都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13

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278 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/10/26(金) 23:11:57.24 ID:6zDmIJsQo
乙です
リーディング系封じの設定はとてもいいなあと思いつつ、どう崩していくのかも楽しみです。
>>年端もゆかぬ少年黒服らしく、上位幹部(一桁ナンバー)により監禁に近い扱いを受けている

つまりMナンバーの上位組はショタ食いのお姉さま方ということに違いあるまい!
279 :次世代ーズ ハロウィン ◆John//PW6. [sage]:2018/10/28(日) 12:57:19.36 ID:gqpg7PQCo
 
>>278
ありがとうございます
今回の「海からやってくるモノ」の射程圏は
学校町全域が対象になっていますが果たして足りるのかどうか

Mナンバーについては……
出したいですね、お姉さん気質の女性黒服……


今日は週末の貴重な休日でしたが
不吉な呼び声により出勤が決定したため
>>268-274の続きは早くて今週木金曜の投下になりそう、です

ハロウィンの与太話を投げるのだ
280 :次世代ーズ ハロウィン ◆John//PW6. [sage]:2018/10/28(日) 12:59:56.20 ID:gqpg7PQCo
 


@ハロウィンタイム開始前

 コトリー「……」
 せと  「がんばるぞー」 ☜ キュートな感じのゾンビメイク

 コトリー「……」 ☜ 終始無言
 コトリー(みなさんごきげんよう……
      『ラルム』でアルバイトしてますの、コトリーと申しますの……)

 コトリー(ハロウィンの時期は賑やかなのですけど……なのですけどっ!!
      ……なぜだか学校町のハロウィンは気持ちがゾワゾワして不安になりますの……)
 コトリー「……」 チラッ

 JD先輩「よーしグヘヘ、思いのほかバッチリ❤」 ☜ 露出激しいサキュバスコス
 おばちャ「今日は私もホールでいいのかしらぁ」 ☜ 色々危ない狐娘コス
 せと  「限定メニューも店長の自信作なんですよね!」 ☜ いつもより若干テンション高い

コトリー(どうしてみんなやる気満々なんですのぉぉー!!ξ(˃︿˂)ξ )




Aハロウィンタイム中

コトリー「お待たせしました、アールグレイとシフォンケーキですの!」
リリン 「あ ありがとうございます」

コトリー「あらシノノメ様、可愛い角ですわね! ξ(ㆁ◡ㆁ)ξ」
リリン 「ありがとーございますー🌟
     ハロウィンセールの間はお店でもずっと付けてるんですよーコレー!」

リリン (こんにちは、隣町在住の『リリン』です)
リリン (私は心の声で私から私に語り掛けてます)
リリン (今、あたまからデコレーションした角が生えてるんですよー)
リリン (皆さんこれを飾りだって思ってるみたいなんですけどー、実はこれ自前なんですよー)
リリン (言ったら信じてくれるかなぁ……
リリン (……なーんて……  ほんとは言う度胸なんて、私になんか無いんですけどね…… ˃̣̣̥⌓˂̣̣̥)

コトリー「  」 ブルッ
コトリー(シノノメ様は『ラルム』の常連さんなんですけど、今日はいつもより不気味な雰囲気ですの……)
コトリー(いつもは落ち着いた大人の女性って感じの方なのですけど、これもハロウィンパワーなんですの……??)

コトリー「どうぞごゆっくりー」 ☜ 鉄壁の営業スマイル
リリン 「はいー…… どうもー……」 ☜ 何故だかテンションが下がっている




B業務終了後

コトリー「はふぅ」

コトリー(今日はいつもより疲れましたの……
     それもこれも絶対ハロウィンパワーの所為ですの……!)

コトリー(早渡さんもありすさんもかやべぇさんも来てくれませんでしたの……
     明日でもいいから来てほしいですのー……!!)

せと  「たまちゃん大丈夫?」
コトリー「いぴッ!!」
コトリー「あ゛っ! だだだ大丈夫ですの! 今日はいつもよりくたびれましたわね!」
せと  「何だか具合悪そうだよ、無理しないでね」 ☜ 心配そう

コトリー(不覚ですの! せとのゾンビメイクに一瞬心臓が変な音しましたのー……
     やっぱりこの時期は妙に苦手ですわー……)

店長  「みんなお疲れ様! どうかな! 明日のホールはメイド服で」 ☜ 満面の笑顔
せと   「嫌ですっ!!」 ☜ 真顔で即答
コトリー 「いやですの!! ξ(ㆁ-ㆁ)ξ」 ☜ 営業スマイルで即答
店長  「    っ 」 ☜ 笑顔のままキッチン方面へスライド後退


コトリー(皆さんもハロウィン、お楽しみ下さい! ですの!  ……はふぅ)


 
281 :次世代ーズ ハロウィン ◆John//PW6. [sage]:2018/10/28(日) 13:01:26.50 ID:gqpg7PQCo
 

■登場人物

コトリー
 「ラルム」のアルバイトさん、高一
 ホラーが嫌いというわけではないが、学校町のハロウィンは何故だか怖くて苦手

せと
 遠倉千十、「ラルム」のアルバイトさん、高一
 怖いモノ全般が苦手なはずなのに、ハロウィン時期はどこか楽しそう

リリン
 名前は「東雲クロワ」に決定した
 伝承存在「リリン」、非常に気が弱い
 普段は隣町のランジェリーショップの店員さん

JD先輩
 「ラルム」のスタッフ
 イベント時期は無理してでもシフトを捻じ込んでくる

おばちゃん店員
 「ラルム」のスタッフ、縁の下の力持ち

店長
 「ラルム」店長、隙あらばコトリー&千十にメイド服を着せようとするため警戒されている


 
282 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/10/28(日) 13:04:14.32 ID:gqpg7PQCo
ハッピーハロウィン

この数日後に早渡は地獄を見ることになる
283 :○前回の話 >>268-274 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:30:45.53 ID:zKSSrdQuo
 



「マヒル、お前に端末預けてたよなぁ? はよ」
「かぁクンちょっと待ってね」
「あーマジゴミだわ、ゴミカス、カスカス」


 グリングリンがその場へと乗り込んできたのは日付が変わって間もない頃だ
 横合いから聞こえる契約者共の談笑を無視
 彼は大量のモニターと機材に囲まれたピエロと白衣の女へと詰め寄った


「おい、ジョーの首尾はどうなってる」


 低く静かだか凄みのある声に白衣女はたじろいだ
 女の代わりにピエロ装束の男がグリングリンの前に出る


「現状、特に問題があった等の連絡はありませんが」

「チッ、それが大問題なんだ。身内に先走りやがった馬鹿共がいる
 大方焚き付けた連中がいるんだろうが……。しかも勝手に自殺まで始めやがって。気に食わねえ」


 グリングリンは銀色の眼光を鋭く女へと向けた
 白衣女は唐突に現れたこの長身ピエロに気圧されていた


「放火チームのことですか? あれは“自己終了処理”も含めてジョーからの直接指示ですよ」
「それも気に食わねえ、一遍ジョーと話させろ。ルーキーには繋がるだろ」


 グリングリンはピエロの肩を掴み脇へどけると女に構うことなく卓上の機材を乱雑に操作し始めた
 彼女とピエロは若干困惑気味に顔を見合わせた
 ヘッドセットを不適切に耳へ押し当てグリングリンはモニターの一つを睨む
 間もなくコネクション中のステータスから「Sound Only」のアイコンへと表示が変化した


『隊長、どうしました?』
「ルーキー、俺だ、グリングリンだ。ジョーと繋げ」
『えっ、グリングリン……? な、何か問題でも』
「いいからジョーと繋げ、問題も問題だ。あいつは何考えてんだ」
『しかし……、ジョーは既に“接続”を……』
「その状態でも放火の指示は出せたんだろ? 繋げ」
『えっ、あの……。しょっ、少々お待ちを』


 会話はヘッドセットだけでなく壁面据え付けのスピーカーからも響いていた
 そしてルーキーの焦った声色の後に音声は沈黙した


「“先生”、すいません! さっきの俺なんだわ。悪いって伝えといて!」


 突然の大きく響く声に白衣女の心臓は縮み上がった
 咄嗟に声の方向へ目を向ければ、「七尾」の問題児とその目付け役の少女だ
 グリングリンに悟られぬよう白衣女は何処かに通話中の問題児を黙らせるようジェスチャーを送るが
 肝心の少女がこちらを見ていない


「悪いって、さっきのは拾った携帯で間違えて掛けようとしただけだよぉ
 もち、任務はじゅんちょーじゅんちょー。悪いことは全然してないしぃ、俺ってばいい子だからあ
 だからぁ違うって、ほんとにぐうぜん拾った携帯なんだって。盗んでないし、襲ってもいないよお! うん、まだな。まだ」


 神経を逆撫でするような問題児の声質に白衣女は気を揉んだが
 グリングリンは問題児へと一瞥をくれるに留まった


『グリングリン、駄目です。ジョーの応答が無い』
「ふっざけんな、“接続”中だろうが知」
《  何事だ  》



 
284 :次世代ーズ 「一日目の夜、『ピエロ』」 2/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:32:38.97 ID:zKSSrdQuo
 

 暫くあって返ってきたルーキーの応答、苛立ちを隠しすらしないグリングリンの返事
 そして、別の音声が介入したとき、白衣女は突如として恐怖を覚えた

 老人じみたその声は彼ら「ピエロ」の親玉のものだ
 スピーカーからの音声は若干ノイズ掛かってはいるが、明瞭に聞き取れる
 ただそれだけなのに、何故こうも背筋を撫でつけるような薄気味の悪さを帯びているのか?
 そもそもだ、この声はスピーカーから発されたものなのか? 自身の内側から響く錯覚に囚われなかったか?


「……出れるじゃねえか」
《  “接続”そのものは済んだ 今や俺自身が通信だ グリン 何用だ  》
「何用もクソも……、放火はお前の指示か、どういう魂胆だオイ」


 回線に割って入ったジョーにグリングリンも鼻白んだ様子だったが
 苛立ちを取り戻したかのようにマイクに向かって凄み出した


「完全に『組織』の注意が向いたぞ、東区の放火でな
 結構な数のピエロが削られてやがる
 おまけに『通り悪魔』と『淫魔』が忌々しいクソ垂らしやがった
 それだけじゃねえ、傭兵共の一部が『組織』の連中と派手に殺り合ってる!
 大半の屑共ならともかく、穏健派が本格的に動き出したらどうする積りだ!?
 一ケタが出張ってきたらヤバいぐらい不利になるぞ!!」

《  そのための「先生方」だ 「一ツ目」の動きも把握している
   放火は必要な措置だ “サーカス”と同じく陽動の一部と考えろ  》

「こんなに早くか!? 前倒ししたのか!?」

《  そうではない だが 当初の計画を変更せざるを得なくなった  》


 二人のやり取りを白衣女と傍のピエロは見守るより外ない


《  俺は今「中心」に接続している 「門」が休眠状態にあるのも確認済みだ
   「門」を開くには当初の通り生贄が必要だ 封印は汚染されなくてはならない
   プロトコルに従い生贄を潰したが 「門」は覚醒の兆候を見せなかった 「教授」の想定に無かった問題だ  》

「アクティベートに失敗したってワケか」

《  「門」は無垢なる者の生贄を欲している 要するに血が足りない 我々はそう考えた
   事態の解析には「教授」の助力が要る これを「組織」に気付かれるわけにはいかん
   結果を焦り護りが疎かになれば 我々のビズは全て徒労に終わる そのための陽動だ
   現時点では 既に「教授」の解析は済んだ  ピエロ達には撤退 もしくは自害を命令している
   ともあれ 「教授」の解析過程で 問題は血の量では無いことが判明した
   どうやら封印の解錠には 生贄の条件が設定されているようだ これが最大のイシューだ
   我々では到底対処できる規模のものではない これ以降の仕事は「教授」に任せることにした  》

「ようやく話が見えてきたぜ。でもよ、元々『門』云々は『教授』の問題だろ?
 俺らのビズはあくまで『門』の確認まで、後は知ったこっちゃ無えって取り決めの筈だ
 ああクソッ……。で、どうなんだよ。もう一つの大問題は。俺らにはそっちのが最重要だろ」

《  無論よ 莫大な報酬が掛かってるからな
   そちらに関して大きな変更はない 手筈が済み次第「行動」を開始する  》

「それでどうすんだ。もう24時回ってるが、今からド派手にやんのか?」

《  話を急ぐな 続きがある 夕方頃に「狐」が動いたという報告があった  》

「ああ゛!? おいおいおい、なら今直ぐやんなきゃ駄目だろうが!!」

《  だが 奴が動いたにしては 観測の網に一切の反応が無い
   「中心」も 沈黙を守ったままだ 「先生方」からにも確認を要請したが
   「狐」の活動を確認できたという 追加報告はまだ上がっていない  》

「あ゛、どっちなんだよ。ガセか?」

《  「先生方」の確認が済んだ後でも 「サーカス」は遅くない
   だが 知っての通り 「組織」はこちらの動きをある程度察知している
   既に 陽動の中で 全知の観測者が迎撃に向かったという情報も入っている
   在野の契約者の中にも 多少骨のある者が頭を回しているようだ
   この状況で 「狐」の出方を窺うあまり チャンスをみすみす逃すわけにいかん  》


 
285 :次世代ーズ 「一日目の夜、『ピエロ』」 3/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:33:24.81 ID:zKSSrdQuo
 

 ジョーは一旦言葉を区切った
 モニター上の「Sound Only」のアイコンを、グリングリンに加え白衣女とピエロが凝視する


《  状況判断の結果だ  本日 日没前に 「サーカス」を決行する  》

「ヘッ、散々引っ張りやがって! 全部『組織』に潰されなきゃいいがな!」


 グリングリンの言葉に、先程までの苛立ちとは異なるある種の興奮が滲んだ
 彼とて今更「組織」の一桁ナンバーを恐れているわけではない
 折角の「サーカス」を丸潰しにされないか、そこだけがグリングリンにとっての問題なのだ


《  その点は問題ない 「先生方」にも更なる切り札はある
   「教授」の側にも隠し玉があるという話だが これはお楽しみだな
   「組織」幹部の動きは気にするな いずれにせよ お前はサイドビズにでも集中していればいい  》

「そうもいかねえだろ、不死身のジョーさんよ
 『信念の無えビズは容易にクソ以下に成り下がる』
 これ、誰の言葉だったか忘れちまったってか? あ?」

《  お前がそれを言うようになるとは いよいよ今日は血の雨でも降るかな  》

「降らしてやんだよ、学校町によ! 売れる喧嘩は売っとかねえとな、こっちにもプライドがあんだろ? なあ」

《  そっちの仕込みは任せたぞ  》


 話は終わった
 グリングリンはヘッドセットを投げると、おもむろに白衣女へと向き直った


「ジョーは傭兵を高く買ってるらしいが」


 通信での会話とは違い、この場へやって来たときの低音で唸った
 白衣女と傍のピエロに緊張が走る
 グリングリンは白衣女に一瞥をくれ、件の問題児と少女の契約者へと剣呑な視線を向けた
 問題児は依然として携帯越しの相手と耳障りな声色で通話を続けている


「俺は全ッ然信用してねえ。『教授』の義理だから言いたかねえがよ
 今夜は『先生方』が結構暴れたみたいじゃねえか、あれも適切な行動だったんだよな?
 そうであってほしいもんだ。おい隊長、後は任せたぜ。全『ピエロ』に『サーカス』は本日の日没前と伝えろ」

「はっ、はい! 了解です!」


 隊長と呼ばれた、白衣女の傍にいるピエロは慌てたように姿勢を正す
 グリングリンは大仰に首を振って骨を鳴らした


「ブギー! スカル!」
「「ここに」」


 白衣女の目には突如として新手のピエロが現れた、少なくともそう見えた
 グリングリンの両脇には、最初から存在したように二人のピエロが控えていた
 両名ともに仮面を装着した者達だ。各々白と黒、気味の悪いデザインの仮面である


「ジョーの言葉通りだ、まだ16時間ちょっとある。取り掛かるぞ」
「「仰せのままに」」


 グリングリンは二人のピエロを従えてその場を後にした
 最後に一度、白衣女に双眸を向けた


「“スプリンクラー”の最終調整に入る」










 
286 :次世代ーズ 「一日目の夜、『ピエロ』」 4/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:34:04.89 ID:zKSSrdQuo
 





 その場から立ち去るグリングリン達を胡乱な目つきで追いつつ
 問題児の契約者は端末の通話を切り上げた

 彼は「七尾」出身の契約者、そして問題児
 少なくとも一部外野からはそう呼ばれている

 数時間ほど前に南区で女子生徒二名を襲撃し
 ビル屋上に拉致した後で拷問と暴行を加えた挙句
 内一名の容姿に「変身」して制服を奪い彼女の実家を襲撃
 母親をゆっくり捕食する段となったところで「組織」黒服の介入を許し
 しかし女子計三名の黒服を牽制しつつ余裕の離脱を決めて此処へ戻って来た者こそ
 この契約者、「七尾」ANクラス出身で「けものへん」所属、閏猾二である

 彼はまだなお襲った女子の容姿を保持し続けていた
 無論女子の制服も着用したままである


「はぁー、あの様子じゃ“先生”も気付いてないっぽいな。まじチョロ」


 閏は言い切らぬ間に、定時連絡のために使用した彼本来の地声から
 「変身」によって得られた女子生徒の声へと戻した


「あの子の携帯で掛けようとするなんて、かぁクンっぽいうっかりだよね」
「褒めんなって照れんだろぉ。まあいいや“先生”も許してくれたし」
「でもかぁクン、なんで女の子の格好続けてるの? ちょっと複雑な気分だよ?」
「そりゃ明日のためよ、まずはテキトーに男モンの制服手に入れないとだしな」


 そのためには、そう彼は少女声のまま続けた
 定時連絡の直前まで弄っていた携帯を再び取り出す
 これは女子生徒から制服を奪った際についてきたオマケだ
 携帯の生体認証などは「変身」能力でどうにでもなるので楽勝である


「檻に囲われた家畜って何やって無駄に生きてんのかある程度掴んどかないと」
「ふぅん、でもあの子の携帯の中身なんかより私の中身を見てほしいなあ」
「気が向いたらな」


 閏はソファにだらしなく身を沈め、詰まらなさそうに携帯を弄んでいる
 傍らの少女はそんな問題児の肩に頭を預けて半ば抱き着く格好だ

 余談だが、このとき遠巻きに彼らを凝視していた白衣女はその光景に絶句していた
 元々少女、稲尾まひるは「七尾」の問題児を監視するべく彼の担当となった契約者だ
 しかしその実、彼女は完全に篭絡されていた。こうとなっては閏のストッパーとして全く役に立たない

 そんな白衣女の胸中を知ってか知らずか
 閏は心底どうでもよさそうな雰囲気で言葉を続けた


 
287 :次世代ーズ 「一日目の夜、『ピエロ』」 5/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:34:58.70 ID:zKSSrdQuo
 

「『ピエロ』の皆さんも大変なんすねえ、俺らは関係ねえけど」

「パートナーなんだから仲良くしないとだよかぁクン」

「まっ仕事だし文句言わないけどさぁ
 こっちは明日の一仕事をクリアすれば全部オッケーだし」


 女子携帯の物色に飽きたのか、閏は簡易テーブルに携帯を放った
 代わりにテーブルに置かれていたタブレット型の端末を手繰り寄せる


「そーいやマヒルは早渡修寿の顔、知らないんだよな」
「早渡クンのことはかぁクンが全部やってたからね、どんな子なのかな?」
「特別に見せてやんよ、見事なゴミ面だぜ」


 話題が今回の任務のターゲットに及んで、閏の声色が俄かに活気づいた
 軽快なタップ操作によって画像データが表示される
 遠景から撮影されたと思しき学生の静止画だった
 写っている男子が着ているのは学校町南区の商業高校の制服だ
 丁度、閏が現在着用している女子制服と同じ高校のものである


「こいつが早渡修寿、ANクラスで扱かれたとはいえ能力的には大したことない」
「でも任務的には結構重要っぽいんでしょ、この子」
「佳川の“計画”に必要な駒なんだってさ」


 閏は爪先で執拗にタブレット表面を叩いた
 彼が早渡修寿というターゲットに執着していることは稲尾まひるも把握している


「ここ数週間、こいつの動きを観察してた
 なんで学校町に来たのは知らねえけど、相変わらずクソみたいな性格してるよ
 懇ろでもないのに身の程知らずもいいとこ、女に付きまといやがってるだけのゴミ屑が」

「かぁクンはどうしたいの? 殺しちゃう?」

「バァカ、生きててこその利用価値だろ
 まぁ個人的には直ぐにでもぶっ殺しときたいゴミだけどさ
 てかそもそもこいつは初等部6年の頭で死んでなきゃおかしい筈だったんだよ
 余計なことした馬鹿が絶対いるんだよなあ」


 そう口にする閏の両眼に剣呑な光が宿る
 それは彼の内側で膨れ上がる憎悪と共振していた

 閏が“先生”から受けた命令は「早渡の生存確認」だ
 これは佳川有佳の意向を受けた任務でもある
 閏は学校町到着から程なくして早渡の存在を突き止めていた
 だがまだ“先生”には未報告、その点は稲尾も理解していた


「生存確認オッケー、でもそれじゃ足りねえんだよ
 早渡修寿の“サンプル”まで回収しないことには片手落ちってやつだからな」

「“サンプル”?」

「これだよ、おら」


 閏は制服の内側から取り出したそれを無造作に稲尾へ押し付けた
 バイオハザード(生物災害)とへクスハザード(呪詛災害)のシンボルが記された透明袋だ
 中には炭化したかのような黒い棒状の破片が収容されている
 稲尾は閏から袋を受け取り、袋越しに破片の硬い感触を確かめた
 閏はついでにタブレットも稲尾に押し付け、彼女に持たせた




 
288 :次世代ーズ 「一日目の夜、『ピエロ』」 6/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:35:35.55 ID:zKSSrdQuo
 

「まじチョロ、ってわけには行かなかったけどさ、いちお回収には成功した
 でもこれじゃ足りねえんだよなあ、これだけじゃあ俺が満足できねえんだよ」


 閏は間延びした声色だが先程よりも興奮が昂ぶりつつあることに稲尾も気付いている
 彼は稲尾の背中から手を回して彼女を抱き寄せるとその胸を揉みしだき始めた
 稲尾もそれに合わせて肢体をくねらせ閏により密着する


「あいつの“血”が要る。“先生”もそれが狙いなんだよなあ
 佳川は絶対に欲しがるだろうし交渉のカードとしちゃSSレアでしょ、マジで
 古い奴なら俺も持ってるけど、今現時点の早渡修寿の血液ってところが大事なわけ」


 空いたもう一方の手を咥え、指先を噛み潰した
 痛みと己の骨が砕ける感覚とが内なる獣性を刺激する


「まっ前提としてはそうなんだけどさ、その上で?
 俺としてはあのゴミ野郎を徹底的に痛めつけないと気が済まないんだよなあ
 あいつは自分がゴミだと思い知らなくちゃいけない、生きてちゃ駄目な奴なんだよ
 呑気に学生ごっこやって、女に付きまとって。あのカスは一体何様の積りなんだろうなあ」

「ふぅん、そんなに嫌いなんだ。早渡クンのこと」

「嫌いっていうより? ゴミが人間のフリして振舞ってるのが駄目だろって話?
 とにかくこいつを殺って血を抜き取る
 殺しちゃアウトだけど別に捥ぐなとは言われてないし、ダルマにするくらい余裕だろ」

「あー、かぁクン悪ぅい いまのかぁクンすっごい悪い顔してるぅ


 きゅうと悪意の滲んだ笑顔を浮かべる稲尾の横で
 閏はバキバキと音を立てて己の指を骨ごと噛み砕いていた
 足りない、全然足りない、早渡修寿の味わう痛みは俺以上のものでなければ


「あいつはゴミで低脳の屑だけど家畜じゃない
 普通のやり方じゃ警戒されるから、“餌”が必要なわけ
 おびき寄せるために、マヒルにも分かるよねえ?」

「何匹か候補がいるんでしょ、大丈夫 ちゃんと理解してるよ


 相方から放たれる憎悪と獣じみた悪意こそ稲尾を魅了してやまないものだ
 両手の塞がった閏に代わって彼女がタブレットを操作した
 何名かの女子の静止画をスライドする


「まずこの神経質そうな眼鏡と早渡修寿が鼻伸ばしてたこの巨乳女は駄目だ
 学校町の契約者で、ANは知らんけど結構動ける
 俺が本気出せば幾らでも嬲れるけど作戦的にリスクなんだよなあ
 というわけで第一候補は今んとこ、――そっちの子」



 
289 :次世代ーズ 「一日目の夜、『ピエロ』」 7/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:36:14.49 ID:zKSSrdQuo
 

 閏は顎でしゃくって稲尾の画像スライドを停めさせた
 表示された制服女子の静止画に、稲尾の眼が僅かに細まる
 セーラー冬服を着た少女が、友人と連れ立って気の弱そうな微笑みを浮かべている
 この町の東区にある高校の制服だった


「とおくらせとちゃん、早渡修寿がせとちゃんせとちゃん言ってっから名前覚えちゃったよ
 契約者じゃないのは確実。トロそうだけど意外と脚速いよこの子
 あと勘が良いのかお友達の入れ知恵か、野良のANを避けて動いてる
 理想なのは人目の少ない所に連れ込んでから両脚をへし折って持ち運ぶってとこだけど
 上手くいくかちょっと心配だなあ、でも早渡修寿が結構入れ込んでるみたいだしなあ」


 稲尾が遠倉千十の画像に冷酷な眼差しを向けることなど知らず
 閏は噛み砕いた指先で犬歯を何度も撫で付けている


「やっぱこの子の血が欲しいなあ、犯しながら食ったら最ッ高に美味そう
 俺がせとちゃんに成り代わって早渡修寿を騎乗位で舐めプする予定だったけど
 どうしよっかなあ、ゴミ野郎をダルマにしてから目の前でせとちゃんレイプしても楽しそうだし」

「ふぅんふぅん、私の前でそんなこと言っちゃうんだあ、不貞腐れるよ?」

「なんだよマヒルたん、嫉妬してんの? 醜いなあ」


 稲尾が拗ねたときどうすれば良いのかを閏は熟知している
 彼女の首筋に血塗れの舌を這わせ、筋に沿って舐め上げた
 嫌がる素振りを見せるがただのフリだ、彼女はこうされるのが好きなのだ


「それで かぁクンッ この子は、どうするのッ


 照れ隠しのように稲尾はタブレットを更にスライドした
 彼女が閏に見せたのはこの町で最も大きい中学の制服を着た女子の画像だ


「ああ、いよっち先輩ね。早渡修寿がそう呼んでるガキんちょ
 第二候補だったんだけどちょっと難しいかもな
 この子も面白そうなんだけど、まずどういうわけか人間辞めちゃってる
 早渡修寿も結構この子に執着してるっぽいから使えると思ったんだけど
 集めた情報でも行動パターンがはっきりしないから厳しいんだよなあ」

「じゃあ狙いは やっぱりせとちゃんなんだねっ んっ、かぁクンくすぐったいよお


 稲尾はタブレットをテーブルへ放ると閏の肩に腕を回した
 彼は今、稲尾の首付け根を丹念に舐めている
 彼女はそんな相方の頭を優しく包んだ


「ねえかぁクン、せとちゃん使い終わったら私の好きにしていい?」

「いいよお」

「本当にいい? 壊してもいい?」

「いいよお」

「ありがとう


 稲尾は嬉しそうに閏の頭を自分の首に抱き寄せ、薄く微笑んだ


「かぁクン大好き









□□■
290 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:36:49.95 ID:zKSSrdQuo
 

こんばんわ
今回も遅れました…… そして花子さんとかの人とやの人に土下座でございますorz
【11月】の「狐」勢力が動き出した夕方から日付が変わるまで(便宜上、【1日目】と【2日目】と呼ぶ)の動きを一通り出しました


今回の話の要点は以下の通りです

 ・日付が変わる前後の時点で「ピエロ」の東区放火作業は終了しました
  関与した「ピエロ」は撤退するか自殺しています

 ・放火の裏で「ピエロ」中枢メンバーは何かをしていました
  引き続き何かを続行します

 ・「ピエロ」は【2日目】の日没前の時点で「サーカス」を開始します

 ・「七尾」関係者は「七尾」関係者狙いで動きます


「次世代ーズ」はこれ以降
時折【11月】のピエロ【1日目】と【2日目】の話に追加と補足を行いつつ
【9月】から【11月】に至るまでのエピソードを追っていくことにします

「ピエロ」戦への介入は是非ともご自由に
【11月】のピエロの行動は前スレ(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/)の500をベースにより過激に
【2日目】の時点ではピークに達します


 
291 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/11/04(日) 13:40:43.78 ID:C6PQ5Zk4o
 
undertale周辺で大きな動きがあったなんて今更知った……
おのれぇ……_:(´ཀ`」 ∠):_
292 : [sage saga]:2018/11/04(日) 20:28:17.95 ID:iRxMkBRm0
>>267
>>いや効果が阻害されてる……?
>>まさか、もう勘付かれたのか……!?
具体的な事は分からないけど、何かしら干渉されてる
チャームの扱いの上手いユリが言うのだから確か
ユリはチャームの本来の効果が出ていないのでやや不機嫌
っていうのを分かった地点でヤエルが報告してるでしょう

銃やらナイフやらなら身体能力差で当たらんだろうけど、チャームかける前に
至近距離でノーモーションで頭爆発されたら、ユリが巻添え食らいそうだな
まあ、別に食らってもいいし前衛交代してもいいし
(ぁ
293 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/11/05(月) 20:34:12.41 ID:tZiDNJDMo
>>292
魔弾の黒服さんとサキュバス様方との関係が気になる昨今ですが

>っていうのを分かった地点でヤエルが報告してるでしょう
色々考えてみるといい感じで早まりそうですね……

 ・「先生」からもひかりちゃんからも暗殺者二名の報告が上がる
  (暗殺者らの所属がばれる)
 ・サキュバス様の魅了に何らかの干渉が入ってる件で報告が上がる
  (バックでなんかやってるのがばれる)

……「組織」の初動対策が当初の想定以上に早まる、ということは
意外と被害が抑えられるかな

>至近距離でノーモーションで頭爆発されたら、ユリが巻添え食らいそうだな
頭部爆弾の具体的なカラクリがまだ出てないので今週中に出したいですね
一応自動でも遠隔でもないです
294 :○時間軸としては>>268-274の後になる ◆John//PW6. :2018/11/09(金) 13:58:55.44 ID:v5b6mchQo
 



 現在、丁度日付が変わった真夜中の時分だ

 Pナンバー幹部である女性黒服はテレプレゼンス端末の前に立っていた
 今しがた長い認証コードの入力を終えたばかりだ

 「ピエロ」による東区放火の報告が入って既に数時間が経過した
 現場からは未だ脅威の鎮圧に完了したという連絡は無い

 「ピエロ」――10月初頭から学校町内での活動が確認された敵対的都市伝説だ
 「組織」は彼らを有害存在であると認定し出現の度に実力で排除に当たってきた
 だが今夜の連中の動きはどうだ、今までとはまるで違う
 あたかも彼ら自身の存在を知らしめるかのような暴挙に出ているではないか

 脅威の排除は言うまでも無い
 しかし最優先事項は治安維持、非契約者に対する都市伝説の隠蔽だ
 現場からアップデートされる報告に鑑みて、恐らく現場レベルの対処では間に合うまい

 暫くの待機の末、M-No.010との通信が確立された
 相手の姿が端末に投影される


「今晩は P-No.6、先程の件ですね」


 M-No.010、実質的なM-No.0の“代理人”だ
 他ナンバー幹部からMナンバー幹部への連絡役でもある
 物腰こそ丁寧だが凡そ誠意なるものを感じさせない黒服、要するにいやなやつと噂されている

 端末前の女性黒服、P-No.6は内心身構えていた
 相手は白を黒と言い包める怪人物であると定評のある黒服だ
 他のPナンバー幹部からは十二分に警戒しろと忠告されている


「その通りです、M-No.010。『角隠し』の展開を要請します」


 「角隠し」――それは「組織」が学校町中に設置した「結界」の一種である
 主に認知欺瞞型の領域を作り出す人工都市伝説で
 非契約者が都市伝説やそれに類する存在を認識できなくなる「結界」である

 穏健派、中立派が開発を主導し、平時の管理はMナンバーが担当している
 その発動には0ナンバーや「上層部」の承認が必要となる筈だが


「緊急的な治安維持が求められています
 例外措置として学校町の東区限定で『角隠し』の展開をお願いします」


 今回の一件に限った例外措置として「角隠し」発動を要請する
 これがM-No.010にコンタクトを取った理由である
 都市伝説の脅威を一般人から隠蔽する、これは全てにおいて優先されるべき事項だ

 必要な承認データ等は申請要旨と共に前もってM-No.010へ送信している
 準備は万端だ、何も不備は無い筈である





 
295 :次世代ーズ 「一日目の夜」 2/5 ◆John//PW6. :2018/11/09(金) 14:00:13.94 ID:v5b6mchQo
 

「その件なのですが、P-No.6」


 モニターに投影された相手は手元のPC端末を操作していた
 余談だがM-No.010は通信開始以降、P-No.6と一切目を合わせていない。いやなやつだ


「既に要請を受けて、2時間ほど前に東区への『結界』の展開を実施していますが」
「……は?」
「展開完了についても各ナンバーへ通知済みですよ
 二度手間ですか。せめて穏健派内で最低限の報告共有は実施頂きたいものですね」


 既に「角隠し」が展開されていた? 2時間前に? つまりこれは無駄足か? 報告は入っていないが?
 P-No.6の頭から血の気が引き、脚の感覚が急速に薄れていくが、どうにか踏みとどまる

 どう返答すべきだ。M-No.010相手に気取られる真似は避けたい
 いやそもそも本当に発動されているのかを確認しなければ。Pナンバー幹部へ連絡を取るか?

 P-No.6が遅疑逡巡する中、相変わらずM-No.010はPC端末を注視している
 指を滑らせ、数度キーを叩いているようだ


「ちなみにこれはまだ各ナンバーへ報告していないのですが
 『角隠し』の発動出力は現時点で平均値の3倍で設定されています
 担当チームの採取データが正確ならばこの出力値でようやく実効性を確保できている」


 どういうことだ? M-No.010は何を言っている?


「チーム主査の所見によると、学校町外では平均値で実効性を確保しえますが
 町内だと時間経過と共に出力値を漸次的に引き上げなければ作用有効値に至らない状況ですね
 興味深いことに、『結界』発動の段階からこの事象が観察されています
 原因は未だ特定できていませんが恐らく外的能力に起因するものかと」

「そ、それはどういう……?」


 P-No.6はとりあえず口を挟むことにした
 後ろ手で隠し持った携帯端末からPナンバー幹部へ連絡を取りつつ
 それを悟らせまいとM-No.010の話す内容へ問いを試みる
 小難しいことを言っているが、要するに「角隠し」の出力を上げないと効果が得られない状況だということか?


「『結界』発動に関して問題が発生しているのであれば、M-No..010! 報告義務があります! ご説明を!」
「そうですね、貴女のような黒服にも理解できるように説明致しますと」


 M-No.010はP-No.6へ一切目を向けずPC端末の操作を続けている
 話をするときは相手の目を見て話せと教えられなかったのだろうか? いやなやつだ!


「『角隠し』の効果が何らかの能力によって干渉を受けています。原因は目下調査中です」






















 
296 :次世代ーズ 「一日目の夜」 3/5 ◆John//PW6. :2018/11/09(金) 14:00:59.30 ID:v5b6mchQo
 



 学校町東区


「どういうことなの……?」


 「組織」穏健派所属の若い黒服は困惑の表情を隠し切れない

 無理もない
 先程まで東区の住宅街に放火しようと火器やガソリンの類を持ち込んでいた「ピエロ」共に異変が生じた
 彼らは唐突に動きを停止すると、そのまま自分の体にガソリンを浴びせ投身自殺を始めたのである

 その黒服が契約した挙句“呑まれた”のは、伝承存在「コボルト」
 不可逆な解釈歪曲の末、金属や鉱物に魔法を掛けて機能不全に陥れる能力に特化している
 それ故に銃火器を使用する相手にとっては最悪の相性である

 「ピエロ」は銃火器を所持している為
 黒服とその相棒の能力によって片っ端から銃火器を使用不能に追い込んでいた。のだが


「どうなってるんだ、おい!」


 拳銃を捨ててナイフで首を引き裂き始めた「ピエロ」の一体を凝視しつつ
 相棒の「コボルト」が歯を剥き出して唸った

 「ピエロ」共が一斉に自殺を始めた
 遥か前方にいる「ピエロ」の群れはこちらに背を向けて走り去ろうとしていた


「逃亡するぞ!! 追え!! 追撃しろ!! 攻撃の手を緩めるな!!」


 別の黒服が怒号を飛ばす。彼は確か過激派所属だ

 「コボルト」の黒服も相棒を連れて追撃に加わろうと
 逃走する「ピエロ」に向けて走り出そうとした、そのときだ!

 「コボルト」の黒服より前方にいる、「ピエロ」目掛けて光線銃を乱射する黒服の前に
 空から新手の「ピエロ」が一体、飛び降りてきたのだ! 恐らく電柱の上にでも潜んでいたに違いない


「ディフェ〜〜ンス!! ディ〜〜フェ〜〜〜〜〜ンス!!」
「貴様っ!!」


 黒服は眼前の乱入「ピエロ」に光線銃を乱射する!
 全弾「ピエロ」に直撃しているが、全く効いている様子が無い!


「うひー! 博士の防弾チョッキは最高だンな〜〜!!
 おいぃ黒服! よく聞け!! オイラは勇敢だからなあ!!
 仲間のために体張れるんだじぇエエ〜〜!! 食らえ!! 特製『ピエロ』爆弾!!」


 一瞬だった、「ピエロ」の頭部が炸裂した!
 閃光が視界を焼き尽くし、衝撃が大気伝導で「コボルト」の黒服の全身を叩いた
 悲鳴を上げて黒服は転倒、相棒が咄嗟に前へ飛び出し黒服の身を庇う


「大丈夫かおいっ!! クソッ! 黒服巻き込んで自爆しやがった!!」


 爆発音により悲鳴を上げる聴覚が相棒の悪態を辛うじて拾い上げる
 眼前の惨事に、黒服は倒れたまま戦慄していた









 
297 :次世代ーズ 「一日目の夜」 4/5 ◆John//PW6. :2018/11/09(金) 14:01:32.48 ID:v5b6mchQo
 



 同じく、東区


「それが“スイッチ”だ、押すなよ?」
「……自動で起爆するわけでは無いようだな」


 「ピエロ」の引き起こした喧騒は、今や無数の爆発音へと変わりつつある
 だが日頃から閑静な東区の住宅街は普段と変わらず静まり返っていた
 まるで初めから「ピエロ」の暴動など無かったかのように

 当然である
 この町は「組織」の手で都市伝説的な脅威から保護されている
 「結界」もしくはその他の能力で都市伝説存在を非契約者から隠蔽し
 黒服や子飼いの契約者によって害悪となる都市伝説や契約者を駆逐する
 それが「組織」常套の手法である


「それが『ピエロ』の、多分どっかに接続されてる。脳みその中かな?」
「いや、恐らく口腔の何処かだ」


 だが今夜は珍しく長引いた
 加えて「組織」による完全鎮圧ではなく「ピエロ」側が自発的に撤退したようだ
 「組織」側が経験の浅い人材ばかりを現場へ投入したのか、「ピエロ」に相応の実力があったのか
 あるいはその両方か

 いずれにせよ「組織」所属でない彼らにとっては些末事である


「これか、骨に絡みついているな」


 彼らは今、東区住宅街の路地裏にいた
 この時間は元から人通りが無い場所で、その上「組織」の隠蔽工作も効いている


「これだ、臭いが甘い」
「『爆発キャンディ』、多分ビンゴだ」
「形状的には『わたパチ』のようだな、爆発する『わたパチ』なんて聞いた覚えが無いが」
「まあ……、契約者の力量次第で外見はいくらでも加工できるだろ」


 マスクを外した「口裂け女」が今しがた「ピエロ」から摘出した物質を検めていた
 装着された外科用青手袋の上に、真っ赤に染まった綿状のそれが乗っている

 直下の壁面に半ば立て掛けられるように安置されているのは生殺しの「ピエロ」の一体
 周辺には「口裂け女」が生成したと思しきメス数本、そして大小様々なハサミが散乱している
 脊髄の各所を執拗に破壊して行動不能にしたとはいえ、確認は手早く済ませたいところだ

 やや距離を取ってスーツを着崩した男が佇んでいた
 壁面に背を預けたまま“解体”の一部始終を漫然と観察している


 
298 :次世代ーズ 「一日目の夜」 5/5 ◆John//PW6. :2018/11/09(金) 14:02:47.64 ID:v5b6mchQo
 

「恐らくもう一方は脳みそに接続されてる。デッドマンスイッチさ
 こんな芸当が出来る奴は限られてくる。そこらの契約者じゃ無理だよ」


 外灯から路地裏に差し込む微かな光を頼りに「ピエロ」の“解体”を行った
 連中の奥歯には“スイッチ”が仕込まれており
 歯茎に埋められた頭髪状の線は首筋へ仕込まれた『爆発キャンディ』に接続されている
 “スイッチ”を入れれば『爆発キャンディ』が「ピエロ」の頭部ごと爆破する。そんな具合だ

 『爆発キャンディ』にはもう一本の接続が確認でき、恐らくそれは『ピエロ』の脳と直結している
 不発の状況で『ピエロ』が殺害されると同時にこの『爆発キャンディ』も消滅する。恐らくはそういう設計だろう
 にしても、情報流出対策として考えても奇妙なほど手が込んでいる


「何故このタイミングで『ピエロ』が」
「さあな、俺にも分からん。社長も考えあぐねてたよ」
「聞江さんの具合は」
「寝込んでる。連日連夜うなされてたらしい」
「ふむ……」


 「口裂け女」は男に綿状の『爆発キャンディ』を押し付ける
 男は汚物を扱うかのように裏返したビニール袋で受け取った


「『狐』と関わっているとは思えん。『ピエロ』からは奴の気配が微塵も感じられなかった
 それに『狐』の戦略からして、こんな『ピエロ』連中を駒とするようなリスクを犯すとも考え辛い」

「社長も同意見だったよ。『狐』の学校町潜伏に当ててやって来たって線はあるかもしれないけど
 しかし本気で潰しに来たんならこんな挑発めいた小出しするかね?」


 「口裂け女」は暫しの沈黙の末、ハサミを生成した
 把手をスピンし逆手に持ち直すと「ピエロ」の脳天へ一気に刺し込んだ
 一瞬が震えた直後、「ピエロ」の全身が弛緩する


「ルルとカモミは」
「構わず逃げろって伝えたけどさ、社長をサポートするって意地張ってる」
「敵戦力が不透明すぎる。正直戦り合う真似は避けてほしいんだが」
「アンタからもなんとか言ってやれよ、闇子さん」
「まだやることがある」


 青手袋を打ち捨て、マスクを着け直す
 男も壁面から身を起こした


「何も起きなきゃいいけどね」
「絶対に良からぬことが起きる。確信がある。だから私が来た」


 男と「口裂け女」は路地裏を後にした
 遺された「ピエロ」の躯は消滅光に呑まれ、やがて世界に還元された












□□■
299 : [sage saga]:2018/11/18(日) 02:52:17.09 ID:GBsRHGnz0
>>293
>>魔弾の黒服さんとサキュバス様方との関係が気になる昨今ですが?

ただの知り合いくらいです
サキュバスからの評価は「まあ頑張ってる食べ物」「少し気が利く食べ物」
夢魔の所の奴らは自分より弱くて特に見所無ければ「食べ物」です
がだからと言って食べたりぞんざいに扱ったりはしない

魔弾のサキュバス攻略チャート
実弾用の射撃場使う→ランダムで三尾が来る(取壊し検討の為)→戦闘訓練開始→訓練担当が出れない時に代理で夢魔の部下のサキュバスが来る
・最初の印象が悪いと評価が「生ごみ」からになるので気を付けよう
・機嫌を取るときはユリにはソフトクリーム、ヤエルにはヨーグルトがオススメ


ピエロは逃げるか死ぬか爆ぜるかに別れるのね
わたパチの威力ガチの攻撃用の爆発やん、前衛とか関係ないなこれ、黒服死んだのかな
おまけに何かばら蒔いてまだヤバイことしようとしてるのか
300 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/11/29(木) 22:54:34.54 ID:JyNb+3Zoo
 
泣きそうになりながらwikiまとめを途中まで進めました
【9月】のエピソード群を丁寧に追っていくか厳選ピックアップで行くか
あれこれ考えて泣きそうになりながら書くのはたのしんどいですね

>>299
>ただの知り合いくらいです
知り合いなのか……
>がだからと言って食べたりぞんざいに扱ったりはしない
ということはまだ食べられたことは無い……? それならあんしんですね(なに!?)

>ピエロは逃げるか死ぬか爆ぜるかに別れるのね
大体そのような感じです

>わたパチの威力ガチの攻撃翌用の爆発やん、前衛とか関係ないなこれ、黒服死んだのかな
あの話を色々トリミングする前の初稿では即死していた

>おまけに何かばら蒔いてまだヤバイことしようとしてるのか
はい……主に「コークロア」 な ど を……
 
301 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/11/30(金) 12:35:51.99 ID:Y98tIo4po
>>300 訂正
「コーク・ロア」を空中散布したところで効果は知れているので
散布はたぶん別のやつ、それはそれとして「コーク・ロア」は別途用意、といったところか
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/07(金) 00:38:07.31 ID:aroElhuxo
wiki編集乙
物語の展開も気長にまってるぜ
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2018/12/08(土) 15:07:01.77 ID:bx+66Rtx0
皆さん乙
ピエロも気になるけど九尾の狐と凍り付いた碧の方も気になる
どっちを取っても犠牲が避けられそうになさそうなのが…
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/10(月) 21:34:53.05 ID:rL+r8JPvo
重い展開が重なってますなあ
305 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/12/15(土) 13:18:19.33 ID:Vwc+lKXNo
年の瀬が足音を立てて近づきつつあるこの頃ですが、お元気でしょうか
皆様もあったかくしてぐっすり寝るなどして、体調を崩されぬようお気をつけ下さい……
こんにちは、次世代ーズです

かくいう自分は翌水曜日まで拘束され本編はおろかうぃきの整理もストッポします
打倒青い鼻のトナカイさん! 打倒ルドルフ! 皆様もどうかお元気で
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/20(木) 23:58:37.34 ID:qstT5Gxso
来年で十年目を迎えるらしいがクリスマス前になると一気に過疎るのは相変わらずだな
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/24(月) 20:29:31.10 ID:txgXOLV9o
年末はみんな忙しいのだ
忙しいのはきっと良いことなのだ…
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2018/12/27(木) 17:14:37.47 ID:XnjBon0L0

きっとクリスマスは大事な人と過ごしてるからみんな書き込めないのさー
予定がない事がばれるから書き込まないんじゃないんだよー
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2018/12/27(木) 22:59:30.39 ID:c3NfYIwKo
かわりに俺様が君達のオケツをゆっくりと撫でまわしてやろう
さあケツを差し出すのだ
310 :次世代ーズ EX 「悪の十字架」 1/2 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 01:52:34.81 ID:UvP9lMiqo
 



 「悪の十字架」

 都市伝説に詳しくない諸氏も一度は耳にしたことがあるであろう
 この話には様々な類話(バリエーション)が存在するが基本的な筋書きはほぼ一緒だ

 ある人が必要に駆られ、あるいは逼迫した状況下で
 10時に開業する施設へと向かうことになる、という場面から話が始まる
 場合によってはその際、24時間営業している店が存在しない時代の話なり
 そのような施設が存在しない僻地での出来事なり、といった補足説明が付くこともある
 そして、その人が施設へと辿り着き、貼り紙等で提示された情報を確認したとき
 思わずある台詞を吐いてしまう……、というのが共通した流れである

 この話は「青い血」、「悪魔の人形」、「恐怖のみそ汁」などといったジョーク系怪談に分類され
 あるいは「あぎょうさん」、「そうぶんぜ」、「よだそう」、「火竜そば」などの
 言葉遊び系ギャグ都市伝説と共に紹介されることが少なくない

 さて、今回の要諦は

 お察しの諸氏も多いことであろう
 この話は、所謂“実体化した都市伝説”として存在しているのであり
 それと契約した能力者が「組織」に所属している、という点である



 
311 :次世代ーズ EX 「悪の十字架」 2/2 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 01:53:28.23 ID:UvP9lMiqo
 



 朝、時刻は8時30分を少し過ぎた頃

 少年は一人、近隣のスーパー前に立っていた
 まだ幼さの残る顔つきだが、外見的に中学生か高校生くらいだろうか

 その日は祝日ということもあってか、スーパー周辺には彼以外の人影は無い
 少年は妙にニヤついたまま閉鎖された自動ドアに印字された字面を目で追っていた

   「 激安スーパー  10:00 〜 24:00 」


「ふ、フフ……、ふふふ、フッフッフ……」


 休みの日はこうして開店前のスーパー前に待機して過ごすのが彼の習慣であった
 そして、そう、ここからが彼の契約者としての異常性を発揮する場面でもある


「フッフッフ、アハッ、アッハッハ! アハッ! アハァァーーッッ!!
 そう! 何時だって! 開くのは10時! このスーパー開くの10時!!」


 ひとしきり笑った少年は自動ドアに向き直り
 おどけるように表情を百面相してその台詞を――口にする!


「開くの10時かぁぁー!! 悪の10時かぁぁーーっ!! 『悪の十字架』ァァーーッッ!!」


 するとどうしたことか!
 少年の隣に、いつの間にか奇天烈な格好の怪しい者が立っているではないか!


「悪の十字架ー! 悪の十字架ー! 悪の十字架ー! (♦ww♦)」


 その者は端正なタキシード姿で、表は黒に裏は真っ赤なマントを羽織るという
 ステレオタイプなヨーロッパ型吸血鬼の格好をしているではないか!

 そう、この者こそが少年と契約を交わした「悪の十字架」が人として現界した姿
 謂わば、「悪の十字架の悪魔」である!
 ――繰り返すが彼はあくまで悪魔と称し、吸血鬼では無い。外見がいくら吸血鬼寄りだとしても、だ


「悪の十字架ァァーーッッ!! 悪の十字架アアーーッッ!! アッハハハハハハーッ!!」
「悪の十字架ー! 悪の十字架ー! フォハッ、フォハッハ、フォハハーーッ! (♦ww♦)」


 少年と悪魔は同時に叫び、同時に哄笑した
 何がおかしいのかは傍目には不明であるし、そもそも彼らは怪しい者達と呼ばれるに相応しい状況だ

 ここで一度、この少年の能力について言及しておきたい
 彼の能力の発動条件は、通常「10時開業の施設の前で、開業前の時間に待機すること」であり
 発動する能力とは、「『悪の十字架』を唱えることで、『悪の十字架の悪魔』を召喚すること」である

 ――そう、たったこれだけの能力である
 正直なところ、何の役に立つ能力なのかは全く不明である
 ついでに触れておくが、「組織」の調査によると「悪の十字架の悪魔」の身体能力は
 平均的な成人男性の身体能力を数段階下回る程度のものであった


 正直、少年と悪魔の存在を「組織」も持て余し気味だったようだが
 つい先日、晴れて彼らの新たな所属が∂ナンバーへと決定した
 「組織」内でも比較的新しく設立された部門である

 まあそんなことは彼らにとってさほど深刻な内容でも無かった
 少年と悪魔は開店前のスーパーの前に立ち、引き続き高笑いを続けている


 彼らが一体どのような活躍を繰り広げるのか、まだ誰にも分からない









□□■
312 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 01:58:33.14 ID:UvP9lMiqo
 
こんばんは
今投下したのはEXの方です
関係者各位、よろしくお願いします

ちなみにですがこの悪魔
別に発動条件を満たさずとも普通に召喚できます
そもそも悪魔の自由意志で消えたり現れたりできます
契約者も把握済みで普通に呼び出したり一緒にご飯食べたりする
313 :次世代ーズ EX 「青い血」 1/3 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:00:18.92 ID:UvP9lMiqo
 



 「青い血」――初っ端からネタバレするとジョーク系怪談である

 筋書きが一定していない分、話のバリエーションは豊富で
 「青い血」というワードについても冒頭で意味深に言及されるか全く触れられないこともある

 具体的な話の筋としては
 お昼には必ずお弁当を食べるようにと、おじいさんがおばあさんに釘を刺される穏当なものから
 無人島に漂着して極度の飢えに苛まれるパターン、売店で供される「青い血のジュース」というパターン
 さらには教室に広がった青い血を恐る恐る舐めたり、見知らぬ男に無理矢理なにかを飲まされたり、という過激なものまで
 要するに枚挙に暇が無い、のだが肝心の締めは全て同じ
 最後の「あ〜美味ち」 → 「あーおいち」 → 「青い血」なオチがつく

 最初はそれっぽい雰囲気で始めるのがコツだが
 どう足掻こうとくだらない結末を迎えるため、ギャグ系怪談としてまとめられている
 それどころか都市伝説という括りで紹介されることも無いではない


 以上が「青い血」の一般的な概要である


 さて、都市伝説原理主義者の黒服諸君には残念なお知らせだが
 この「青い血」、あろうことか既に都市伝説として実体化してしまっている

 そればかりか都市伝説管理集団「組織」の備品としてばっちり登録、管理されている


 一体どういうことなのか?
 それをこれから紹介するとしよう






 
314 :次世代ーズ EX 「青い血」 2/3 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:01:02.60 ID:UvP9lMiqo
 

 まず「青い血」の外見的特徴から説明する

 これは大部分が金で構成された、やや歪な形状の小さな杯である
 外形はWDH:30x30x70(mm)の直方体に収まる程度のものだ

 杯の中はおよそ15mlの青い液体によって満たされている
 この液体、「組織」の調査では一応「組成が人間の血液に近い」と判明している

 杯から液体が全て除去されると
 「杯の中から青い液体が毎分約5ml出現する」という現象が発生する
 そしておおむね3分ほどで杯は再び青い液体によって満たされるのである

 「青い血」は現在「組織」穏健派のPナンバーによって厳重に管理されており
 取り扱いはたとえ実験目的であってもP-No.上位管理者、俗に言う一桁ナンバー複数名の承認が必要となる

 また、「青い血」を許可なく各種媒体によって記録すること
 さらには如何なる理由あれ「青い血」が記録された媒体を「組織」外部へ持ち出すことは厳禁とされ
 違反者は厳罰に処される、そんな規定まで付いている

 加えてこの「青い血」、管理区分は「禁忌指定」に分類されている
 大多数の流出性器物が分類される「二種指定」をすっ飛ばして堂々の「禁忌指定」である
 この時点でお察しの黒服諸君も多いだろうが、こうした取扱既定には「青い血」の特性が深く関わってくる



 実は先述した外見的特徴についてだが、通常の方法ではあのように観測はできない
 具体的に言うと、一般人を含めた契約者や都市伝説、黒服各位が「青い血」を直接視認した場合
 「これまでに飲食してきたなかで最も美味と感じた飲食物」か
 「まだ飲食したことは無いが口にすればきっと最高に美味だと感じる飲食物」として認識する
 直接視認せずとも「青い血」の数メートル以内に接近した段階で好みの飲食物の香りを感じるようになる
 そして、こうした飲食物を何が何でも口にしたいという耐えがたい欲求が生じてしまい
 影響を受けた者は手段を選ばずに「青い血」を摂取しようと狂暴化する

 では鏡映しにしたり、映像や写真等で見たり、などの間接的に観測した場合は問題無いかと言うと
 当然そんな筈は無く、ばっちり影響を受けてしまうことが分かっている
 要するに、「青い血」は認識汚染を含む強力な精神干渉能力を有しており直接間接を問わず影響を及ぼす物品なのである

 それなら強化系や防護系などの能力の行使や精神干渉に対する高い抵抗値を持っていれば対抗可能かと言うと
 多少は影響を緩和できるという程度で、結局一時しのぎにしかならないということも判明している

 上述の外見的特徴は、精神干渉に高い抵抗性能を持つ黒服が
 特殊な条件付けを受けた上で、脳みそに悪影響を及ぼす薬剤を投与されることで
 はじめて「青い血」の影響を回避して観測しえた情報である
 一般黒服諸君にはとてもじゃないがオススメできない手法だ


 
315 :次世代ーズ EX 「青い血」 3/3 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:01:46.60 ID:UvP9lMiqo
 

 続いて、この「青い血」を摂取した場合どうなるのかについて説明する
 ――説明する間でも無さそうだが話のついでだ


『これよりPナンバー関係者外秘の歳末器物実験を開始します』
「離せ! 離せ! うわああああああああああああっ!!」


 「青い血」を特殊な手法を使用せずに通常視認した場合
 視認者が欲する飲食物として認識され、摂取したい強い欲求に駆られる点は先に触れた通りである


『P-No.2020、目の前にある物が何に見えるか答えてください』
「離せ! はな――、あれは……、穏健派の、高級クラブでしか食べれない……、幻の骨付きスペアリブ……!?」
『良いでしょう。研究班、P-No.2020へ「青い血」任意量の投与を許可します』
「了かい、かい口する」
「おい待て! 何する! あ、んごあっ! ああがっ! ああがっ!!」


 そして「青い血」を摂取すると、途端に抗い難い強烈な多幸感、恍惚、そして性的絶頂を体感するハメになる


「んんあーっ ああーっ あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っっ
「きょうせい開口を解じょする」
「んごあっ ごっごほっげほっ!! あっ ああーっ おいちいっ ああっおいちいいいっっ


 症状はおおよそ10分から20分程度で治まるが
 ここで注目したいのは「青い血」を摂取すると強力な依存性が形成される点である


「離せぇぇぇぇっっ 離せよぉぉぉぉぉっっ もっと食わせろぉぉぉぉぉっっ
「予ていどおり、P-No.2020をいち時収ようする」
『許可します、退出してください』
「食わせろぉぉぉっっ もっとあるんだろぉぉっ スペアリブぅぅぅっっ 食わせろよ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛おお゛っっ


 一度依存性が形成されると、対象者は狂暴化してあらゆる手段を講じてでも再び「青い血」を摂取しようとするようになる
 狂暴化はおおむね24時間前後継続するが、特筆すべきはその間「青い血」以外の精神干渉系能力が全く効かなくなる点だ
 継続時間を過ぎると狂暴化自体は鎮静するものの
 再度「青い血」を認識した途端に狂暴化して「青い血」を摂取しようと周囲に暴力を振るうようになるのである
 ついでに依存性が一度でも形成されてしまうと都市伝説能力や霊薬等で依存性を除去することができなくなる

 補足しておくと、先述した外見的特徴の部分で触れたように
 「青い血」単純認識による場合でも、「青い血」を摂取しようと狂暴化するが
 「青い血」摂取後の狂暴化は、単純認識時の比では無い位に危険度が増す

 とまあこうした特性の故に「青い血」は「禁忌指定」として厳重に管理されている、というわけである
 幸いなことに「青い血」関連の大規模事故はこれまでのところまだ発生していないが
 伝染災害を危険視した幹部達によって取扱方針が制定されることになった

 ここまで「青い血」の危険性ばかり説明するような内容になってしまったが、一応この物品にもそれなりの展望がある
 「青い血」を特定の薬剤で稀釈し精神干渉系能力の被害者に対して適切に投与することで
 依存性や狂暴化を極力抑えたまま、影響を受けた精神干渉を無効化、あるいは大幅に低減できる効用が期待されている
 現時点ではまだ実用段階に至っていないが、近い将来にも試験的運用が開始される予定らしい

 「組織」研究者の今後の活躍を祈ろうではないか









□□■
316 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:09:07.01 ID:UvP9lMiqo
 
こんばんは

ところでwikiまとめですが
整理途中で大問題が見つかりました

移行がうまく行ってなかったのか
IME辞書登録された語句の内、次世代ーズ関連の特定の語句が
登録から脱落した状態で数ヶ月そのままだったことが判明しました

なのでこれまで投下分にばっちりミスが残っていますね
多分聡明な読者の皆様といえど多分気付かれていない自信があります
が、それはそれとして己が赦せないのでセルフお仕置きの時間だ😌
 
 
 
 
 
317 :次世代ーズ EX 「一方その頃」 1/2 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:10:40.92 ID:UvP9lMiqo
 



 九月

 まだ夏の気配を色濃く残しつつも、秋の朱空へと染まりゆく頃
 日没の迫る学校町の通学路で、それは起きた


「見せちゃうぞ……、見せちゃうぞ見せちゃうぞンばアアぁぁああーーッッ!!」

「いやあああああああっホントに出たぁぁぁぁアアアアアっっ!!??」
「ああーーっっ!! 変態っっ!! 露出魔だああぁぁぁぁーーっっ!!」
「キャアあああああああああっっ!! もっくんのより小さくて薄汚いよォォおおーーっっ!!」


 この町の南区にある商業高校のJKギャルたちが
 突如現れた露出狂のおじさんを前に、三者三様の絶叫を上げ、脱兎の如く逃げ出した


「――っふ、ふヒッ! ふ、ふひひ、ふヒンッ!! ふ、うっふふふふ、ふヒッヒ、ヒヒヒッ!!」


 その男はティアドロップ型のサングラスと大きなマスクで顔面を隠し
 九月だというのにトレンチコートを着込んでいる
 そして当然、コートの下は全裸であった
 これ以上の説明は不要であろう


「ふヒヒッ!! た、短小って……小汚いって……ッッ アハッ アハハハッ ヒンッ たまらんっ


 おじさんはJKの悲鳴の一部に甚く反応しているようで
 実際のところ彼は軽く達していた

 警察が直ちに介入すべき事案であるが
 幸か不幸か、周辺に巡回中の巡査は見当たらないようである
 更に付け加えると先程の悲鳴はかなりの音量で響いた筈だが未だ人の気配は無い


「ふふ、ウッフフ、……はあ、最高だった   ――さて」


 おじさんは全開にしたコートを羽織り直してボタンを留める
 そして後方へと振り返った



 其処に蠢くは無数の人影だ
 何時の頃からか此処、学校町の黄昏時に出現するようになった魔性

 それは「逢魔時の影」と呼ばれていた


「ここから先は通行料を頂くが、――よろしいかな」


 
318 :次世代ーズ EX 「一方その頃」 2/2 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:11:19.10 ID:UvP9lMiqo
 

 場に居た「逢魔時の影」は全滅した


 おじさんは溜息を吐いた
 先程まで「影」であった残りカスが風に乗って消滅する
 手刀を引き戻すと、周辺の大気に微かな黒色の稲妻が奔った


 そろそろ純情JKの通報を受けたお巡りがやって来る頃合いだろう


 彼は高く跳躍
 最も近場に位置する鉄塔の頂点へと降り立ち、其処に佇んだ


 陽は既に暮れている
 夕闇はじきに光無き夜を誘う

 薄明の世界に包まれた学校町を見下ろすおじさんは
 やがて目を細め、遠景の一点を注視した


「さてさて」


 夕陽が死に、大地を夜の帳が抱き始める時分
 おじさんの眼は“彼”を捉えていた


 「繰り返す飛び降り」と化した少女、東一葉と共に直前まで談笑していたようだが
 “彼”――早渡脩寿もまた、この露出狂の男を眼差していた


 “彼”はこちらに気付いている


 おじさんの双眸は、獲物を見定めたかの如く、さらに細められた


「『七尾』の残党め、この町で一体何を企んでいる」
















□□■
319 :次世代ーズ EX ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:16:40.98 ID:UvP9lMiqo
 
 
 
アクマの人に土下座でございます
「逢魔時の影」、お借りしました
ありがとうございます

本格的に【9月】をやっていきますが、年末は働き詰めが決定した上
年越しを職場で迎えるっぽい💢ので、次来るのは年明けです


皆様、どうぞ良いお年をお迎え下さい
 
 
 
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/01/01(火) 01:48:39.05 ID:YTGbKHpF0
明けましておめでとうございます
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/01/01(火) 01:51:44.02 ID:YTGbKHpF0
>>320途中送信
今年はこのスレ10周年らしいので
楽しくやっていけたらと思います
ついでにまた人で賑わうようになれば嬉しい
322 :次世代ーズ EX 「七尾時代の年越し」 1/2 ◆John//PW6. [sage]:2019/01/04(金) 03:07:41.89 ID:/ElaL/Wro
 



 数年前の元日の話だ



 つい先ほど日付が変わり、新しい年を迎えたばかりの真夜中

 「七尾」チャイルドスクール、研究棟の一室
 テーブルにはピザや寿司の食い残しや、掛け蕎麦の空椀が乱雑に置かれている

 そして、テーブルから離れた側では
 西陣織紬を着込んだ男子と、Yシャツの上から白衣を羽織った男が
 今しがた入室してきた鏡餅の着ぐるみを着用した男子を見て爆笑していた


 「早渡wwwwお前wwなんだその格好はよwwwwww」
 「アッハハハハハ! おい早渡、一体誰にやられた! アハッ!」


 腹を抱えて笑いに笑う二人組を、早渡と呼ばれた男子は半ば憔悴した半眼で睨みつけた


「うるせえぞ一伐、大体こういうのはお前の仕事だろうが……!」
「いやwwwwww早渡wwお前、良く似合ってるぜwwwwww最ッ高だよwwwwww」
「ハハハッ! で、誰にやられたよ早渡、空七ちゃん達か?」
「オメーのお仲間にだよ! トランジ! あのアマども、日頃の恨みとばかり寄ってたかって揉みくちゃに……!!」


 彼ら、ANクラス関係者がこんな時間まで起きているのはさほど珍しいことではない
 ましてや年末年始だ
 この時期は冬休みとして設定されており
 特に年明けから三箇日にかけては、普通クラス寮も消灯時間が平時より若干緩めになる

 これから彼らは普通クラス高学年を対象として、サプライズのお年玉配布へと向かう所であった
 通常のお年玉配布は元旦夜明け後に個々の生活指導教員から一人千円ずつ支給されるが
 研究棟からのお年玉ということで別途二千円札の配布が電撃的に決定したのである

 無論、金の出所に関してロクでもない経緯があったりするのは此処だけの秘密だ


「脩寿――、ちょっ、何その格好!」


 早渡の背後から部屋に入って来たのは
 ANクラス同級生の女子二名、空七とふわるだ

 二人とも早渡の格好を見るなり、一伐やトランジに負けず劣らずの爆笑を始めた
 特にふわるはツボに嵌ったらしく、しゃがみ込んで両手で顔を隠しつつお腹から湧き出る笑いに全身を揺すっていた

 不意にふわるが片手をずらして早渡を見た ――目が合う
 片手を振り上げてこのッ!! と凄むと
 体格に似合った小さな悲鳴を上げて空七の後ろに隠れ、爆笑し続けていた


「でも、本当に、その格好、脩寿が、自分で、着たの?」
「違えよ笑うな空七! 女子研究員どもが無理やり着せやがったんだぞ!?」


 笑いで切れ切れになった空七の問いに、早渡は噛みつくように応じる

 連中、女性研究員達はトイレ帰りの早渡を事前警告もなく急襲した
 本格的な捕獲デバイスを装備して殴り込んで来たので事前から計画でも練っていたんだろう



 
323 :次世代ーズ EX 「七尾時代の年越し」 2/2 ◆John//PW6. [sage]:2019/01/04(金) 03:08:31.39 ID:/ElaL/Wro
 

「それだけじゃねえ!! これ見ろ!! ご丁寧に首輪まで嵌めやがって!!」


 着ぐるみと顔の隙間に手を突っ込み、無理やり押し広げて首筋を見せつける
 首には言葉通りの首輪が装着されていた。緑のLEDが規則的に点滅しているやつだ

 この首輪は普段からセクハラ大魔王などとありがたくない称号で専ら有名な早渡脩寿が
 新年早々女子寮へ乗り込んで悪いことをしないようにと女性研究員達が強制的に装着した一品だ

 具体的に言うと、早渡が女子寮のテリトリーに足を踏み入れた瞬間
 神経活動妨害パルスが彼の全身を襲い、激痛と共に七転八倒の末、行動不能にする物騒な代物である


「そんなに信用ないのかよ、俺は!!」
「お前の場合自業自得でしょ」
「んーぬぬ……!! 俺はガキには興味無えんだよッ!! 大人のお姉さん一択だろおがァァッッ!!」


 新たに入室してきた円伶が早渡に至極真っ当な意見を突き刺してきた
 後ろに続く飛鳥博士は早渡の格好に目を丸くしている

 早渡は密かに空七を睨んだ
 彼女は顔を背けて隠している積りだろうが肩を震わせている
 未だに笑い足りないらしく、爆笑を必死に押し留めているものと見える

 着ぐるみはともかく首輪の方は十中八九佳川の特製品だろう
 あの女、きっと安全な場所からワイン片手にこのザマをモニターしているに違いない

 悪いが佳川、お前の好きなようにはさせねえ
 オレ様の名に懸けて年頭から早速伝説を残してやるぜ
 首輪なんざ怖くねえ、初っ端から女子寮にブッ込んでやるからよ、覚悟しとけよ女子職員ども

 早渡の中に黒い獰猛な笑みが広がった瞬間であった


「普通クラスの先生達って、まだ理事に呼び出されてんの?」
「そ、だからサプライズは俺達でやんなくちゃいけないってワケだ」
「クリスマスの機材トラブルの件、大問題になってるみたいだな」


 ひとしきり笑った後の一伐とトランジ、そして円伶の会話は早渡の耳になど入っていない


「じゃ、女性陣も揃ったことだし。E5の普通クラスにサプライズお年玉、行くか!」
「「「おー」」」
「あ、早渡。お前一応初っ端から飛ばしていくのは控えろよ? この時期のお姉様方はちょっと優しくないぞ?」
「それが怖くて早渡ハーレム王国が築けるかッつー話だろうがよ!!」
「お前マジでやめときな早渡、大河内研究員が今度お前が問題起こしたら去勢するって公言してたの忘れたの?」


 音頭を取るトランジこと星虎次博士、それに応じる一伐、空七、ふわるの三人
 そして早渡に釘を刺すトランジと、それに吼える早渡、に再度釘を打ち込む円伶
 ついでにそのやり取りを呆れたような笑いと共に見守る飛鳥博士
 彼らはわいのわいのやりながら部屋を後にする


 この後、期待通りというかやっぱりというか
 お年玉を個々の部屋長へ渡す道中、普通クラスの男子達に煽られた早渡は
 「男を見せてやらあ!!」などと理解不能な絶叫を上げながら女子寮への突撃を実行した

 無論、首輪の効果は抜群であったのは言う間でも無い話だ





 これが、「七尾」が襲撃を受け、そして解体する、その年の元日の出来事だ

 今にして思えば、あのときの俺、こと早渡脩寿は
 久し振りに屈託なく爆笑する九宮空七を、本当に久し振りに見たのだ






□□■
324 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2019/01/04(金) 03:10:39.87 ID:/ElaL/Wro
 
明けましておめでとうございます
本年も宜しくお願い致します

年始は投下分の整理を進めようと思います……
325 :次世代ーズ ◆John//PW6. :2019/01/23(水) 21:53:53.51 ID:wVaou1aSo
 

○前回の話

 >>209-216
 ※今回の話は作中時間軸で【9月】の出来事です



○三行あらすじ
 東区中学でいよっち先輩の“取り込まれ”をなんとかした (>>178-186, >>197-203
 「モスマン」に襲撃されたけど脱出に成功した(>>209-216
 良かったね!



○時系列

●【9月】
 ・早渡、「組織」所属契約者と戦闘

 ・「怪奇同盟」に挨拶へ     (アクマの人とクロス)

 ・東中で花房直斗、栗井戸聖夜から三年前の事件を聞く
  その際にいよっち先輩と出会う
  その後、診療所で「先生」から「狐」について聞く     (花子さんとかの人とクロス)

 ・東中を再訪、いよっち先輩が自分を取り戻す
  「モスマン」の襲撃から脱出

 ・「ピエロ」、学校町を目指す

 ・早渡、また「ラルム」へ     ☜ 今回はここ!

 ・∂ナンバーの会合
  「肉屋」侵入を予知


●【10月】
 ・「肉屋」戦 (9月終盤か、10月初頭?)
 ・「ピエロ」、学校町へ侵入


●【11月】
 ・「組織」主催の戦技披露会実施

 ・診療所で「人狼イベント」

 ・「バビロンの大淫婦」、消滅
 ・角田ら、「狐」配下と交戦
  新宮ひかり、上記交戦へ介入

 ・「ピエロ」、東区にて放火を開始、契約者らにより阻止される

 ・暗殺者二名がひかり、桐生院兄弟と交戦     (鳥居の人とクロス)

 ・「ピエロ」中枢、東区放火組に撤退か自害を指示






 
326 :次世代ーズ 31 「おさそい」 1/5 ◆John//PW6. :2019/01/23(水) 21:55:12.36 ID:wVaou1aSo
 









 今


 俺は


 何を考えていた?



 いけない、ボーッとしてた

 顔を上げる

 店内の照明が眩しい、慣れるまで目を細めた



 俺は今日も「ラルム」に来ていた
 学校で面倒な用事で捕まったので、ここに着いたのは夕暮れだ
 外の陽はもう落ちてるかもしれない

 意味もなく深呼吸する

 いよっち先輩はその後、高奈先輩の自宅に居ることになった
 結局東区中学から逃げ出して以降は直接会ってはいない
 「お嬢は面倒見いいから問題ねえよ」とは半井さんの台詞だが
 迷惑かけてないかちょっとだけ心配だ


 あの夜、いよっち先輩を連れ出したあの夜
 「モスマン」と戦ってどうだった
 俺はまるで動けてなかった。昔よりも駄目になってる
 立ち回りを振り返れば基礎的な心得すら抜け落ちていた
 これはブランクの所為でも、前のように技が編めなくなった所為でもない

 腑抜けてる

 学校町まで乗り込んできといて、これはまずい
 組織の変なのから逃げたときもそうだったけど危機意識が全然ない
 やばいよ
 大体夏休みは普通に動けただろ俺!?
 一体なんでだ、とか考えてる場合じゃないな。今まで以上に自主トレで遅れを取り戻さないと
 するとメニューは、だ。やっぱり“尾”を出したり消したりとか、制御を一からやってくしか


「あの……脩寿くん」
「うえっ」


 いつの間にかテーブルの傍に千十ちゃんがいた
 思わず変な声が出ちまった


「食事をお持ちしました、『野菜と厚切りベーコンのたっぷりラクレット』です
 ……なにか考えごとしてたの?」

「うん、ちょっと」

「そっか……」


 お、気の所為か千十ちゃん何だかもじもじしてる?


「あのね、脩寿くん。あの……、最近は毎日ずっと『ラルム』に来てるよね」
「ッッ!? あああ、あの、迷惑だった!?」

 
327 :次世代ーズ 31 「おさそい」 2/5 ◆John//PW6. :2019/01/23(水) 21:56:07.04 ID:wVaou1aSo
 


 千十ちゃんの言いたいことは分かるぞ

 ここんとこずっと「ラルム」にやってきては夕飯食べるようにしてたからな
 なんというか、いよっち先輩を探しに行く夜は必ず「ラルム」に寄ってたし
 つまり最近はずっと通いっぱなしだ

 で、「ラルム」はちょっとお洒落なイタリアンでフレンチのカフェ、だ
 店長さん曰く学生さんでも気軽に入れるようなお店にしたいってことだが
 正直なところ、俺のような奴がのこのこやってきて良い雰囲気の場所ではない


「ごめん千十ちゃん、さすがに迷惑だったよね」
「あっちがっ違うよ、そうじゃないの! ただ、あの……その」


 迷惑では、ない? だとしたら何だろうか?
 しかし千十ちゃんは見るからに言い辛そうな感じだ
 体の内側で、緊張が高まる
 俺は固唾を飲んで千十ちゃんの次の言葉を待った


「あの、あのね。うちって、他のお店より値段が高めでしょう?
 だからその、脩寿くんのお財布が、大変じゃないかなって……」


 千十ちゃんは内緒の話をするように声を潜めてそんなことを言う
 俺は思わず周囲を見回した
 よし大丈夫、普段はよく見るおばちゃんズの姿はなく
 対面で座る老夫婦と、サマーセーターのお姉さん以外にお客さんはいない
 今日の「ラルム」は普段より空いている。まあ平日の夕方だしな


「大丈夫! 全然平気だし! 痛くないし!」
「あの、脩寿くんって、自炊とかしてる? ご飯作るのって楽しいよ!」
「うん、自炊はするよ。独りで住んでると一応やらないとね。ただね」


 自炊、というワードに、この半年間が一気に思い起こされた
 今年の四月、学校町に引っ越してきてから初めて自炊をすることになった

 楽しかった
 作れる料理のレパートリーも増えた
 これ買う必要あるのかって鍋も買った。本当に楽しかったんだ

 でもね
 多分、独り暮らしな人間は体験済みなんだろうけど
 独りで食べるものを作って、独りで食べるんだよね
 これだけだと当たり前のことなんだけど
 実際に体験すると

 死にたくなる、寂しさのあまり


「というわけで独りで食べてると頭おかしくなりそうになるんだ!」

「そ、そうだったんだ……」

「だから外食のありがたみがよく分かるようになったんだよ!
 他人が作ってくれたものを食べられる幸せ! 最高に尊い!」

「だったら、あのね! あの、もし良かったら
 私のお家に、夕ご飯、食べに来ない? ど、……どうかな」

「えっ」

 
328 :次世代ーズ 31 「おさそい」 3/5 ◆John//PW6. :2019/01/23(水) 21:56:53.66 ID:wVaou1aSo
 



 千十ちゃん
 今、なんて

 夕ご飯を? 千十ちゃんのお家で? 食べる?


「うええあああの、そんな! 悪いよ!」

「気にしないで! あの、私のお姉ちゃんも、脩寿くんに会いたがってるし!
 それに、あの、久しぶりに色々、脩寿くんともお話したいし、だからあの、 ……だめ、かな」

「駄目じゃないけど!     でもほんとに、     いいの?」

「……脩寿くんが来てくれると、嬉しいです」

「是が非でも行きますよろしくお願いします」



 正直に白状します
 心のなかでは狂喜乱舞してます
 顔面もニヤけそうになるのを堪えてます

 落ち着け、俺!
 落ち着けるか馬鹿!!


「それじゃあ、あの、来週の金曜日はどうかな?
 その日ならお姉ちゃんも空いてるから」

「行きます、絶ッッ対に行きます」

「……! うん! ありがとう」


 笑顔でそう返す千十ちゃんの顔は
 暖色な照明の下でも分かるほど真っ赤になっていた

 思わず見惚れそうになりながら、不意に誰かの視線に気づく

 キッチンの方からコトリーちゃんと店長さんがこっちを窺っていた

 しばらく目が合った後、二人はゆっくり横にスライドして隠れてしまった



 待て

 どっから見られてたんだ!? 全部!? 全部か!?

























 
329 :次世代ーズ 31 「おさそい」 4/5 ◆John//PW6. :2019/01/23(水) 21:57:34.45 ID:wVaou1aSo
 









 陽はとうに暮れて、夜

 闇に紛れるようにして
 マジカル☆ソレイユは東区路上の一角を調べ回っていた


「えーと、ここでこう来て、こう動くとしたら
 ここに抱き枕を仕掛けるとして……あとは、そうね……」


 彼女はスクール水着の上から羽織りものを着て
 白の長手袋に白のニーソックスという格好だが、傍から見ればコスプレ趣味の危ない痴女だろう
 一応彼女に言わせれば、これは契約者としての活動装束なわけだが、傍から見れば危ないコスプレ女である


「あの男、ラルムでも見たから怪しいと思ったけど
 毎日のように東区を徘徊してるみたいね、いやらしい
 こそこそ変態行為の下調べをやってたってわけね、いやらしい
 でも、――この私とメリーから逃げられるなんて思ったら大間違いって理解させてやるわ」


 屈んだソレイユはビニールテープを路面に貼り付けている
 近場に光源がないため分かり辛いが、既にこの一帯には彼女によって無数のテープが貼られていた

 その様子を背後から相棒のメリーが眺めていた
 ソレイユの持ち込んだ段ボール箱の上に乗っかったメリーは
 むうむう鳴きながらソレイユに対し複雑な眼差しを注いでいた

 メリー
 「メリーさんの電話」と呼ばれる都市伝説
 それが実体化した存在がこの、白い体毛に黒い顔の、羊のぬいぐるみである

 そう、羊のぬいぐるみである
 原話(オリジナル)では外国製の人形と説明されるが
 明言されない場合が多いものの、おおむね「ヒト型の人形」という点は共通している
 何故羊のぬいぐるみの姿で実体化したのか謎であるが、今はそれが語られるときではない


 
330 :次世代ーズ 31 「おさそい」 5/5 ◆John//PW6. :2019/01/23(水) 21:58:13.77 ID:wVaou1aSo
 

「ねー、ソレイユちゃん、ほんとにやるのー?」

「自信があるわ! アイツは明日、必ずこの道を通る!
 100%の確立よ! 断言していいわ! 作戦は成功する!」

「むぅー」


 「本当に作戦を実行するのか」という意味で訊いたのだが
 「本当に作戦は成功するのか」の方で取られてしまった
 仕方がない、ソレイユは頑固だし一度決めたら中々考えを変えないタイプだ
 仕方がない、のだがそれ故にメリーは心配しているのだ
 そもそもソレイユが目を付けた“彼”が、あの変態クマの正体である確証はない
 それを確かめてからでも遅くはない筈なのだが、彼女は何故か“彼”こそ変態クマであると信じ切っている


「そういえば学校で千十と話しててね、今度友達を紹介したいって言われて」

「え、お友達ー?」

「そそ、しかも契約者で、男子よ。多分『組織』所属じゃないかもって話
 勿論私のことは黙っててほしいってことにしたけど、でもまさか男子苦手な千十がね
 珍しいこともあるものだわ」

「男子のお友達ー」

「まあどんな奴なのか知らないけど、ちょっとは興味あるわね
 千十が嬉しそうに話すくらいだからさ」

「わたしも会ってみたいなのー」

「そのうちね」


 よし、ソレイユは立ち上がった
 明日の準備が完了したようである


「あの変態クマに触手で全身を撫で回された屈辱……、一度たりとも忘れちゃいないわ」


 彼女の言葉に怒りと決意が籠った
 ソレイユの決意は固い。最早メリーが説得する余地がない程に


「明日の放課後決行するわ! いざ爆殺! 変態クマ!!」
「あっ……爆殺はやり過ぎだと思うのー」



















□■□
331 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2019/01/23(水) 22:09:00.79 ID:wVaou1aSo
 

>>330
 × 確立
 ○ 確率

 wikiをあらかた整理しました
 本編は【9月】を書いていきます
 エゴが溜まると突発的に【11月】のピエロなエピソードを投下するかもです
 ひとまず次回は早渡脩寿がマジカル☆ソレイユに襲われます
 以上です


 
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/01/27(日) 23:39:49.85 ID:SCYZvxF1o
乙です
なんだよ早渡、お前、家で夕食食べようイベント発生させて
その上次回はマジカル☆ソレイユに襲われる(意味深)なんて……ハーレムルート開拓する気かよ?!
333 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2019/01/30(水) 18:32:08.62 ID:WUV7HQbGo
 
>>332
ありがとうございます
もげろ!イベントを積み上げすぎるとあとでたいへんなことになりますが
早渡に関してはガンガン積み上げていこうと思っています😊

ところで小さい頃の早渡の好みのタイプは、長身で巨乳でブロンドの年上女性だった筈ですが
どういう心境の変化があって今に至っているか、よく分かっていない……
 
334 :次世代ーズ 前回 >>326-330 ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:12:52.12 ID:Qm5h1XQro
 




 この日の放課後も俺は東区を散策していた

 目的もなく単に歩き回っているだけかというとそれも違う

 理由あって大家さんが管理していた物件を片っ端から探し回っているんだが
 ネットで紹介されてる以外にも多数の物件を所有していたらしく、これが中々見つからない
 越して来てからというもの、歩き回ったり人づてに訊いたりして探索を続けてきたけど
 あんまり成果は上がっていない

 で、今探しているのは東区にあるという貸家だ
 「戸建ての物件」なことと、「大分前に、住んでた一家が全員失踪した」という怪しい曰くくらいしか情報がない
 いや特に二番目の、いかにも人の興味を引きそうな話題ならすぐに見つかるだろと思っていたが、甘かった
 同じクラスのダチ公曰く、東区にはそういう噂のある物件は意外と多い、らしい
 七月からずっと探し回っていたものの、色々あったおかげでまだ特定には至っていない


 まあ焦りは禁物だな
 前方を歩いている女子高生の背中をぼんやりと眺めながら、そんなことを考えていた
 あの制服は東区にある高校か、あの高校って確か自宅アパートに近かったような気もする
 正直なところ、商業高校に行く! って決めてなければ、東区の高校へ行くべきだった
 若干後悔してるところも少しあるが、まあそんなことはいいか


 「狐」の件も花房君達のおかげである程度情報を手に入れたし
 いよっち先輩の方も一段落ついたわけだし
 「狐」周りで大きな動きがあるまでは、しばらくこっちに専念してもいいかもだ

 にしても、さすがに最近はラルムに通い過ぎだったな
 足るを知るってやつだ。これからは週一、……いや週二にしよう
 というわけで今日はラルムへ行かないけど、大家さんのためにも探索は続けないとな
 それに地道に続けていけば、必ず手掛かりにも行き当たるはずだ


 角を曲がった


 しっかし最近は色々あってまともに東区を散策するのが本当に久し振りだ
 ここんとこずっと、いよっち先輩に会おうと中学辺りをうろついてたし



「ぎゃーっ!! 誰かーっ!!」



 色々考えていたところに
 割って入った絶叫


 俺の身体は身構えていた


 妙なのは、このとき脳裏を走ったのが
 「誰か襲われたのか?」ではなく、「なんだ今のは?」だったことだ

 声色がなんというか、わざとらしくなかったか
 演技っぽかったというか


 ていうか前にもあったな似たようなことが
 確かコトリーちゃんが赤マントに襲われてたときか



「誰かーっっ!! あ、赤マントがーっっ!!」



 「赤マント」!?
 野郎!! またか!?



 
335 :次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」 2/9 ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:14:11.18 ID:Qm5h1XQro
 

 一瞬、躊躇した

 何故だ? 何をためらった?




 とにかく、声のする方向へと、走る




 いや、でもおかしい

 絶叫の響き方からして声の主はそう遠く離れていない

 この距離で何かANなり異常があっとしたら
 まず何か気配というか“波”を感知できるはずだ


 感覚なら既に押し広げている


 “波”は感じた
 でもこれは「赤マント」のものじゃない
 「赤マント」の“波”は、概ね共通して錆び付いたような鉄のニオイ
 だが付近から感じるのはむしろ、乾燥したような、灼け付くようなニオイだ
 「赤マント」のそれではない

 そんなことは現場に辿り着けば分かる


 なのに何かが腹の奥底に違和のように貼りついてる

 何だこれは? 誘い出されてる、そんな感覚なのか?




 迷いを振り切るように

 路地に躍り出た




 声は確かにこっちから響いてきたはず
 だがどうだ
 人影も、ANの姿もない

 いやでも“波”は強くなってる
 これは間違いない

 そして、嫌なことに
 “波”は前方にある電柱から放たれている


 さらに嫌なことに
 普通、人間なりANなりから発される“波”ってのは
 そもそもが生命的な何らかのエネルギーっつう、確かそんな話だった

 だがなんか、前方から感じる“波”はちょっと違う
 生命的な要素がこれっぽっちも感じられない
 まるで物か何かに、“波”だけが貼りついているかのような“感触”だ

 こんな譬えが当を得てんのか微妙だけど
 「人間だと思って近寄ってみたら人形でした」みたいな感じだ


 なにこのホラー展開






 
336 :次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」 3/9 ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:14:54.36 ID:Qm5h1XQro
 

 走ってきた所為か鼓動が速まっているのを無理やり無視して
 俺は電柱に近づいていく


 電柱の裏に、なにか居た
 いや、あった


 緑色をした、細長いぬいるぐみだ
 珍妙なキャラクターだ
 身長は1メートルもないサイズだ


 そこは重要じゃない


 問題なのは
 このぬいぐるみの表面を這うように流れる
 無数の赤い光だ


 間違いない
 “波”の正体はこの赤い光だ


 ぬいぐるみの頭部は幾重にも巻きつけられるように
 さらに身体の表面も不規則な形で
 赤い糸のようなものが縛り付けてある


 糸の上を脈打つように
 赤い光が走っていく


 これは、“呪詛”ではない
 その判断はほぼ直観だった


 そして


 この時点でようやく気付いた


 このぬいぐるみ自体がANなのでは、ない


 ましてや、ぬいぐるみが生きているわけでも、ない


 単純に、ただの物に、“波”が、文字通り“貼りついて”いるだけだ


 つまりこれは罠だ




 咄嗟に振り返った

 “黒棒”を出すより前に、速く




 誰かが、居た










 
337 :次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」 4/9 ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:15:38.82 ID:Qm5h1XQro
 

 考えるより先に手が動く
 “黒棒”を生成して叩き込もうと、標的をよく見て―― 一瞬、思考が停止した


 目の前に居るのは、女の子だった
 そしてこの子の格好が、なかなか強烈だった


 薄い生地のマントっぽいのを羽織っており
 その下からスクールな水着っぽいのを着ている


 視線が、泳ぐ


 やたら目を引く赤い髪の女の子は
 物凄い表情で俺を睨みつけている


 一拍遅れて、気付く

 彼女は白い長手袋で覆った手で
 俺の顔面に棒きれを突き付けている

 いや、これ棒きれとかそういうアレじゃない
 先程感知した“波”と同種の、しかしぬいぐるみから発されていたそれとは比にならない圧で
 俺に対して彼女の“波”が放たれている

 棒きれではない
 これは、彼女の、“杖”だ


 OK、落ち着け俺

 彼女の格好は世に言うところのコスプレってやつだ
 そこはいい、彼女のちょっと露出高めの容姿に呆気に取られたのはいいとしよう

 なんで俺はこの子に睨まれてるんだ

 なんで俺はこんなに緊張してるんだ?
 どうして鼓動がこうも速くなってるんだ?

 まあ待て、落ち着け俺
 とりあえずこういうときは話し合いだ
 何故に俺をこんなえらい表情で睨んでくるのか、理由を聞き出しても怒られはしないだろう




「観念しなさい、この変態クマ」




 俺が口を開くより前に、彼女が言い放ってきた

 ほぼ同時に、耳元を高熱の塊がかすめていった

 直後、背後から破裂音が響いた




「言っとくけど、余計な真似したら消し炭にするわよ」




 低い、冷たい声だった
 脅迫するかのような、というより脅迫そのものだ


 一体俺が何をした!?
 いや、俺は一体何をしてしまったんだ!?


 
338 :次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」 5/9 ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:16:24.40 ID:Qm5h1XQro
 

 落ち着け、まずは整理しろ俺

 俺を罠に嵌めたのはまず間違いなくこの女の子だ
 だが罠を張って俺を待ち構えてたにしては、殺意や悪意の類はまったく感じない

 そうだな、これはなんというか
 純粋な、混じりっ気なしの、文字通りの怒り……だろう多分

 そう、彼女は俺に対して怒りを抱いている
 それも凄まじいほどの怒気だ

 そして彼女は確か、俺を「変態クマ」と呼んだ
 当然の話だがこんなワードに心当たりはない

 何かを勘違いされてる可能性が高い

 そして
 彼女が杖から放った灼熱の塊
 間違いなくこの女の子はANホルダーだ

 そして
 背後を振り返る余裕は勿論なかったものの
 灼熱の塊は、恐らくブロック塀だか何だかに直撃して破裂していた
 そのとき感知した“波”から推測するに、彼女のANは、十中八九炎熱系だ



 つまり、俺の、天敵だ
 直撃したら、大変なことになる
 最悪、死ぬ



「覚悟なさい、アンタが今までやってきたことを後悔させてやるわ」



 今まで誠実に生きてきましたと胸張って言えるわけじゃないが
 でも少なくとも目の前のこの子をここまで怒らせるような真似はした覚えがない
 というか、そもそもこの子とは初対面のはず

 クソッ、心臓が滅茶苦茶ドコドコ鳴ってやがる
 これはアレだ、「僕はやってません」とか「何のことだか分からないなあHAHAHA」とか
 迂闊な言い方したら大変なことになっちゃうやつだ
 落ち着け、慎重に言葉を選ぶんだ俺



「ごめん、あの、身に覚えがないんだけど」

「覚えがない。へえ、そんなこと言うの
 一言目がよりによってそれ? ふざけてるの?
 今まであれだけやりたい放題やって、身に覚えがないっていうわけ?」



 うわあ、めっちゃ怒ってる
 口振りが冷静な分、怒りがこっちに突き刺さってくる



「そう、とぼけるつもりなのね
 あらそう、なら数日前に東区の中学校で
 『学校の怪談』の女の子相手を追い詰めて
 いやらしいことをしようとしていたのも、身に覚えがないって言うのね?
 あの日一緒だった『人面犬』達はお仲間かしら? 今日は独りだから弱腰なわけ? 違うわよねえ?」



 待て
 今の話は、なんだ?
 まさかいよっち先輩のことか?
 だとしたら待て、何だその「いやらしいこと」ってのは!?
 人面犬ってのは半井さん達のことだよな? どういうことだ!? 身に覚えがないんだけど!?


 
339 :次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」 6/9 ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:17:08.29 ID:Qm5h1XQro
 

「独りでもあれだけやりたい放題やってたわよねえ
 知らないとでも言うの? いい加減になさいよこの変態!
 アンタが私の体を、その、アンタのいやらしい触手で、私のおし、その、……体を撫で回したことも知らないって言うの!?
 ヌルヌルのベチョベチョにするって言い放って、エロ……くっ……、あっ、や、やらしいことしようと迫ってきたこともとぼける気ね!?」

「待って本当に身に覚えがないんだけど!?」



 OK、誓っていい
 かつてセクハラ大魔王などと不名誉な仇名で呼ばれていた暗黒時代ならともかく
 「七つ星」を経て学校町へやって来た俺は、誓ってそんな罰当たりなことはしていない
 ついでに言っておくとセクハラ大魔王な七尾時代だって、セクハラに及んだのは年上の女性職員だけだ!
 というわけで俺ではない!!
 完全に人違いじゃねえか!? とばっちりもいいとこだよ!!
 とにかくこの女の子にそこんとこを理解してもらわないと



「そう、しらばっくれる気ね。いいわ、いいわよ。そっちがその気なら――!!」



 物凄い圧が、俺を叩きつけた

 一瞬、体が吹っ飛んだと錯覚するほどの圧だ

 ヤバい、呼吸ができない

 落ち着け俺、向こうはちょっと話が通じない感じだ

 こういうときは一旦逃げないと危ない



「――こっちにも考えがあるわ
 あくまでシラを切り続けるつもりなら
 本当のことを話したくなるまで、体 の 端 か ら 灰 に し て い っ て や る わ 」



 逃げ切れるのか、これ

 体が、動かない

 金縛りに、掛かったかのように

 完全に、“波”の圧に、射竦められた

 ヤバイ

 逃げないと、この女の子に、殺される



「逃げられるなんて思っちゃいないでしょうね?
 言っておくけど、前の私と同じだなんて思ってたら、死ぬほど後悔させてやるわよ」



 足が動かない


 目を見張る


 動けないならせめて、この状況を、どうにかして凌がねえと



「アアヴ・エ・ファイ、ヴァスヴォーシュ・アント          (炎の鎖、私の戦意)
 アルヴィル・ノッド・アルヴィル――          (強く、より強く――)」




 
340 :次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」 7/9 ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:17:59.31 ID:Qm5h1XQro
 

 やべえぞ呪文まで唱え始めた

 これは脅しでも何でもない

 証拠に、女の子の杖を起点に、“波”の圧が増している


 このままだと


 やられる


 殺される


 どうする、どうする俺!?


 “黒棒”や“尾”では歯が立たない、ならどうする!?


 どうする!?




「――って、待って!!」



 ほぼ、思考停止しかかっていた俺の頭に

 聞き慣れた声が、飛び込んできた



「待って!! ありすちゃん!! 駄目!!」



 思わず

 その声の主を、目で追った

 その子は東区の高校の制服を着ていた



「あり……ソレイユちゃん! 駄目! 待って!!」



 その女の子は、俺に杖を向けていた子と俺との間に割って入った

 コスプレの子の前に、立ちはだかるかのように両手を広げた

 コスプレの子から、俺を守るように



「千十ちゃん!?」
「千十ぉ!!??」



 俺と、コスプレの子の声がほぼ重なった
 間に入ったのは千十ちゃんだった

 でも、なんで千十ちゃんがここに?






 
341 :次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」 8/9 ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:19:00.53 ID:Qm5h1XQro
 

「ちょっ、千十!! 何やってるのよ、こっちに来て!!」
「待ってあり、……ソレイユちゃん、脩寿くんと何かあったの!?」
「千十!! ソイツから離れて!! ソイツが変態クマよ!! 早くこっち来て!!」
「変態クマって……」



 千十ちゃんは言い掛け、振り返った
 俺と目が合う

 心臓が、凍り付きそうになった

 千十ちゃんの顔は、蒼ざめていた
 感覚が押し拡がった今、千十ちゃんの感情が突き刺さるほどこちらに伝わってきた

 千十ちゃんが抱いているのは、強い恐怖だ

 彼女は、俺から目を背け

 コスプレの子へと向き直った



「変態クマって、前に話してた痴漢してくるクマのぬいぐるみのこと?」
「そうよ! だから、早くソイツから離れて!!」



 息が、詰まりそうになった



「違うよ、脩寿くんじゃないよ! そんなことをするような人じゃないよ!!」



 千十ちゃんの言葉に
 一拍遅れて、理解が追いついた
 彼女は、俺を庇っているのか



「そうだよね脩寿くん、そんなことやってないよね」



 指が、手が、僅かに震える
 動ける、もう動ける



 千十ちゃんは俺の方を向いていた
 その顔にはまだ恐怖が刻まれているし
 今にも泣き出しそうな表情だった



 俺は、千十ちゃんに応えた



「本当に身に覚えがないんだ、俺はそんなこと、やってない」
「ほら! 脩寿くんじゃないよ! だから……ソレイユちゃん、お願い。杖を下ろして?」



 ソレイユ、そう呼ばれたコスプレの子を見た

 彼女は千十ちゃんに困惑に満ちた眼差しを向けていたが



 やがて、ゆっくりと、俺に突き付けていた杖を、下ろした



 
342 :次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」 9/9 ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:19:39.21 ID:Qm5h1XQro
 

「千十、とにかくこっちに来て。早く」



 千十ちゃんは躊躇しているのか、再び俺に顔を向けた



 喉がカラカラだ
 心臓が早鐘のように収縮を繰り返してる



「俺は大丈夫、千十ちゃん。ありがと」



 それだけを搾り出した



 千十ちゃんは俺の方を見たまま二、三歩踏み出した
 それより先にコスプレの子が早足で千十ちゃんに歩み寄った
 依然、俺を睨みつけている



「ソレイユちゃん」
「ダメ、まだ信用できない」



 杖の代わりに取り出したのは携帯だった

 俺は口を強く結んだ
 そうでもしないと、全身から力が抜け落ちそうだったからだ

 コスプレの子はどこかに電話していた



「メリー」



 彼女は俺を睨んだまま
 それだけを通話先へ告げると



 千十ちゃんごと消失した



「は、あ」



 今度こそ本当に、力が抜けた
 辛うじて踏みとどまった

 完全にあの子の怒気に圧されていた



 助かった
 千十ちゃんに、助けられた



 それを理解するのに、どれくらいの時間が経ったろう



 俺はその場に坐りこんでしまった






□■□
343 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:20:31.11 ID:Qm5h1XQro
 

 早渡脩寿
   炎が天敵
   直撃すると多分死ぬ
   あと毒にも弱い

 日向ありす=マジカル☆ソレイユ
   変態クマ絶対許さないガール
   今回ので気づく人は気づいたかもしれませんが、彼女はある単発リスペクトなキャラです

 遠倉千十
   ありすとは同級生
   スゴい怖がり、契約者同士や都市伝説戦がとても怖い





 以上が side.A
 次回、早ければ今週末に side.B やります
 続きます

 
344 :代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2019/02/11(月) 16:04:48.68 ID:MdjjXc/co
今週末無理くさい……
345 : ◆John//PW6. [sage]:2019/02/11(月) 17:06:01.51 ID:P44/tLNXo
そういや週明けてたや……orz
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/13(水) 19:17:28.27 ID:ruEfGyeuo
ええんやで
ゆっくりいこうや
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/02/13(水) 20:31:52.87 ID:c1ZFq1pF0
まあこのスレは俺以外にプロの読者がいないだろうからな…(ズの人乙)
感想はまとめてぶん投げるのが趣味なんだぜ

昔のネタを発見して読み返してる内に懐かしさで死にそうになった
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/22(金) 20:23:23.96 ID:sNS5MRPlo
今更ですがまた道南で地震発生と聞いて
皆様方は御無事だろうか……
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/03/30(土) 11:13:40.23 ID:RpW6QSvH0
今年こそはとエイプリルフールに合わせて組織爆破予告のカウントダウンタイマーを作成しようとしたが
技術力不足でちょっと無理そうだな
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2019/05/26(日) 03:08:52.76 ID:3lR00lVH0
 
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2019/05/26(日) 03:09:47.01 ID:3lR00lVH0
 
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/05/28(火) 11:04:09.40 ID:sNQMiIR/o
十数年前にもう終わったと思っていたけどまさかこのスレが生き残っていたとは……
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/05/28(火) 22:16:03.59 ID:ewLw4CDmo
5,6年くらい前からずっと過疎ってるけど
一昨年はちょっとだけ盛り上がってたけど
ゆっくりしてってね!
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/06/15(土) 20:59:29.51 ID:WijZcjeN0
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」スレ、10周年おめでとうございます


「組織」

A-No.   花子
B-No.   ギザ十
C-No.   花子
D-No.   花子
E-No.   八尺様
F-No.   ハーメルン
G-No.   花子
H-No.   花子
I-No.   バール
J-No.   彷徨うみさき
K-No.   はないちもんめ
L-No.   闇子
M-No.   バール、次世代ーズ
N-No.   犬神憑き
O-No.   占い師と少女
P-No.   次世代ーズ
Q-No.   ハンバーグ
R-No.   シャドーマン
S-No.   花子
T-No.   T
U-No.   彷徨うみさき
V-No.   バール
W-No.   魔法の銃弾
X-No.   花子
Y-No.   やる気ない
Z-No.   三面鏡
β-No.   シャドーマン
Δ-No.   DKG
ο-No.   プラモデル
π-No.   三面鏡
φ-No.   DKG
χ-No.   シャドーマン
Ω-No.   DKG
о-No.   鳥居
х-No.   シャドーマン
Я-No.   シャドーマン
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/16(火) 22:42:30.76 ID:ph3DDB2To
 
「はい!やって参りました!『サキュバスラジオ』第1回目の放送でっす!」
「パーソナリティはアタシ、しがないサキュバスが務めまーす」
「いや普段はこんなテンション高くないの!日のある内は弱いんだけど夜になると強くなるのだ!」
「というわけで今夜はガンガンやっていくぞ!」

「えーさて、このラジオはなんと今回が初放送なんです…が!」
「なんとなんと、始まる前からお便りが既に2通も届いてるわけなんですよ!」
「これはもう読むしかないでしょ!アタシすごく嬉しい!今までこんなにはしゃいだ事多分生まれて初めてかも!」

「じゃあ記念すべき1通目、読みますよ?読むからね?」
「しかも結構長いんだよね、これは気合入るね!」
「えー…っと、ラジオネーム『ハンバーグ大好き』さんからのお便りです」

「『こんにちは、ぼくは小学生です』 おお、小学生の男の子から!
 小さい子からのお便りですよ!!小さい子がこのラジオの事知ってるってのは嬉しいね!」

「えーっと、
 『親が共働きなので家に帰るといつも一人です
  ぼくはマンションに住んでますがとなりの部屋にはきれいなお姉さんがいます』
 …あー分かりましたよ、もう分かりました!ハンバーグ大好きくんはお姉さんの事が好きなんだね?
 それでこのお便りは恋愛相談ってわけね!アタシはそういうの得意だからね!任せといて!」

「で、続きは、と…
 『いつもお姉さんがご飯を作ってくれるので、ぼくはお姉さんのお家で夕ご飯を食べます
  お姉さんのお家はくさいです。何のにおいかお姉さんに聞いたらビールのにおいだよと教えてくれました
  でもお父さんもビールを飲みますがこんなにくさくないです』
 Oh…これは、小学生ならではの…無邪気な一言が乙女心をキズつけるやつですよ!
 ハンバーグ大好きくん!仮にお姉さんの事が臭かったとしても、本人にそれを言っちゃ駄目だからね!傷ついちゃうから!」

「『お姉さんは恋人をぼしゅう中だそうです。でもお姉さんは料理は出来てもそうじが出来ないし家の中がくさいです
  お姉さんは夜のお仕事をしているのでよく見るとお肌も荒れています。この前はあんまり見ないでって言われました
  ある日、お姉さんが実は私はサキュバスなんだよって教えてくれました』
 おっ!急になんか、サキュバスラジオっぽくなってきたね!お姉さんのカミングアウト!
 これはもしかして、ハンバーグ大好きくんの事を信頼できる人間だって、お姉さんは思ったのかな?
 普通はね、人間社会に潜り込んで生活してるサキュバスは自分がサキュバスですって言ったりしないからね
 住んでる環境とかにもよるけど、相当信頼できるこの人になら全部バレても大丈夫だって思える人にじゃないと、打ち明けないものだし
 でも小学生に打ち明けちゃうサキュバス…、これは不思議っちゃあ不思議だけどな……
 あとねー、臭いとかお肌が荒れてるとか、女の人に軽々しく言っちゃ駄目だからね!将来大人になった時に女の子に嫌われちゃうぞ?
 お姉さんに直接言うんだったら、『たまには掃除した方がいいと思う』とか、『掃除の出来るお姉さんは素敵だと思う』とか
 言い方をよく考えてから伝えようね!アタシとの約束だよ?
 それで、ええと、続きは…
 『ぼくはサキュバスだからくさいんじゃないかって思いました』
 関係ないよそれ!?サキュバスは臭くないよ!!むしろいい匂いするんだぞ!!なんでそんな酷い事言うの!?
 もう!ちょっとハンバーグ大好きくんはデリカシーが足りなさ過ぎ!お母さんにさ、『女の人にデリカシーが無いって言われた』って言って!
 女の子に言っちゃいけない事をね、お母さんに教えてもらいなさい!!
 君の事、クラスの女子から嫌われてんじゃないかって本気で心配になってきちゃうよ…」

 
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/16(火) 22:52:31.02 ID:ph3DDB2To
 
「『お仕事中にかっこいい男の人が何人も来るそうですが、お姉さんはあまり相手にされなくてさみしいそうです
  最近、お姉さんはぼくを見ながら、もう年下の男の子でもいいから早くおよめに行きたいわって言います』
 あ……これ良くないやつだ。状況が生々しすぎる…。こっちの心にもきそう…。このお姉さんはいっぱい傷ついてるね…
 それで余裕が無くなっちゃってるんだ…。あのね、ハンバーグ大好きくん、そのお姉さんの事はそっとしてあげて?
 多分自分でもよくない状況だって分かってるはずだから、多分……。お姉さんがサキュバスならいつか必ず乗り越えるはずだから
 うん、そう信じたい…
 それで続きは…
 『でも料理が出来てもそうじが出来ないし、お肌も荒れてるし、くさい人はけっこんできないと思います
  このお姉さんはけっこんできると思いますか? おしえてください』
 余計なお世話ッ!!ハンバーグ大好きくん!?そういう事、お姉さんには聞いてないよね!?
 駄目だからね!?そういうの一番メンタル抉るやつだからね!!あとお姉さんにはもっと優しくしてあげて!!可哀想だよ!!」

「はー!もう!君はね、お母さんから『デリカシー』って言葉の意味をしっかり習っておくべきだとアタシは思うな!
 サキュバスとか関係なくね、女の子の心ってのは強い部分もあるけど弱い部分もあるものなの
 女の子には臭いとか、結婚できないとか、そういう言葉を使っちゃ駄目なんだよ?
 人を傷つけるような事ばっかり考える大人にはなって欲しくないからね?いい?『デ・リ・カ・シー』!大事だからね!」

「1回目からすごく説教臭くなっちゃった…。あ待って、まだ続きがある
 『あと、ぼくがご飯食べてる時にくさいストッキングをぬいでポイする人は[ピーーー]ばいいと思います』
 アウト!!なんで[ピーーー]ばいいとか言うの!!それ一番使っちゃ駄目なやつ!!サキュバスだって一生懸命生きてるんだぞ!!
 確かにだよ!?ご飯中にストッキングを脱いじゃうのはマナー違反じゃないかなって思うけど!!
 他人に軽々しく[ピーーー]とか言っちゃ駄目!!」

「アタシは…、ハンバーグ大好きくんの将来が本気で心配です…
 お父さんお母さんがこのラジオ聞いてたら、今度家族会議した方がいいですよ、絶対
 あとお隣のサキュバスさんにも優しくしてあげてください。彼女は愛に飢えてるだけなんです。多分…」

「1回目からテンションが下がってしまった…
 ええい!無理矢理上げていくからね!気を取り直して2通目のお便りいきます!」

「ええと、ラジオネーム…せ…『聖教会付き特殊部隊≪アビゲイル≫隊員コードネーム≪パウラ≫』
 な…長いですねー…。これ、読んじゃって大丈夫なやつかな…?」

「じゃ、じゃあ読みます…
 『はじめまして。初めてご相談させて頂きます
  単刀直入にお伺いしますが、≪サキュバス≫の弱点と効率的な討伐方法を若輩者の私にご教授頂けますでしょうか
  同族だからこそ知りうる情報を公開して頂けますと幸いです』 …待ってなにこれ
 ちょっと…なに、これ
 これ、ヤバイやつだよね?い、言っておくけどアタシ知らないからね?ていうか知ってたとしても教えるわけないでしょ!!
 『組織』に所属してるようなサキュバスとは違うんだよ!?アタシらみたいなのは戦闘力ゼロだからね!?
 戦えないサキュバスだって結構いるんだよ!?アタシも平和思想の持ち主だし!!なんで討伐するの!?やめて!!
 人間社会で生活してる大多数のサキュバスは省エネ生活送ってるから!清く慎ましい生活してるから!
 男をいきなり襲うみたいな犯罪みたいな事しないから!たまにやらかして警察か『組織』のお世話になるのもいるけど!!
 ていうかこのお便り、『同族』って書いてるよね!?えっなに?アタシがサキュバスだって知ってるって事!?
 もしかして目を付けられんの!?えっ嘘、えっ!?ヤバイやつじゃんこれ!?えっ?逃げなきゃ…!!」

「と、というわけで、『サキュバスラジオ』はこれで終了です!次回未定!さよなら!!」                    【終】
 
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/16(火) 22:58:32.82 ID:ph3DDB2To
令和になってから本スレがめがっさ重いが何があった…

ところでこのサキュバスは一体何を食って生きているのであろうか
 
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/18(木) 22:38:37.64 ID:E63e9bwco
これサキュバスさんしっかり食べるもの食べたら臭いと肌は大丈夫になるのにワンチャンあるんじゃ・・・
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/26(金) 10:25:08.45 ID:nXVRtAp30
そういや穏健派に所属の(Y-bニは言ってない)サキュバスって何食って生きてるんだ?
人間襲うのをある程度許容してんのかね?
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/12/18(金) 22:53:06.93 ID:pese5reF0
てすと
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/17(木) 19:32:28.96 ID:xh4d1uj30
亀だが次世代イベ大体読み終わった
残留思念の契約者とサイコメトリーの黒服が協力すれば狐の居所を特定できたのでは?と一瞬思ったが
お互いの発動条件と発動範囲が明確じゃないし無理ゲーかもな・・・
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/24(木) 06:45:08.72 ID:oLSu3Cx6o
一度触れちゃうとどう展開して決着したのか気になるもんですね
363 :単発:チームワークの勝利だ! [sage]:2021/12/22(水) 23:53:12.64 ID:Z6E8RoIW0

 これは、都市伝説と戦うために都市伝説と契約した能力者達の物語である。



 高速併走型と呼ばれる都市伝説は、実に種類が豊富である。
 一番の有名どころは、「ダッシュ婆」「ターボおばあちゃん」等と呼ばれる、人間とは思えぬスピードで追いかけてくる老婆の都市伝説だろう。
 高速老婆系だけでも、たとえばバスケットボールをドリブルしながら車やバイクに並走しボールを叩きつけててくる「ドリブル婆」。たとえば棺桶を担ぎながら並走した車やバイクの運転手を捕まえて棺桶に入れて火葬場に運ぶ「棺桶婆」。
 老婆以外でも、「高速でハイハイをする赤ちゃん」「ミサイル跨る女子高生」「スキップする少女」などなど。ご当地限定の存在もあげていけばキリがないほどだ。
 そんな高速系都市伝説の一体、「ホッピングばあちゃん」は苛立ちを隠すことなくそこをはね飛び回っていた。
「えぇい……うるさいんだよ、さっきから!」
 ホッピング……取手と足場の付いた棒の底面がばねで弾むようになっており、それに乗ってバランスを取りながら高く飛び跳ねて遊ぶ玩具でもって、「ホッピングばあちゃん」は地面にヒビを入れながら跳ね飛び続ける。
 がんっ、がんっ、がんっ、と、ホッピングが地面に着地し、飛び立つたびに地面にヒビが入る。貧相な老婆の見た目であるとはいえ、都市伝説である「ホッピングばあちゃん」が全体重をかけてフライングホッピングアタックをしたならば、その一撃を食らった者はただではすまない。
 聞こえ続ける耳障りな音を止めるべく、「ホッピングばあちゃん」は殺意をみなぎらせ続ける。
 ーーぱっぱらぱー!ぱらぱっぱっぱっぱー!!!!
 耳障りな音の正体は、トランペットだ。真夜中だというのに近所迷惑確定の大音量。それがずっと、鳴り響き続けている。
 ぱっぱらぱー!ぱらっぱっぱっぱっぱっぱー!!!!!
 いつもの夜のように道路を走る獲物を追いかけようとしていた「ホッピングばあちゃん」の耳に届いたその音は、「ホッピングばあちゃん」の背後から鳴り響き、そして「ホッピングばあちゃん」を追い越していった。
 なんという事であろう。「ホッピングばあちゃん」を追い越していったバイク、それを運転している者の後ろに、トランペットを構えた少年が座っていたのだ。
 危なっかしくも運転している者に背を向けた状態で座って、ぱっぱかぱっぱか、トランペットを吹き鳴らしているのだ。演奏はめちゃくちゃで、うるさいったらありゃしない。
 そもそも、トランペットにしてはなんだか音がおかしい。まるでラッパみたいにけたたましく鳴り響き続けているのだ。
 耳障りで、耳障りで、今宵の獲物はあれにしようと決めて追いかけているのだが。先ほどから全く追いつくことができない。
 追いかけっこの時間が続けば続きほど、「ホッピングばあちゃん」は苛立ち殺気立ち、冷静な判断ができなくなってきていた。
 ただただ、ただただ、トランペットのやかましい音を止めるために跳ね飛び続け。気づくことができなかった。

 己が、誘いだされていた事に。

 勢いよく、「ホッピングばっちゃん」はマンホールに着地した。その瞬間、びしり、とマンホールに大きくヒビが入り、砕ける。
 だからと言って、「ホッピングばあちゃん」がそこに落下していくことはない。マンホールが砕けるのと、「ホッピングばあちゃん」が跳び上がるのはほぼ同時だからだ。
 ただ。
「え」
 砕けたマンホールの下から。白い、白い……アルビノのように真白で、血のように赤い瞳のワニが飛び出してくることを「ホッピングばあちゃん」は予想しきれてはおらず。
 そして、その真白いワニは、まるでアメリカのパニック映画にでも出てきそうなモンスター級の……とてもじゃないが、その小さなマンホールから飛び出してくるには無理があるほどの巨体を誇っていて。
 ばくんっ、と。
 「ホッピングばあちゃん」は、一口であっさりと、全身のみ込まれて。
 ばきり、べきり、ぼきり、と。よく咀嚼して飲み込まれる音は、トランペットのやかましい音でかき消された。


「よく誘い出してくれたねー。助かった助かった。私の「下水道の白いワニ」は、下水道が主なテリトリーだからマンホールから長く飛び出すことできなくってさー」
 よーしよしよしよしよしよしよし、と己が契約している「下水道の白いワニ」を撫でてやりながら女はそう言った。
 バイクを運転していた男は深々とため息をつきながら、疲れ切った眼差しでもって自身が契約している「トランペット小僧」と共に女をにらむ。
「だからって、囮作戦はきつい」
 ぱーぺー。
 「トランペット小僧」も、契約者の男の言葉に賛同するようにトランペットを鳴らした。
 「下水道の白いワニ」の契約者は「ごっめーん☆」と反省度合いの薄い返答を返す。
「「首無しライダー」や「ゴーストライダー」とバイク勝負できるあなたなら、「ホッピングばあちゃん」相手でも大丈夫だと思って」
「後ろに「トランペット小僧」乗せた状態だときついんだよ!今回こそは死ぬかと思ったわ!!」
 ぱぱぱー。
 抗議の声もトランペットの音も「下水道の白いワニ」の契約者は華麗に聞き流す。
「だって、あなた達の能力っていつでもどこでもトランペットを出現させて演奏する、ってだけでしょ」
「水の上を歩くこともできるわ。「トランペット小僧」が出現するのは、池の真ん中の水面だからな」
 ぱっぱー。
「せいぜいそれくらいでしょう。なら、一番できる事はトランペットの音量を生かしての囮。あなた達が誘い出して私が倒す。最高のチームワーク!」
「こっちの負担があまりにも大きすぎる」
 ぱぱー。
「気にしない気にしない。ま、これからもよろしくねー」
 あまりにも反省度合いがない「下水道の白いワニ」の契約者。
 その様子に、「トランペット小僧」の契約者は静かに、「トランペット小僧」へとGOサインを出す。
「耳元大音量。GO」
 ぱぱぱぱーぱぱぱぱぱぱぱ!ぱぱぱぱっぱぱっぱぱーぱぱぱー!!!!!!!
「グワーッ!?耳元大音量グワーッ!!??」
 耳元で盛大にトランペットを吹き鳴らされ、悶絶する「下水道の白いワニ」の契約者。
 そんな契約者を「下水道の白いワニ」は助けるでもなく、トランペットの音から逃れるように明らかにサイズ的に入れるはずのない下水道への入口へと身を滑らせ、吸い込まれて行くかのように下水土井へと姿を消した。


 後日。
「しばらく夢の中でもトランペットの音が聞こえ続けて寝不足」
 と、「下水道の白いワニ」の契約者は語ったそうだが。
 どう考えても、自業自得なのである。



364 :単発:腕のいいマッサージ師 [sage]:2021/12/23(木) 00:54:01.25 ID:WH4aLp1m0

 これは、都市伝説と契約しているが特に戦う事はない者の物語である。


 酷く肩がこっていた。
 いや、肩どころではない。全身がばっきばきのばっきばき。首、否、頭のてっぺんから足のつま先まで全身疲れ切って凝り固まっている。
 日々、ブラック企業で社畜として働く彼女の肉体とストレスは臨界点を突破してそろそろ壊れる寸前だった。
「知ってる?〇〇温泉にさ、腕のいいマッサージ師の人がいるんだよ。予約とってやったから温泉でゆっくりしてそのマッサージ師さんに身も心も癒してもらってきなさい。知ってた?「この会社、死体が出勤してる」って噂流れてるんだけど。その噂の原因、どう見てもあんただから。顔色が化粧で誤魔化せないレベルで死人色だから」
 同僚からそんな風に言われ、上司に「休ませてくれないとここで死ぬ!!!!!!」と自分の喉にナイフつきつけながら上司を脅して有休をもぎ取り。
 温泉で寝落ちして溺れて死ぬという事故を奇跡的に回避し、彼女は今、マッサージ台の上でうつぶせになっていた。
「あぁー……」
 と、マッサージ師の男性は彼女の背中に触れると同時、苦笑するような声を出す。
 マッサージ開始前の問診して、「日々10時間のパソコン業務。朝から晩までトイレの回数まで制限されてパソコンの前に拘束されている」事や、そのせいで全身凝り固まっているはずだという事を伝えたうえでのこの反応だ。
 凝り固まっている、のだと思うのだ。いや、もうその感覚すら当たり前のものになっているので断言はできないのだが。
 どうやら、マッサージ師の反応を見るに実際に凝っていたらしい。良かった。大袈裟だと思われたらどうしようかと不安だった。
「確かに、すごい事になっていますね……ここまでのお客様はめったにいらっしゃいません」
 わぁなんだか褒められたぞやったー。
 背中をさすられてその段階でなんだかぽかぽかと気持ちよく、頭がふわふわしていて頭の悪い言葉が浮かぶ。
 たださすっているだけではなく、背中に触れることで凝り具合などを確認してくれているようなのだが。正直、すでに気持ちがいい。なるほどここが天国か。
「ちょっと、本気でいかせていただきます。あぁ、緊張なさらず、リラックスしてくださいね。マッサージは、緊張していますと効果が半減しますから」
 はぁい、と自分でも間が抜けていると思う声を出す。
 緊張なんてしていない、最初はマッサージ師が若い青年だった上にアイドルも真っ青なレベルのくっっっっっっっっっっっそイケメンだった為に緊張していたが、青年の声は聴いているだけでもなんだか安心して気が抜ける声質で。触れてくる手もいやらしさや下心0のもので安心できる。
 それでははじめますね、と優しく声をかけながらマッサージ師は施術を開始する。まずは精神のリラックス度合いについていけないレベルで、まるで外骨格に覆われているかのような固さを誇っていた肩甲骨周りを中心に優しく撫でさすられていく。
 ただ撫でさするだけではなく、程よく手のひら全体に力を入れて、指で揉むようなピンポイントではなく手のひらによる面で刺激を与えてくれている。
 あ゛ぁ゛あ゛ーーーー、等と温泉に入った時にも出してしまった、だらしないおっさんのような声がまた上がってしまう。
 イケメン相手にこんな声を聞かれるという羞恥心は死んだ、もういない。
 押し揉まれ、ほぐされ、体はどんどんぐっでんぐっでんになっていく。
「座り仕事と言う事で、お尻からもキてるでしょうから。こちらもほぐしていきますね」
 ばっちこーい、と思いながらはぁいと返事をする。これはマッサージなのでお尻に触れられても問題ない。実際、お尻もばっきばきだったらしく、えっちな気分には一切ならずお゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー、とまただらしない声が漏れる気持ちよさだった。そうか、お尻も凝るのか。
 途中、なんだか指が体の中に入ってきたような気もしたが気のせいだろう。あまりの気持ちよさにそんな錯覚を引き起こす……そんな錯覚を感じるほどに心地いいのだ。
 寝そう。いや、だが寝てはいけない。勿体ない。
 指が体の中にずぶんっ、と入り込んで、何かしら抜き取られたような気がしたが気のせいだろう。すーー、っとその辺りが楽になっていっている事から察するに、凝りがほぐされる感覚のようだ。
 寝そうだけど勿体ない。あぁ、でも眠たい……。
 そのうち彼女は睡魔に敗北し、すやすやと眠りに落ちてしまっていた。
365 :単発:腕のいいマッサージ師 [sage]:2021/12/23(木) 00:54:53.45 ID:WH4aLp1m0

 にゅぽんっ。ずるずる。にゅぽぽぽんっ。
 死体かな?と錯覚するほどに冷たい体(温泉に入った後のはずなのにこれは相当ヤバイ)の客の体から、マッサージ師はそれを引きずり出す。
 肩甲骨周りに、腰回りに、尻に、太ももに。指を文字通り沈みこませて引きずりだす。
 引きずり出されたそれは、黒くぼやけていてはっきりと姿を視認する事は出来ない。引きずり出すと抵抗するようにじたばたと暴れる。
 暴れるそれを、マッサージ師は構うことなく傍らに用意していた袋にぽんぽんと放り込んでいた。袋の中にはもうずいぶんとそれがたまっていて、袋はうごうごと蠢いている。
 マッサージ師は、それを「業」と呼んでいた。疲労にストレスを始めとした負の精神が混ざり合い凝り固まった物。勤め人にはどうしても体に蓄積されてしまう「業」。
 「温泉街の按摩さん」と呼ばれる都市伝説と契約しているこのマッサージ師は、語られるその都市伝説に出てくる按摩さんと同様に人間の肉体に蓄積された「業」を抜き取る事ができた。
 最も、これは契約したマッサージ師当人のマッサージの腕がいいからでもある。この都市伝説は、マッサージの腕前までは与えてくれない。マッサージの腕前自体はマッサージ師が日々勉強し努力して会得したもの。熟練のマッサージの腕前あってこそ「温泉街の按摩さん」の能力は発動し、客を癒すことができるのだ。
 ……それにしても、本当、疲れ切っているお客さんだ。問診での会話等から察するにブラック企業で日々肉体と精神をすり減らしているのだろう。もはや、自身の状況から脱しようとする思考すら働かなくなっているに違いない。
 抜き取っても抜き取っても、「業」が出てくる出てくる。久々の大豊作だ。
 マッサージ師は知っている。人間の「業」は限りなく甘美であると。「温泉街の按摩さん」と契約して以降、「業」の味の虜となったマッサージ師にとってこの客はまさに最高のお客様だった。
 我慢しきれず、抜き取りたての「業」を一つ、口の中に放り込んで味わう。
 あぁ、あぁ、あぁ、なんてすばらしく甘美な味か!!!
 この調子で、お客様の「業」を全て抜き取って見せよう。マッサージの腕前がいいと評判が広がれば、この「業」をもっともっと、味わい続けることができるのだから……!


 マッサージ前半で寝落ちてしまった勿体なさに膝から崩れ落ちはしたが。彼女は生まれ変わった気分だった。
 視界が明るい。思考が限りなくクリアである。晴れ晴れしい、おろしたてのパンツを履いたかのような爽快感。
「よし、明日から頑張るぞ!」
 証拠は山のようにある。張り切っていこうじゃないか。
 労基へと会社を訴える決意を固めながら、彼女は帰路へとついた。




366 :単発:永遠の子供 [sage]:2021/12/23(木) 22:01:59.67 ID:WH4aLp1m0

 これは、都市伝説と戦うために都市伝説と契約した能力者に後に倒されるであろう者の物語である。


 お父さんの顔は覚えていない。と、言うより、多分、見たこともないのだと思う。
 少なくとも、ぼくが覚えている範囲では家にお父さんの姿は一度もなかった。
 お母さんは、ある日から家に帰ってこなくなった。どこに行ってしまったのか、生きているのか死んでいるのかさえ、わからない。
 お母さんが帰ってこなくなって、ぼくはおなかがすいた。家にあった物をなんとか食べていったけれど、そのうち食べられる物は何もなくなった。
 あぁ、このまま死んじゃうのかな、と、ぼんやりと思っていた時。目の前に、きらきらと輝くものが飛んできた。
『はじめまして!私はティンカーベル!』
 キラキラと輝くそれは、まるでお人形のように小さくて、背中から透明な羽根を生やした女の子。
 ティンカーベルと名乗った彼女はぼくの周りをきらきらと飛び回りながら。
『やっと見つけたわ、私のピーター!』
 感極まった声でぼくを「ピーター」と呼んで、そうして。
『さぁ、私と契約して!また一緒に遊びましょう、私のピーター!』
 ぼくに、契約を持ちかけてきた。

 契約して、ぼくは思い出した。
 ぼくはピーター。ピーターパン。迷子になった赤ん坊が永遠に歳を取らなくなった、永遠の子供。
 妖精のティンカーベルと共にネバーランドで暮らしていて、親とはぐれた子供をネバーランドに導く存在。
 すべてを思い出したぼくは、ティンカーベルの魔法の粉の力を借りて、窓から外を飛び出して夜空へと飛び立った。

 思い出したからには、ぼくには使命と言うものがある。
 だって、ぼくは「ピーターパン」なのだ。親とはぐれた子供達をネバーランドへと案内する役目がある。
 ぼくは世界中飛び回って、そういう子供を見つけては保護して回った。そのうち、親とはぐれた子供だけじゃなく、親にいじめられている子供も集めていった。
 だって、ぼくは「ピーターパン」。子供たちを守るのはぼくの役目、ぼくの使命。
 ネバーランドは子供のための、子供だけの島。永遠に子供だけがいる世界。
 この島を守るのだって、ぼくの大事な大事な使命なんだ。


「ぇ、あ……ピーター…………なんで……?」

 そう、ここは子供の島!

「っひ、や、やめ、そんな、どうして……っ!?」

 ここは「子供だけ」の島!

「なんで、なんで、そんな……そんなのって……」

 そう、だから。

「勝手に連れてきて!大人になりそうになったら、こんな…………身勝手じゃないか、この……」

 この島には、「大人」はいちゃいけない、

「この、殺人鬼が!!!」


 持ち上げた大人を、高い空から叩き落とした。
 何か言っていたようだけど無視する。だって、大人はみんな嘘つきだから。話を聞くだけ時間の無駄だ。
 おかしいな、なんでだろう。
 このネバーランドは子供の島なのに。いつの間にか、連れてきた子供がいなくなって代わりに大人がいる。
 なんでだろう、おかしいな。
 これは、きっと、誰かの陰謀に違いない。
 世界中飛び回って知ったところによると、世界には「組織」「アメリカ政府の陰謀論」「薔薇十字団」「メンバー」「MI6」「第三帝国」「占い愛好会」「首塚」「怪奇同盟」「教会」「レジスタンス」などなど、他にも代償色々と悪い大人達の集団がいるらしい。
 きっと、子供たちがいなくなるのは、そいつらの陰謀だ!
 ぼくは「ピーターパン」。永遠の子供。子供達をネバーランドに導いて、悪い大人から守護する者。
 そんな悪い大人たちの陰謀になんて、負けるもんか。
 何度、この島に大人が現れたって、ぼくが全部やっつけてやるんだ!!



 子供は何も知らない、わからない、気づかない。
 子供は「ピーターパン」と言う「永遠の子供」になって、大人になる機会を永遠に失ってしまって、何も理解できない、わからない。
 ただただ、自分は正しいとうぬぼれて、自分は子供たちのヒーローなのだとうぬぼれて、大人達を殺し続ける。
 それがどれだけ親しくした相手であっても、大人になれば容赦なく、残酷に殺してけたけたと笑う。

 子供は何も知らない、わからない、気づかない、理解しない。
 そう遠くない未来、とうとう誰かに退治されるその瞬間までも。
 己の咎に気づけることは、ない。



367 :単発:真夜中の決闘と言う悪夢 [sage]:2021/12/24(金) 00:44:18.52 ID:v3CHZFiY0

 これは、都市伝説と戦うためではないが契約している能力者と契約している都市伝説と、とある都市伝説の戦いの物語である。


 深夜、街中の空を飛び回るモノがいた。
 一見するとコウモリに見えるそれは、しかし、明らかにコウモリとは違うモノだった。
 一つ、それは単眼であり。一つ、それは人間より小柄な小人くらいの大きさで。一つ、何よりも。

 それの股間には、あまりにも、あまりにも、ご立派なブツがぶらりぶらん、とぶら下がっていた。

 こんなコウモリ、自然界には存在していないだろう。むしろしていてほしくない。主に股間のブツが。
 エレクチオン状態でもないというのにあまりにもご立派すぎる。小柄な体躯にあまりにも似合わない、不相応すぎるブツ。
 風に揺られてぶらんぶららん、股間のブツを揺らしながらそれは夜空を飛び回り、家々の窓を覗き獲物を探す。
 とは言え、カーテンを閉めている家も多い為にまともに中を覗けない家も多いのだが。
 ……見つけた。
 不用心にも、開け放たれたままのカーテン。部屋の中にはベッドに入って眠っている青年一人。
 それは獲物を見つけた喜びで、空中でくるりと一回転した。
 ばさり、青年が眠るその家まで近づいていく。
 流石に、窓には鍵がかかっているのだが。それにとってそんなものは障害にはならない。
 それの体は、窓の手前で煙へと変化して。するりと細い細い、目に見えない程の細い隙間を通って部屋の中へと侵入した。
 まるで硫黄のような匂いを纏いながらも、それは単眼のコウモリのような姿へと戻る。ぶるんっ、と、その拍子に股間のブツが揺れた。

 現実逃避としてそれの名称をまだ記していなかったが、いい加減、現実に向き合うとしよう。
 それは、「ポポバワ」と呼ばれる、アフリカ東部にある某国の某島にて目撃されたUMAの一種である。
 外見特徴については股間のブツに関する記述を除けば大体前述したとおりである。
 ……いや、もしかしたら、股間のブツについても大体正しい記述かもしれない。
 何故ならばこのUMAには、深夜に民家に入り込みその家の男を大きな股間のブツで犯すという話が伝わっているからだ。
 伝わる話の通りであれば、股間のブツの大きさも人々の噂に伝えられている通りで間違っていないのだろう。

 まぁとにかく、そういうUMAなのである。UMAも都市伝説の一種。都市伝説の性として、「ポポバワ」は言い伝えられている通りに行動する。
 すなわち、今、眠っている青年へと襲い掛かろうと、ゆっくり、近づいていく。
 青年は眠り続けており、まさに絶体絶命のピンチ。

 だが。
 そこに、救いの神が現れた!!

「ヘーイ青年!今日こそワタシとDOKIDOKI☆ブルーフィルムタイムでーす!」

 勢いよく扉を開け放ち、この発言をかましたのは欧米人と思わしきナイスな筋肉質な肉体を誇る男性だった。
 もしかしなくとも、救いの神ではなく不審者2号だった。
 突然の闖入者に驚いたのか、「ポポバワ」はギギギッ、と不気味な鳴き声をあげて青年から離れる。

「むむ、まさか、ワタシの愛しい人の元にフラチな不審都市伝説!……良いでしょう」

 ばっ、と、筋肉質な男性は服を脱ぎ捨てる。
 鍛えられた筋肉がよりわかりやすくあらわになり、そして、その体躯にふさわしいブツがぶるんばるんと揺れる。

「この「エイズ・サム」!愛しい人のタメに不審都市伝説を追い払いマース!」

 ギギギギギギギッ!!!!
 「ポポバワ」も、やっと見つけた獲物を奪われたくなかったのだろう。
 戦闘態勢をとった「エイズ・サム」に対して激しく威嚇のポーズをとる。
 互いの股間のご立派様は、戦いの興奮によってエレクチオン。あまりにも凶悪なエクスカリバーと化していた。


 かくて、真夜中の決闘が開始された。
 こんなあまりにもひど過ぎる決闘が繰り広げられているにも関わらず、「エイズ・サム」の契約者の青年はすやすやと幸せな夢を見続けていて。
 このあまりにもひど過ぎる決闘について知るのは、翌朝、ダブルノックダウン状態で倒れていた二体を発見しての事だったという。



368 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/12/26(日) 14:28:05.48 ID:qznTdO4Mo
乙です

ホッピングばあちゃんや首無しライダー、ゴーストライダーから逃げられるトランペット小僧の契約者なかなかの逸材では?

マッサージ、俺も是非お世話になりたいのですが、このイケメンマッサージ師にはどこで出逢えるのでしょうか!?

ネバーランド勢……黒幕はティンカーベルでしょうか……やはり妖精は悪……っ

最期の絵面の汚さがやばいwwwwwwwwwwww

久々に楽しめました!
369 :年末単発祭り:デリカシーは投げ捨てて [sage]:2021/12/26(日) 23:28:49.17 ID:AmuOz4zK0

 これは、都市伝説と戦うために都市伝説と契約した能力者達が、一つ、戦いを終えた後の物語である。


「はぁ……っ」
 目の前で力尽き、消えていく刃物を持った「トイレの花子さん」を油断なく見つめながら、彼女はがっくりと膝をついた。
 激しい戦闘で、体中ボロボロだ。そもそも、彼女の契約都市伝説は、そこまで戦闘向きの都市伝説ではないのだ。
 それでもこうして相手を撃破できたのは、彼女の実力故か。
「契約者様、しっかり!」
 おろおろと、そんな彼女を気遣うのは、彼女の契約都市伝説である「カマキリ男爵」。身なりのいい服装をした人間より少し大きいくらいのカマキリの姿をしたナイスミドルである。
 「カマキリ男爵」との契約によって彼女が得た力は、ピアノの才能と腕をカマキリに変える能力。カマキリの腕のままでもピアノを弾けるという謎の力もある。
 とにかく、腕をカマキリの腕に変えて、それで戦闘を行っていたのだ。互いに互いを切り裂き合った結果、生き残った彼女はそれでもボロボロだった。
 体中、切り傷まみれ。幸い、傷の一つ一つは深くない為出血はそこまででもないのだが、じくじくと全身が傷む。
「私は平気…………それより、あいつは……あっちは、どうなったんだろ……」
 「カマキリ男爵」にそう答えながら、彼女はクラスメイトが戦っているはずの廊下の向こう側へと視線を向けた。
 「トイレの花子さん」との戦闘を開始した彼女に、横殴りするように襲い掛かってきた「紫ババア」。クラスメイトは、その「紫ババア」の相手を買って出てくれたのだ。
 一対二の状況は流石に厳しかったのでありがたい、が。
「……あいつ、契約都市伝説、戦闘向きじゃないって言ってたのに」
 具体的にどんな都市伝説と契約しているのかまではまだ聞けていなかったが、直接、戦闘に使えるようなものではないと聞いていた。
 それなのに、彼女を助けようと「紫ババア」の相手を、買って出てくれた。
「助けに、いかないと……」
「け、契約者様。しかし、そのお怪我では……!」
 よろめきながらも、彼女は立ち上がろうとする。
 助けないと、助けないと。
 互いに都市伝説契約者であると判明してから、積極的に交流するようになった彼。他人に対する扱いはぞんざいなようでいて、なんだかんだ都市伝説絡みで相談にも乗ってくれた彼を死なせる訳にはいかないのだ。
 なんとか、彼女が立ち上がったところで……人影が、見えた。
「あ、そっちも終わってたか」
「……!無事、だったんだね」
 彼だ。服がボロボロになっていて血が滲んで見えるが、こちらよりずっと余裕そうだった。
 少しだけ、ほっとする。
「振り切れたの?」
「いや、殴り倒した」
「なぐりたおした」
 思わずオウム返ししてしまった。都市伝説って殴り倒せるものだっけ。それとも彼がちょっと逸脱人なんだろうか。
「怪我は……?」
「舐めたから治った。そっちは…………かなり切られたな。手当するよ」
 大丈夫、と答えようとして……先程の彼のセリフが、少し引っかかった。
 舐めたから治った?
 疑問を浮かべた次の瞬間、彼の顔が近づいてきて。

 ぺろり、と、頬を舐められた。

「おぎゃっはぁああああああああああああああああああああああああ!!!!????」
「なんだ今の悲鳴」
「契約者様。乙女としてその悲鳴はどうかと」
 彼と「カマキリ男爵」からダブルでツッコミが飛んできたがそれどころではない。
 むしろ、ツッコミたいのはこちらの方だ。
「い、いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい、今、何をっ!?」
「舐めた」
 即答された。
 いや、舐めたって、突然、何をしてくるのか。
 パニックになりつつ、舐められた頬に触れて、気づいた。
「え……?傷、治って……?」
 その辺りも、切りつけられて血が滲んでいたはずなのに。そこだけ、痛みが消えている。恐る恐る振れれば、切り傷が消滅しているようだった。
「「舐めたら治る」。それが俺の契約都市伝説だ」
「なるほど……できれば、言ってから行動、してほしかったな……!」
 心の準備が必要だ、これは。
 彼も彼だ。なんの躊躇もなく、人の顔を舐めないでほしい。
 いくら恋愛的な意味では意識していないと言っても、クラスでそこそこモテる方である彼にこんな事されたら流石に焦る。
 彼女のそんな心境に、彼は気づいてはいない様子でじっと、彼女の様子を観察していた。
「…………本当、あちこちボロボロだな」
「え」
 とさっ、と。
 優しく、床の上に押し倒される。
「ちょっとじっとしてろ。残りの傷も治す」
「え…………あ、いや、待って、残りの傷も、って」
 彼の契約都市伝説は「舐めたら治る」で。
 そして、私は全身、ズタボロ切傷だらけな訳で。
 それを治す、と言う事は、つまり。
「傷、深くなさそうでよかった。内部まで傷ついてると舐めるの難しいしな。じゃ、まずは腕から」
「いやいやいやいやいや待って待って待って待ってストップ!!!タイム!!!!!いや止まってくれないし!?これくらい大丈夫!大丈夫だかrひゃぁん!!??」
「女の体に変に傷残したくないしな」
「気遣いっ!?でも捨てて!今はその気遣い捨てて!!!ってか、「カマキリ男爵」!ヘルプ!へるぷみーーーーっ!!??」
 あちこち、いやらしさは一切なく舐められ、傷を癒されていく。
 いやらしさはないというのに、その舌遣いにぞくぞくしたものを感じてしまい、思わず契約都市伝説である「カマキリ男爵」に助けを求めるも。
「…………ごゆっくり。どうか、契約者様をしっかり癒してくださいませ」
「あぁ、任せろ。次、太ももな」
「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!????」
 契約者を気遣う「カマキリ男爵」によってGOサインが出てしまい。
 夜の校舎に彼女の悲鳴は盛大に響き渡った。

 そうして、何か大切なものを失いつつも。彼女の体には傷一つ、残されることはなかったのだった。


370 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/12/27(月) 15:24:58.02 ID:rKgmrGVQ0
計測開始
371 :年末単発祭り:バーニングガール [sage]:2021/12/27(月) 15:49:50.73 ID:rKgmrGVQ0

 これは、都市伝説から身を守るために都市伝説と契約する事になった能力者の物語である。


 べちゃ、べちゃ、べちゃ。
 べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ、べちゃっ!!
 足音が近づいてくる。べとべとぬちゃぬちゃとした、気持ちの悪い、ぬるぬるとした者の足音が。
 追いかけてくる、追いかけてくる。夜の闇の中、それはずっと、私を追いかけてきている。
 逃げても逃げても、追いかけられる。助けを求めようにも、走り続けて、苦しくて、うまく声が出ない。
 こんな時に限って、誰ともすれ違う事もない。そんなど田舎と言う訳でもないのに、この時間はもう、人があまり外に出歩いていないとでもいうのだろうか。
 ちらり、と、肩越しに少しだけ、改めてその追いかけてくる者の姿を確認する。
 それは、黒い人間の姿をしていた。全身が黒い。黒々としていてぬめぬめしている。どうやら、黒いオイルのようなものが全身を覆っているらしい。そのせいで足音はべちゃべちゃとしていて、黒い油の足跡を地面に残していっている。黒い姿は闇に溶け込むようで、しかし、赤々と光る眼と、その手に持つナイフの刃が月明かりに照らされて光っているせいで完全には溶け込めていなかった。
 私は、それにかれこれ数十分は追いかけられていた。ここまで走り続けられた自分を偉いと思いつつ、そろそろ体力も脚も限界が訪れようとしていた。
 不気味なそれにつかまってしまったら、どうなってしまうかわからない。赤々と光るその目は、私を「獲物」として見ているようにしか見えなかった。
 なんで、どうして。どうして街中に、こんな、化け物が。
 疑問を浮かべたところで答えは出ないし、どうにもならない。足音は、どんどん、どんどんと近づいてきているのだ。
 そして。
「っきゃ……!?」
 とうとう、脚の限界が来た。無様に転び、転がる。そうなってしまえば、立ち上がろうにも立ち上がる事はできなくて。
「ぁ…………」
 黒いオイルまみれのそれが、私を見下ろしてくる。ぽた、ぽたっ、と、落ちてきた黒いオイルが私のコートを汚す。
 手が、伸びてくる、オイルまみれの手が。ナイフが、振り上げられる。月明かりがナイフの光に反射する。
 向けられるのは、害意、悪意。それと、性欲のようなもの。
 このままだと、私、は。

【敵対存在:「オラン・ミニャク」。マレーシア発祥都市伝説が一つ】

 こちらのコートをつかみ取ろうとする手の動きが、振り下ろされようとするナイフの動きが。
 黒いオイルまみれのそれの動きの一つ一つが、やけにスローモーションのように遅く感じて。自分だけ、時間の流れが変わってしまったような錯覚の中、妙な声が聞こえた。

【全身が黒い油まみれのナイフを持った男。女性を暴行する事件が複数回発生済】

 このままだと、私もその被害者の一人になる、と。
 聞こえてくる妙な声によって、認識させられる。

 ……嫌だ。
 嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ!!!
 そんなの、絶対に、嫌だ!!!!!

【契約を実行しますか?】

 その言葉の意味はわからなかった。
 けれど、契約とやらをすればどうになかるのではないか、と。
 何故か、そう思ったから。


「けい、やくを…………実行……する……!!」


 絞りだした声で、叫んで。
 直後、ざわり、自分の中を炎が走り抜けたかのような熱を感じた。
 熱い、と。自分が燃え尽きるのではないかと言う錯覚は、ほんの一瞬。
 その一瞬の直後、私は契約の実行によって何がなされたかを理解し。そして、世界のスピードが元に戻る。
 ナイフが、私に向かって、一気に振り下ろされて。それが私に届くよりも先に、私は、その力を解き放った。

「っぎ、ぃ、ぎゃああああああああああああああああああああっ!!??」
 それの……聞こえてきた声によれば「オラン・ミニャク」とか言う名前らしい存在が、燃え上がる。
 炎は、「オラン・ミニャク」の体を覆いつくしていたオイルに点火し、さらに強く激しく燃え上がる。
「わ、わわわわ……っ」
 燃え移ってはひとたまりもない。
 みっともなくも、地面をはいずって燃え上がり苦しみもだえる「オラン・ミニャク」から離れた。
「おの、れ……!契約者だった、とは…………畜生がぁあああああ!!!!」
 吠え声のような、おたけびのような、断末魔のような。そんな叫び声をあげながら、「オラン・ミニャク」が最後の抵抗と言わんばかりに私に迫る。
 その恐ろしさに、悍ましさに、私はさらにその力を。
 「人体発火現象」……それの、「間の体に含まれる遺伝子の中には発火性のものがあり、それが突然発火する」と言う説に基づいた都市伝説の力をさらに引き出して、「オラン・ミニャク」をさらに燃え上がらせた。
 苦しみの声が聞こえる。油が、人体が焼けていく嫌な臭いが辺りに広がる。
 「オラン・ミニャク」を焼いた炎は、幸いにもか、それとも特殊な炎故他に燃え移る事はないのか。「オラン・ミニャク」だけを燃やし尽くして。
 後には、人の形をした炭と、真っ黒こげになったナイフだけが、残された。
 その残った炭も、風に吹かれてさらさらと崩れて、風に流されて消えていって。
 最後には、座り込んだ私だけが、残された。


 これが、私が「人体発火現象」と契約したきっかけ。
 人を、人の形をした都市伝説だけを燃やし、燃やし尽くす力。
 恐ろしい力だとは思う。
 けれど、それ以上に恐ろしい存在に襲われた時、身を守れるのはこの力しかないのも事実。
「人の形してないのに襲われたらアウトなんだけどなぁ……」
 そういう時は、どうすればいいのやら。
 不安に思いつつも、私はこの力をコントロールする術を学んでいかなければ、と。そう認識する。


 死にたくないなら使いこなせ。殺したくないなら使いこなせ。
 これは、そういう力なのだから。

372 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/12/27(月) 15:51:08.44 ID:rKgmrGVQ0
約25分で書きあがり確認
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/12/27(月) 23:16:08.56 ID:rKgmrGVQ0

 これは、特に契約者を持たない野良都市伝説達の物語である。


 真夜中、とある山奥の車道。車も通る事のないその時間帯に、人影が集まっていた。
 おかしな光景である。こんな時間に、こんな山奥の車道に人が集まっていて。しかも、その大半が老婆なのだ。
 現場に、新たな人影が姿を現す。それもまた、異常だった。それは女子高生。どこからどう見ても、どこにでもいそうな平凡な女子高生。
 ひらり、膝丈のスカートを揺らしながらその女子高生はそこに集まっていた人影の群れへと近づいていく。
「……あ!女子高生のお姉ちゃん!こんばんは!」
「こんばんは、マリちゃん」
 女子高生に、一人の少女が近づく。マリちゃんと呼んだその少女が飛びついてきたのを、女子高生は優しく抱きとめる。
 ……マリちゃんの体は、うっすらと透けていた。まるで、幽霊のように。いや、「幽霊」なのだ。このマリちゃんは。それでも、マリちゃんの方から触れたいと思ってくれればこうして触れられる。体温までは感じられないのが、少しばかり寂しいが。
「皆さん、ごめんなさい。すっかり遅くなっちゃって」
「ひっひっひ、気にするんじゃないよ。あたしらが早すぎただけさ」
「無事、辿り着けたならいいんじゃよ。あんたもマリちゃんも、後でババ達がおやつあげるからね」
 老婆達はけらけらと笑いながら女子高生達にそう言ってみせた。完全に、自分の孫に接するような態度だ。この老婆達に実際に孫が存在するかどうかは謎だが。
 異様な集団は、みな和気あいあいと楽し気に話している。一番多いのは老婆であるが、中には鹿の胴体に老婆の頭部がついた者や牛の頭部をした着物姿の女性等あからさまな異形も存在していた。ある種一番異様なのは赤ん坊か。老婆達にかまってもらってきゃっきゃっと笑っているが、こんな時間にこんな場所にいるのはおかしい、
 また、リヤカーや自転車を整備している様子の人物もいた。真剣に、まるで真剣勝負に赴く直前のような雰囲気だ。

 そう。
 この場に集まった者達はまさに、真剣勝負の為に集まっているのだ。

「すっみませーん!大遅刻ーーーー!!!」
 と、現場に新たな人物が姿を見せた。マリちゃんと同じくらいか、少し年上程度のランドセルを背負った少女だ。
 正直、こんな時間に外を出歩いていたら大人から咎められそうである。それは、女子高生にも言える事だが。
「もう、みんな来ちゃってる?」
「そうだねぇ。そろそろ、始まりの時間だよ」
「整備してる組が整備する時間があったからえぇじゃろよ……あんたは、乗り物の整備はいらんのかえ?」
「私のは、その場で精製するタイプだから平気です」
 わいわいとおしゃべりしつつ、自然と皆横一列に並び始める。真剣勝負の、スタートラインに。
 数人の老婆が、異形の姿をした者達が、リヤカーを装備したおばちゃんが、自転車に乗り込んだ真面目なサラリーマンが、赤ん坊が、少女が、女子高生が。
 スタートラインに、ついた。
「それじゃあ、今年も私がスタートの合図をしますねぇ」
 よぼよぼの、腰の曲がった老婆が競技用ピストルを構える。この老婆もまた、真剣勝負の参加者ではあるが。こうして自ら、スタートの合図をする役目を担っていた。
 それくらいはハンデだ、とでもいうように。
「それでは、用意……!」
 皆が、構えて。
「スタート!」
 ぱぁんっ!と、音が鳴り響くと同時。
 一斉に、皆が駆けだし始めた。

「いっ、けぇええええええええええええええええ!!!!」
 ごぅんっ!!と、轟音と共に女子高生は己の相棒たるミサイルを呼び出した。それにまたがり、一気に加速し頭一つ抜ける。
 「ミサイルにまたがる女子高生」そのものでもある彼女の疾走スタイルはこれだ。
 高速走行型都市伝説によるフリースタイル競争において、ミサイルにまたがるのは違法ではない。
「ふぇふぇふぇ、相変わらず派手だねぇ!」
「でもねぇ、ババ達も簡単には負けないよぉ!!」
 「ターボばあちゃん」「ジェット婆」は、ぐんぐんと加速し、「ミサイルにまたがる女子高生」の後を追いかける。
「ばあさん達には負けんぞい!」
「そうじゃいそうじゃい!知名度では劣るが、スピードではそうそう負けん!」
 「ダッシュ爺ちゃん」「鞠つきじじい」も負けじと並走する。「鞠つきじじい」はその名の通り、鞠をつきながらも恐ろしいスピードで走っていた。
 ぽんぽんぽん、と、鞠をつく音は一つではない。
「み、みんな早い……でも、負けないもん!」
 マリちゃん……「鞠つきマリちゃん」もまた、鞠をつきながら皆へと追いすがる。その足元を、「高速赤ちゃん」がきゃっきゃっと楽しそうにハイハイで爆走してついてきていた。「高速赤ちゃん」は、これが勝負事であるとわかっているかどうか不明であるが。当人が楽しそうなので問題ないのだろう。
「く、速い……!私だって、80kmは出せているはずなのに……!」
 悔し気に「リヤカーおばさん」はそう呟く。少なくとも80km以上のスピードで走れると言われている彼女は、どうにもその語られるスピードに縛られがちだ。都市伝説とはどうしてもそういうものなのである。
 その点で言うと。
「うぉおおおおおおおお!!!!!!!!
374 :年末単発祭り:夜に駆ける   【途中送信申し訳ない!】 [sage]:2021/12/27(月) 23:30:01.75 ID:rKgmrGVQ0
 ひらり、膝丈のスカートを揺らしながらその女子高生はそこに集まっていた人影の群れへと近づいていく。
「……あ!女子高生のお姉ちゃん!こんばんは!」
「こんばんは、マリちゃん」
 女子高生に、一人の少女が近づく。マリちゃんと呼んだその少女が飛びついてきたのを、女子高生は優しく抱きとめる。
 ……マリちゃんの体は、うっすらと透けていた。まるで、幽霊のように。いや、「幽霊」なのだ。このマリちゃんは。それでも、マリちゃんの方から触れたいと思ってくれればこうして触れられる。体温までは感じられないのが、少しばかり寂しいが。
「皆さん、ごめんなさい。すっかり遅くなっちゃって」
「ひっひっひ、気にするんじゃないよ。あたしらが早すぎただけさ」
「無事、辿り着けたならいいんじゃよ。あんたもマリちゃんも、後でババ達がおやつあげるからね」
 老婆達はけらけらと笑いながら女子高生達にそう言ってみせた。完全に、自分の孫に接するような態度だ。この老婆達に実際に孫が存在するかどうかは謎だが。
 異様な集団は、みな和気あいあいと楽し気に話している。一番多いのは老婆であるが、中には鹿の胴体に老婆の頭部がついた者や牛の頭部をした着物姿の女性等あからさまな異形も存在していた。ある種一番異様なのは赤ん坊か。老婆達にかまってもらってきゃっきゃっと笑っているが、こんな時間にこんな場所にいるのはおかしい、
 また、リヤカーや自転車を整備している様子の人物もいた。真剣に、まるで真剣勝負に赴く直前のような雰囲気だ。

 そう。
 この場に集まった者達はまさに、真剣勝負の為に集まっているのだ。

「すっみませーん!大遅刻ーーーー!!!」
 と、現場に新たな人物が姿を見せた。マリちゃんと同じくらいか、少し年上程度のランドセルを背負った少女だ。
 正直、こんな時間に外を出歩いていたら大人から咎められそうである。それは、女子高生にも言える事だが。
「もう、みんな来ちゃってる?」
「そうだねぇ。そろそろ、始まりの時間だよ」
「整備してる組が整備する時間があったからえぇじゃろよ……あんたは、乗り物の整備はいらんのかえ?」
「私のは、その場で精製するタイプだから平気です」
 わいわいとおしゃべりしつつ、自然と皆横一列に並び始める。真剣勝負の、スタートラインに。
 数人の老婆が、異形の姿をした者達が、リヤカーを装備したおばちゃんが、自転車に乗り込んだ真面目なサラリーマンが、赤ん坊が、少女が、女子高生が。
 スタートラインに、ついた。
「それじゃあ、今年も私がスタートの合図をしますねぇ」
 よぼよぼの、腰の曲がった老婆が競技用ピストルを構える。この老婆もまた、真剣勝負の参加者ではあるが。こうして自ら、スタートの合図をする役目を担っていた。
 それくらいはハンデだ、とでもいうように。
「それでは、用意……!」
 皆が、構えて。
「スタート!」
 ぱぁんっ!と、音が鳴り響くと同時。
 一斉に、皆が駆けだし始めた。
375 :年末単発祭り:夜に駆ける   【データ量の関係で1レス収まらなかった……orz】 [sage]:2021/12/27(月) 23:31:15.44 ID:rKgmrGVQ0


「いっ、けぇええええええええええええええええ!!!!」
 ごぅんっ!!と、轟音と共に女子高生は己の相棒たるミサイルを呼び出した。それにまたがり、一気に加速し頭一つ抜ける。
 「ミサイルにまたがる女子高生」そのものでもある彼女の疾走スタイルはこれだ。
 高速走行型都市伝説によるフリースタイル競争において、ミサイルにまたがるのは違法ではない。
「ふぇふぇふぇ、相変わらず派手だねぇ!」
「でもねぇ、ババ達も簡単には負けないよぉ!!」
 「ターボばあちゃん」「ジェット婆」は、ぐんぐんと加速し、「ミサイルにまたがる女子高生」の後を追いかける。
「ばあさん達には負けんぞい!」
「そうじゃいそうじゃい!知名度では劣るが、スピードではそうそう負けん!」
 「ダッシュ爺ちゃん」「鞠つきじじい」も負けじと並走する。「鞠つきじじい」はその名の通り、鞠をつきながらも恐ろしいスピードで走っていた。
 ぽんぽんぽん、と、鞠をつく音は一つではない。
「み、みんな早い……でも、負けないもん!」
 マリちゃん……「鞠つきマリちゃん」もまた、鞠をつきながら皆へと追いすがる。その足元を、「高速赤ちゃん」がきゃっきゃっと楽しそうにハイハイで爆走してついてきていた。「高速赤ちゃん」は、これが勝負事であるとわかっているかどうか不明であるが。当人が楽しそうなので問題ないのだろう。
「く、速い……!私だって、80kmは出せているはずなのに……!」
 悔し気に「リヤカーおばさん」はそう呟く。少なくとも80km以上のスピードで走れると言われている彼女は、どうにもその語られるスピードに縛られがちだ。都市伝説とはどうしてもそういうものなのである。
 その点で言うと。
「うぉおおおおおおおお!!!!!!!!今年こそは負けん!!!!!時速100kmの壁…………超えて見せる……っ!」
 「100キロで走る車と並走する自転車に乗ったまじめなサラリーマン風おじさん」もまた、語られるスピードに縛られがちだが。その壁を、気合で突破しようとしていた。
 負けられない。そんな意地が彼らにはある。
 高速並走型都市伝説達は皆、己のスピードに誇りを持っている。
 これは、その誇りをかけた真剣勝負。
「モ゛ぉ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛オ゛オ゛!!!!!!」
「ぴぃぇえええええええええええ!!!!!」
 「牛女」が、「ぴょんぴょんババア」が、雄たけび上げながら追いすがる。
「負ける、もんかぁ!!!知名度が低くたってねぇ!!!速度は鍛えられるんだよ!!」
「ラン・ラン・ルー♪」
 「峠のよつんばい女」が、「首都高ドナ〇ド」が、自分達の前を走る者達を追い抜こうと隙を伺う。
「ふっふーん♪ボクは追い上げ型だー!」
 と、ランドセルを背負った「スキップする少女」が、普段、車相手にやっているように対戦相手達をスキップしながらすり抜けて追い抜いていく。追い上げ型、と言うよりも、「車の間をスキップしながらすり抜けていく」と語られているために、前に走っていてもらわないとスピードが出せないともいう。
 デッドヒートが繰り広げられていき、ゴールとして決めているラインが見えてきた……その時、だった。
(……!来る!!)
 ミサイルにまたがりスピードを上げ続けながら、「ミサイルにまたがる女子高生」は後方からの気配に気づいていた。彼女だけではなく、この勝負に参加しているほぼ全員が、気づいていた事だろう。
 スタートの合図を出した、彼女が。
 ………………来る!
 追い上げてくるのは、光。光そのもの。「光速ばばあ」と呼ばれる彼女は光そのもののスピードで駆ける。光の速度故姿は見えない。それでも来ているのだと、わかる。本能が告げてくる。
「これだけ、ハンデもらって…………負けられるかぁああああああああっ!!!!!」
「超えてやる、光の壁だって!!!!」
「これが!わしらの生きざまじゃああああああああああ!!!!!」
「らんらんるー♪」

 駆ける、駆ける、ゴールに向かって。
 勝負の行方は、参加者達だけが知っている。




376 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/12/29(水) 13:23:02.56 ID:EpRmvOFmo
にわかに読み物が増えてうれしみ


ペロペロくんとカマキリちゃんはこの後お互いに特殊な性癖に目覚めてハッピーエンドになればいい。
ペロペロくんは、こう、鈍感すぎて手遅れになったくらいで癖に目覚めていただきたい。

人体発火現象さん、解釈を極めて全て焼き尽くすウーマンになれるまで生き延びてほしい。

走り屋系は婆勢力があまりに強いwwww
ミサイルのJKも大概だけど、光速は卑怯だwwww
377 :年末単発祭りマン:「夜に駆ける」に脱字を発見したお詫びをかねた補足 [sage]:2021/12/29(水) 17:27:01.79 ID:i7rhNExS0
■単発「夜に駆ける」にてレースに出場していた高速並走型都市伝説一覧
・ミサイルにまたがる女子高生:読んで字のごとく。自動車を追いかけたり追い抜いたりするだけで攻撃はしない。「フロイト的な精神分析では、ミサイルやロケットなどの兵器は男性原理を表す」とも言われているが特に関係はおそらくない
・鞠つきマリちゃん:鞠つきをしている最中に車に轢き逃げされた少女の幽霊が、鞠をつきながら自動車を追いかける
・ぴょんぴょんババア:夜にぴょんぴょん跳びはねる老婆タイプと、鹿の胴体に老婆の頭の2タイプが存在。今回出場したのは後者
・牛女:着物を着て牛頭な四つん這いの女、もしくは牛の胴体に般若の頭の怪物の2タイプが存在。今回出場したのは前者
・高速赤ちゃん:高速でハイハイしながら追いかけてくる赤ん坊。きゃっきゃっ
・リヤカーおばさん:リヤカーを引いたおばさんが時速80kmの車と競争する。北海道出身なので恐らく雪道に強い
・100キロで走る車と並走する自転車に乗ったまじめなサラリーマン風おじさん;名前の長さでは出場者で並ぶ者はいない
・スキップする少女:白いブラウス、赤いスカート、ランドセル姿の少女。岡山の津山インターチェンジ付近にて時速80kmでスキップしながら車と車の間をすり抜けていく
・ターボばあちゃん:細かく色んな呼び名で存在するターボな速度で走るおばあちゃん
・ジェット婆:こちらはジェットな速度で走るおばあちゃん
・ダッシュ爺ちゃん:高速並走型は婆だけじゃない。爺もいる!
・鞠つきじじい:鞠つきしながら車を追いかける爺。マリちゃんとは特に関係ない
・峠のよつんばい女:別名「高速女」。四つん這いで車を追いかけてくる。ゴクミ似とのうわさ
・首都高ド〇ルド:首都高で爆走するドナ〇ド。貴様、何故ここにいる!?
・光速ばばあ;高速並走型最上位。その速さ光のごとし。故に視認不可。ピカピカの実は食べていない

※今回、「バスケばあちゃん」「ホッピング婆ちゃん」「棺桶婆」「ホッピング婆」等、そこそこ積極的に物理攻撃しかけてくるタイプは参加しておりません
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