中野五月「あいまいでぃすたんす」
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32:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 22:06:38.75 ID:3G9LR2BY0
「……まあ、この時期にやたらめったら新しいものに手をつけるのは危険だとは分かってるんだけど、心情的に拠り所になるものがあると楽だからな」
「了解。しっかり届ける」
三玖がノートを鞄にしまい終えるのを確認してから、その場を離れる。思いの外手間取ってしまったというのもあって、図書室内の人影は既にまばらになっていた。おおかた、暗くなる前に帰路に就こうという魂胆の連中が多かったんだろう。
昇降口で緩慢に靴を履き替えて、外を眺める。
33:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 22:07:17.06 ID:3G9LR2BY0
「ほら、さっさと帰るぞ」
振り返って言う。ローファの踵がどうにも合わないらしくもたついている三玖を急かすために。
「え……?」
34:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 22:07:59.54 ID:3G9LR2BY0
「うん、付いてく」
言って、ようやくのこと立ち上がる。……けれど。
「それはサービス対象外なんだが」
35:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 22:08:26.44 ID:3G9LR2BY0
「いくらなんでもそれはねえだろ」
「せっかくだし」
「お前も損得勘定で動いてるじゃねえか」
この指摘で多少は離れてくれるかと思ったが、どうやら彼女の決意は俺の思う以上に硬いようで。
36:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 22:08:58.28 ID:3G9LR2BY0
「俺のどこが好きなんだ?」と正面切って言う胆力はなかった。自分の口で言うと認知を確定させてしまったようで悔しさが滲むというのもある。
しかし、これはずっと気になっていたことではあったのだ。男の趣味が悪いなーと漠然と感じはしていたが、そこに明確な理由付けがなされているのなら、聞いておきたい。敵と己を知って百戦百勝の構えだ。
「なぜってどういうこと? もっとはっきり聞いて欲しい」
「さてはお前分かってやってるな?」
37:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 22:09:38.38 ID:3G9LR2BY0
形勢不利と見たら取りあえず逃げる。兵法の基本だ。
俺がいつから戦争に参加していたのかは謎だが、ここは歩幅を大きく広げて、三玖の意識を歩行に割かせることに注力する。俺の脚の方が長いので、加減をやめれば歩行距離に差がつくのだ。
しかし、俺の権謀は虚しく散る。というのも、しばらく黙ってもらおうと思っていたのに、突然三玖が口を開いたからで。
「…………まさに、こんなところとか」
38:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 22:10:07.06 ID:3G9LR2BY0
完全に無意識なので、いきなり言われても困惑するしかない。確かに横並びで歩くことには慣れてきたけれど、そこに隠れた意図なんて一つも……。
「そういうところがあったかいなあって」
「……誰でもしてるだろそんなの」
「そういう素直じゃないところも」
39:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 22:10:45.99 ID:3G9LR2BY0
「人を好きになるって、要はそれでしょ?」
「それってどれだ」
「一つ『ここがいいなー』って思ったら、だんだん他のところにも目が向くようになるの。それで気が付いたら、その人の全部が好きになってる」
「……じゃあさ」
40:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 22:11:16.80 ID:3G9LR2BY0
いきなりの矛盾。自身の言葉を彼女本人が否定しにかかっている。
今の言葉から鑑みるに、何かしらの理由が必要不可欠なはずだった。それがないなら、今こうなってはいないって。
なのに当人がこの調子では、何をもってその発言が裏付けられるかが不明瞭になってしまう。
「押しに弱かったのかもね、私」
41:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 22:11:43.99 ID:3G9LR2BY0
俺なりに必死だったので仕方のないことだ。生活がかかっている以上、適当に投げるわけにはいかなかった。
結果として、大きく踏み込み過ぎたというのはあると思う。だがしかし、それで陥落するのはいくらなんでも耐性がなさすぎる。
「きっかけはたぶん、そんな感じ。こんなに近くに男の人がいるの、初めてだったから」
「引き運が悪くて残念だったな」
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