188:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:21:16.10 ID:Yv50vCTj0
水中が好きだ。
特に海の中は最高だと思う。
僕は水深二メートル位の場所に肺に入った空気を全て吐き出し海底の砂の上に座り込む。
ゴーグル越しに見る海中の世界は海上の世界とは全てが違って見えた。
189:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:22:05.02 ID:Yv50vCTj0
とにかく全てが心地よい。
耳からの音。
海面からの光。
仄暗い海の色。
目の前にある鼻からワカメを出した信一…。
190:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:23:04.83 ID:Yv50vCTj0
僕は海から上がると奈緒がいるパラソルの下に入った。
「ああ〜疲れた〜」
携帯を弄っている奈緒が黙ってコーラの入ったペットボトルを渡してきた。
191:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:24:39.81 ID:Yv50vCTj0
奈緒は僕をチラッと見ると携帯を弄るのを辞めそれを置いた。
海からの風が心地よい。
ここは余り海水浴客がいない。入り江になっていて波も穏やかで透明度も高く砂浜も綺麗だから超穴場スポットだ。
だが、やはり夏休みなのでそこそこに海水浴客がいた。
192:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:25:31.15 ID:Yv50vCTj0
「はあ?!怒ってねえよ!俺が怒ったらアメリカ人女性ばりに唾を吐いて話も聞かずに海の水飲むわ!」
「…何それ?」
「…何か雰囲気だ」
そう言って手元のコーラを飲んだ。そして吐き出した。
193:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:26:18.04 ID:Yv50vCTj0
「…うるせえよ」
僕は何故かその奈緒の姿から目を逸らしてしまった。
「でも…変わった…かな?」
194:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:27:17.16 ID:Yv50vCTj0
「中学入学した時にさ、クラスで中学生活の目標とか言わされたじゃない?」
「ああ…なんかあったな」
「あの時皆は『部活をがんばる』とか『勉強をがんばる』とか言ってたのに達矢一人だけ『水泳で日本一になります!』って言って皆が笑ったじゃん」
「マジで?俺そんなん言った?」
「言ったよ…皆があの瞬間にアンタの事を馬鹿って認識したらしいよ」
195:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:28:03.82 ID:Yv50vCTj0
「達矢の成績じゃ絶対に無理って言われてたもんね」
「合格発表の時の先生達の顔が面白かったわ」
「おばさんとおじさんが泣いてたよ」
「ウチの母ちゃんがアレで一瞬宗教に嵌り掛けたのがやばかった」
「奇跡って騒いでたもんね」
196:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:29:56.67 ID:Yv50vCTj0
「でも、凄いよホントに」
奈緒の言葉に僕は口を閉ざした。
凄い…か。
お前の父親の方が凄い…僕はそう言いかけていた。
197:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:31:20.07 ID:Yv50vCTj0
あの日から全てが遠い世界に行ってしまった気がする。
あの日までは、もう少し…あと少しで届くと思っていた。
でも、それは違ったんだ。
『限界』
その文字が頭に浮かんでしまっていた。
204Res/130.28 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。