1:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:38:57.97 ID:aK0UkAGEo
モバマスSSです。 
 かえみゆです。 
 アーシュラのSF小説やサガフロ2と内容は関係ありません。
SSWiki : ss.vip2ch.com
2:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:40:00.94 ID:aK0UkAGEo
 「たくさん星を数えた方が勝ちです」 
  
 ガラス張りの天井の遥か向こうに広がった作り物の星空を指差してあなたは言った。 
  
 今日は年に一度の宇宙展覧会で、私たちの住む街では大勢の人がこの日を楽しみに暮らし、 
3:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:40:35.68 ID:aK0UkAGEo
 この年に一度のイベントは、大半の人にとっては祈りを捧げたり家族で過ごしたりするための大切な日でもある。 
 とはいえ、私と一緒にこの日を祝うためだけにあなたが無理矢理スケジュールを調整したと聞いた時は、 
 なんだか悪いことをしてしまったみたいで素直には喜べなかった。 
  
 あなたはこの街で一番の有名人で、望めば私なんかよりもっと素敵な人たちと楽しい人生を過ごせるはずなのに、 
4:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:41:18.09 ID:aK0UkAGEo
 ◇◆◇◆ 
  
 街は相変わらず夜の静けさに満ちていた。 
  
 私は人工星から降り注ぐ僅かな光を頼りにして、暗闇の先へ進んでいくあなたの後ろに付いて歩いていた。 
5:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:41:53.44 ID:aK0UkAGEo
 「遠くまでよく見えますね。こんな場所があったなんて知らなかった」 
  
 「私は子供の頃、よくここで天然の星を見ていました。今はもう人工星しかないけれど、昔はもっとたくさんの天然星たちがこの夜空を覆っていたんですよ。例えばあの地平線にだって無数の星が輝いていたんですから」 
  
 展覧会のために打ち上げられるロケットは普通、空の限られた部分にしか星を作らない。 
6:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:42:29.18 ID:aK0UkAGEo
 小さな火の玉が地平線の彼方へ落ちていった。 
 宇宙の暗闇に飲み込まれるように、それは次第に光を失って消えていった。 
  
 「本物の流れ星ですよ」 
  
7:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:44:54.58 ID:aK0UkAGEo
 ◇◆◇◆ 
  
 テレビを見ていた。 
  
 『――本日のゲストはこの方、高垣楓さんにお越しいただきました!』 
8:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:45:36.01 ID:aK0UkAGEo
 仕事から帰り、アパートの自室で夕飯の支度をしていると、玄関のベルが鳴った。 
 あなただとすぐに分かった。 
  
 「どうしたんですか?」 
  
9:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:46:24.23 ID:aK0UkAGEo
 ◇◆◇◆ 
  
 季節の巨大なうねりが街を支配するようになってどれくらい経っただろう。 
  
 一昨日は秋の終わりだった。 
10:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:48:10.01 ID:aK0UkAGEo
 夕闇に静まり返った大通りの靴屋は閉店時間ギリギリだった。 
 店員さんがカーテンを閉めている最中で、私たちは遠慮がちに中へ入って行った。 
  
 二人でブーツを選んでいると店内の照明がパチ、パチと消えて、私たちのいるレディースコーナーだけが煌々と照らされた。 
  
11:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:49:14.81 ID:aK0UkAGEo
 ◇◆◇◆ 
  
 バスに乗って隣の第三地区へ向かった。 
 雪がみるみるうちに積もって夜の景色を白と影の平坦な模様に変えていた。 
  
12:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:50:22.22 ID:aK0UkAGEo
 しばらく歩くと、人気のない自然公園に出た。 
 大きな池があり、そのほとりには短い秋季のために枯れ切らなかった広葉樹が雪を被ってうなだれていた。 
  
 遊歩道の景観照明にライトアップされた白い雪の花は満開の桜並木のようだった。 
 私たちは思わず息を潜めてそこを歩き過ぎた。 
13:名無しNIPPER[saga]
2016/11/27(日) 09:35:49.82 ID:zJemO0Izo
 ◇◆◇◆ 
  
 思えば、あなたほどの有名人が隠れ家を持っていないわけがなかったのだ。 
  
 「何も置いてないのね。テレビもラジオも……」 
14:名無しNIPPER[saga]
2016/11/27(日) 09:36:40.98 ID:zJemO0Izo
 その日、私は従順の殻を脱ぎ捨て、余計なものを一切排除した純粋な愛の巣であなたと二人きりの夜を過ごした。 
  
 私は熱に浮かされたようにあなたを求め、そんな私をあなたは行為で満たしてくれた。 
 空調の効いたベッドルームで、次第にどっちがどっちの体温か分からなくなるほどに。 
  
15:名無しNIPPER[saga]
2016/11/27(日) 09:37:20.27 ID:zJemO0Izo
 「季節予報、はずれちゃいましたね」 
  
 先に目を覚ましたあなたがカーテンの隙間から外を覗き込んで言った。 
  
 私はまどろみつつ半身を起こし、暖かな朝日が差すあなたの横顔の、そのまぶしいシルエットをぼんやり眺めていた。 
16:名無しNIPPER[saga]
2016/11/27(日) 09:38:09.59 ID:zJemO0Izo
 ◇◆◇◆ 
  
 「これ、どこまで続いてるのかしら? もうだいぶ歩いて来たけど……」 
  
 私は砂漠に沈んだ廃墟の群れを見渡して言った。 
17:名無しNIPPER[saga]
2016/11/27(日) 09:39:42.01 ID:zJemO0Izo
 「次はこのまま街の外周に沿ってぐるりと回って行こうかなって考えてるんですけど」 
  
 「道があればの話ですよね、それ」 
  
 実際、それぞれの地区が定めた地図上の境界線に意味はなかった。 
18:名無しNIPPER[saga]
2016/11/27(日) 09:40:33.51 ID:zJemO0Izo
 「……ねえ、楓さん」 
  
 「はい?」 
  
 「あの、あそこに見える建物……あれってもしかして、展覧会の打ち上げ基地じゃないかしら」 
19:名無しNIPPER[saga]
2016/11/27(日) 09:41:12.08 ID:zJemO0Izo
 「実はあれ、宇宙人の卵なんですよ」 
  
 あなたの口元はニヤついていた。 
 分かりやすいひと。 
  
20:名無しNIPPER[saga]
2016/11/27(日) 09:42:02.77 ID:zJemO0Izo
 ◇◆◇◆ 
  
 街へ戻ると、世界はもはや変化の兆しの手から逃れ始めていた。 
 崩壊はその指の隙間から溢れ出んばかりに表面化し、愛すべき幻視人たちは奔流する夢に飲み込まれ、 
 私たちが宇宙人のたまごへ近づくほどに変化は速度を増していった。 
21:名無しNIPPER[saga]
2016/11/27(日) 09:42:40.85 ID:zJemO0Izo
 打ち上げ基地のドームは近づけば近づくほど荘厳な印象を私たちの目に焼き付けていった。 
  
 タクシーを降りて管理センターの入り口まで歩いて行く間にも街は形をそのままに緩やかな崩壊を続けていたけれど、 
 あなたが言うところの宇宙人のたまごは依然としてそこに意味を留め、私たちの巡礼を厳かに見守っていた。 
  
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