤです」
16:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:49:30.41 ID:6D4QUdRpo
美優はしばらく楓からドールについて説明を受けた。
曰く、食事や風呂、排泄などは気を使う必要がない。
曰く、外見は14歳の少女だが精神や意識が適齢に育つのは時間がかかる。
曰く、怪我や病気(故障)した場合、メーカーへ迅速に問い合わせる事。
17:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:52:15.42 ID:6D4QUdRpo
◇ ◇ ◇
美優と楓が同棲を始めてから1年と少し経つ。
18:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:53:09.94 ID:6D4QUdRpo
蘭子はしゃべりかけても正面を向いたまま反応らしい反応を見せない。
美優(中身はまだ赤ん坊みたいなものだって言ってたし、私の話は全然理解できてないんだろうな)
そうだと分かっていても、美優はなぜかそうしなければならないような気がして、自分の話をし続けた。
19:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:54:22.40 ID:6D4QUdRpo
顧客との販売取引、郵送連絡、仕入れの確認、納期の調整、卸問屋のチェック、その他雑用をこなしていると、いつの間にか夕方になっていた。
凝った体を伸ばしながら蘭子の様子をうかがう。
相変わらずテレビをじっと見ているが、番組はローカルニュースに切り替わっていた。
無意識に揺れる蘭子の瞳にテレビの淡い光がチラチラと反射している。
20:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:55:01.87 ID:6D4QUdRpo
……日が暮れてしばらく、楓が帰宅して真っ先に目撃したのは、床に散らかった数々の衣服だった。
楓「ただいま……美優さん?」
奥の部屋から「おかえりなさい」という返事。
21:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 03:56:18.76 ID:6D4QUdRpo
美優「あとは髪型がもうちょっと……あ! あと靴も揃えないと……」
再び化粧台の前に座らせ、美優は1人でブツブツと呟きながら蘭子の銀髪を櫛で梳いている。
楓「美優さん」
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