78: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/09(金) 21:51:27.55 ID:9ecZiZ/N0
呼吸をすると胸が苦しくなった。
恋する乙女でもあるまいに。実際はそんな可愛らしいものではない。
苦しみは全くおさまらず、段々と息が切れてくる。
ぜえぜえ、と出る音をどうにか抑え、電車に乗ると頭痛を覚え始めた。
79: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/09(金) 21:54:32.65 ID:9ecZiZ/N0
「……クリスマスライブ、行くか」
いくら俺はプロデューサーではないとはいえ、幸子から遠ざかるのは嫌だ。
身を起こし、ジャケットを脱ぎ捨てパーカーを羽織る。
80: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/09(金) 21:56:26.82 ID:9ecZiZ/N0
開場が近くなり、ライブスペースへと向かうと、熱心なファンが幾人も列を作って待っていた。
その中の一人が、俺の顔を見て、手を振ってくる。
「おおっ! イイワカさん! 遅いじゃないですか!」
81: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/09(金) 21:59:38.60 ID:9ecZiZ/N0
やがて開場、そしてクリスマスライブの開演が訪れた。
『みなさん! カワイイカワイイボクの登場ですよ! メリークリスマース!』
声はスピーカーを伝って。
82: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/09(金) 22:02:57.26 ID:9ecZiZ/N0
「あぁ……なるほどなあ」
突然、理解できた。
どうしてこの男の部屋が幸子色に染められているのか。
83: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/09(金) 22:10:19.88 ID:9ecZiZ/N0
2016年12月9日。
次の世界で俺はプロデューサーへと戻っていた。
事務所には幸子がいる。
当たり前に思っていた景色をどこか他人事のように見てしまう。
84: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/09(金) 22:13:04.75 ID:9ecZiZ/N0
「……あー、俺、何かしたか」
幸子は「え」と目を丸くしたが、すぐさま、
「そ、そんな何でもないことみたいに言いますけど、プロデューサーさんがあそこまで頑張ってくれたこと、ワタシは嬉しかったんですよ」
85: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/09(金) 22:16:29.77 ID:9ecZiZ/N0
「何でもない。幸子にそう言ってもらえるなら、頑張った甲斐があったな」
「ホントですか!?」
途端に笑顔になる幸子が眩しくて、俺は思わず目を細める。
86: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/09(金) 22:17:48.50 ID:9ecZiZ/N0
「あぁ、ありがと――」
と、プレゼントへ手を伸ばそうとしたのだが、待て、俺よ。
頑張ったのは俺じゃない。
昨日の俺、この世界のプロデューサーだ。
87: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/09(金) 22:20:22.11 ID:9ecZiZ/N0
……あぁ、そうだ。
気付いてしまった。勘違いをしていたのだ。
今までの世界だって同じだ。
88: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/09(金) 22:24:33.39 ID:9ecZiZ/N0
「え、な、なんで……?」
幸子は笑顔から一転、涙で瞳を潤ませる。
「なあ、幸子」
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