1:名無しNIPPER[sage]
2017/01/20(金) 18:54:33.07 ID:n5zbXUjr0
「つっかまーえたー」
そんな声と共に目を覆われたのは、中学3年の9月のことだった。
よくおっとりしていると言われるが、下校途中にこんなことをされて何も感じないほど抜けてはいない。
それに、その時聞こえた声はよく知っているものだった。
「えらい長いこと顔も見せんといて、やっと帰ってきた思ったら……
まさかこないなことしてくれはるとはなぁ」
するりと抜け出して後ろを振り返ると、そこには周子はんが立っていた。
少し後ろには、すーつを着た男の人も。
「久しぶりに会ったのに普通文句から入る?
あー、しゅーこちゃん傷ついたなー」
「放蕩娘がこれくらいでどうにかなるなら苦労なんかしてまへん。
それで? 今日はわざわざ逃げ帰ってきたん?」
「ちゃんと働いてるってば! 幼馴染なのにひどいなー。
ちょっと見ない間にお腹が真っ黒になってるし」
「あらー? うちは真っ白どすえ?
少し見ない間に尻尾を振ることだけは上手になりはったみたいで」
「んー? キツネの方がタヌキよりはかわいいと思うよー?
それから、あたしは自分の心に素直なだけだし」
「愛嬌が足りてへんよー? しょせん狐七化け、狸八化けやしー。
わざわざ及ばんて自分で言うてくれてありがたいわぁ」
周子はんの後ろでは男の人が頭を押さえていた。
――このくらい、幼馴染なら普通ですやろ?
「変わってないねぇ、紗枝はんは」
「半年ちょっとで変わるわけありまへんよ」
「……そっか、まだ半年なんだねー」
そう言う周子はんの目は、どこか遠くを見ているようだった。
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2:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 18:55:11.60 ID:n5zbXUjr0
「っと、本題に入ろっかな」
周子はんがちらりと後ろを振り返る。
後ろに居た男の人が、周子はんの隣に並ぶ。
3:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 18:55:56.23 ID:n5zbXUjr0
――なんてことも、ありましたたなぁ。
目を開くと、照明の光に視界が真っ白になった。
明るさに徐々に慣れていくと、目の前にあるのは9代目しんでれらがーるの授賞式。
4:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 18:56:25.35 ID:n5zbXUjr0
「朝、か……」
隙間から差し込む光に、開いた眼を細める。
眩しさに手を翳して、すぐにその腕が布団の上に落ちた。
5:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 18:56:54.49 ID:n5zbXUjr0
朝食は食堂で和食を軽く適当に。まだ朝早いため、殆ど人が居なかった。
朝食を終えると、一旦部屋に戻って和服に着替えて外に出る。
駅の人混みの中を歩くのにももう慣れた。
6:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 18:57:59.44 ID:n5zbXUjr0
「おはようさんどす〜」
会議室にはもう周子はんとプロデューサーはんが居た。
プロデューサーはんの顔が引き攣っている。
7:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 18:58:33.36 ID:n5zbXUjr0
その後は、忙しい日々がずっと続いた。
周子はんの仕事はもっと多くなったけど、うちも今までにないほどの量を周子はんと一緒にこなしていった。
そこでは、9代目しんでれらがーる塩見周子とそのおまけ。
8:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 18:59:04.36 ID:n5zbXUjr0
最近、紗枝ちゃんがおかしい。
なにがって、優しくなったような気がする。
ここのところ激しく罵られた記憶がない、と思う。
9:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 18:59:33.04 ID:n5zbXUjr0
こうして話していても、いつも通りに感じる。
「パンケーキのお店見つけたんだけど、今度行ってみない?」
10:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 19:00:16.76 ID:n5zbXUjr0
「もうあれから1年半になるんだよね」
「周子はんが押しかけてきてからどすか? 懐かしいわぁ。
連絡一つ寄越さんといてのこのこ出てきはったなぁ」
11:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 19:00:52.77 ID:n5zbXUjr0
紗枝ちゃんを見送って呆然と立ち尽くしながらも、左手は無意識に画面を叩いてていた。
「なんでだろ。幼馴染で、お姉ちゃんで、ずっと一緒にいて、なのに……」
12:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 19:02:45.54 ID:n5zbXUjr0
いつものように事務所に来た。
今日はうちだけが呼ばれている。
ここで2時間話したのは現状の再確認のようなことだけ。
13:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 19:03:21.27 ID:n5zbXUjr0
「周子に言われるまで気づかなくてすまなかった」
「本音と建前なんて誰でも使い分けてますやろ?」
14:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 19:03:53.70 ID:n5zbXUjr0
「それは置いておくとして、解決策のひとつは紗枝が周子に追いつくことだ。
周子の人気が落ち着く前に並べば減衰を抑えて利益も大きくなるだろうし」
「正気どすか? まだあにばーさりーも終わってへんのに」
15:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 19:04:22.37 ID:n5zbXUjr0
「それで、方法は考えてあります?」
「任せとけ。伝手と権限は使うためにあるんだ」
16:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 19:05:18.14 ID:n5zbXUjr0
「紗枝はーん」
「あら、周子はん?」
17:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 19:06:08.17 ID:n5zbXUjr0
うちの前に立っているのは青木麗はん。
当初の竹刀を握って険しい表情をしていた面影は、今はもうない。
「小早川。そろそろやめないか」
18:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 19:06:40.95 ID:n5zbXUjr0
あにばーさりーらいぶの本番直前。
今年の主役はしんでれらがーるの周子はん、のはずだったけど。
その枠は『羽衣小町』として出ることになっている。
19:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 19:07:07.30 ID:n5zbXUjr0
うちらの出番は1曲目から。
すてーじに立ったら広い会場は青い光で満たされていた。
それも、今は関係ない。
20:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 19:08:06.04 ID:n5zbXUjr0
『花暦』https://youtu.be/onO6d5HCYQM
21:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 19:08:43.45 ID:n5zbXUjr0
赤と青の和服を着て、赤と青の傘を持って、すてーじの上で周子はんと並ぶ。
傘をくるくると回して、あちこちに振り回して、何度も何度も赤と青が交差する。
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