3: ◆.6GznXWe75C2[saga]
2020/09/08(火) 21:26:00.58 ID:REk/3TwAO
 「おや」 
  
 校門を横目に歩き出したその時、聞き覚えのある声が耳を通り抜けた。懐かしい響きに思わず足を止める。 
  
 「比企谷か?」 
4: ◆.6GznXWe75C2[saga]
2020/09/08(火) 21:26:29.35 ID:REk/3TwAO
 「先生は今も総武高に?」 
  
 「いや、だいぶ前にやめたよ」 
  
 どうしてとは聞かなかった。そう口にする前に先生の左手に光るものが目に入ってきたからだ。 
5: ◆.6GznXWe75C2[saga]
2020/09/08(火) 21:27:03.56 ID:REk/3TwAO
 「はい?」 
  
 「ここにいる理由だよ。ただの散歩というわけではないんだろう?」 
  
 図星を突かれて言葉に詰まる。まだ実家にいるもののこの辺は別段家から近いわけではないから、理由なしに訪れるなんてない。 
6: ◆.6GznXWe75C2[saga]
2020/09/08(火) 21:27:41.49 ID:REk/3TwAO
 ―― 
  
 ―――― 
  
 それから俺と平塚先生は、立ち話もなんだからと近くの喫茶店に向かった。 
7: ◆.6GznXWe75C2[saga]
2020/09/08(火) 21:28:09.09 ID:REk/3TwAO
 「別に吸ってもいいぞ? 私は気にしないし、こういうとこでは普通のことだ」 
  
 「……じゃあ」 
  
 ポケットから紙箱とライターを取り出すと、平塚先生は自然に灰皿を俺の手元へとズラしてくれる。 
8: ◆.6GznXWe75C2[saga]
2020/09/08(火) 21:28:39.81 ID:REk/3TwAO
 「ただ、詳しい話に関しては、私は何も知らない。だから、比企谷に直接聞いているんだ」 
  
 「…………」 
  
 「まぁ、君が話したくないのなら、無理に聞く気はないさ。ただの私の興味本位でしかない」 
9: ◆.6GznXWe75C2[saga]
2020/09/08(火) 21:29:06.72 ID:REk/3TwAO
 ―― 
  
 ―――― 
  
 「ただいま」 
10: ◆.6GznXWe75C2[saga]
2020/09/08(火) 21:29:33.44 ID:REk/3TwAO
 ―― 
  
 ―――― 
  
 「子供、か」 
11: ◆.6GznXWe75C2[saga]
2020/09/08(火) 21:30:10.46 ID:REk/3TwAO
 「なら元教師として、元君の先生として、一つアドバイスをしよう」 
  
 「えっ?」 
  
 突如、懐かしい感覚に全身が包まれた。ここが職員室であるような錯覚が、脳髄を激しく貫く。 
12: ◆.6GznXWe75C2[saga]
2020/09/08(火) 21:30:36.83 ID:REk/3TwAO
 ―― 
  
 ―――― 
  
 平塚先生と別れてから十数分。 
13: ◆.6GznXWe75C2[saga]
2020/09/08(火) 21:31:33.20 ID:REk/3TwAO
 平塚先生が言わんとしていたことによって、自分の隠したい何かをさらけ出されたような気分だった。 
  
 俺の心は未だ、あの学校の片隅にある、ちっぽけな教室の中に取り残されたまま。 
  
 あの日俺を突き動かした情熱も、あの日何かを捨て去った後悔も、あるいは見落としていた何かも、あの場所で封印されたように眠っている。 
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