20: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/09(火) 13:51:58.21 ID:VN/U1bqQ0
  
 「悪いが、剣や槍は既に枯れた。だが、代わりになるものを用意した」 
  
  領主が、テーブルナイフを握り俺の眉間に向ける。 
  思わずギョッとするが、向けられているのは俺の頭の先だ。 
21: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/09(火) 13:52:30.42 ID:VN/U1bqQ0
  
  くそ、酒が欲しい。この震えを止めるにはもうそれしかない。 
  
 「やります」 
  
22: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/09(火) 13:53:44.40 ID:VN/U1bqQ0
  
  俺は、愕然としていた。 
  どうしてそんな恐ろしいことが言える。 
  魔物の恐ろしさは、お前だって知っているはずだ。 
  
23: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/09(火) 13:54:14.78 ID:VN/U1bqQ0
  
 「……領主さまが問題にしているのは、お前がまだガキだってことだ」  
   
  俺の言葉に、ガキが口を真一文字に結んだ。 
  どうして俺は、領主に助け舟を出しているのだろうか。 
24: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/09(火) 13:54:51.90 ID:VN/U1bqQ0
  
 「僕は、妹を抱いてこの街まで逃げてきたんだ」 
  
  今度は、俺の開いた口がふさがらなかった。 
  酷い誤解だ。まったく話が通じてねえ。 
25: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/09(火) 13:55:21.72 ID:VN/U1bqQ0
  
  俺は無言で立ち上がり、後ろに置かれた樽に向かった。 
  到底、武器とは呼べない農具の中からひざ丈ほどの棍棒を見つけ抜き取る。 
  羊や豚を〆るのに使ったのだろう。 
  棍棒には、既にいくつかの血のシミがついていた。 
26: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/09(火) 13:55:52.70 ID:VN/U1bqQ0
   
 「これは俺が使う。お前はそっちの棒でも使っとけ」 
  
 「酷いじゃないか! それは、その子の剣だ」 
  
27: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/09(火) 13:56:24.13 ID:VN/U1bqQ0
  
 「そうさ、俺は野盗さ! 東の山で野営を魔物に襲われ、仲間を全員失い、剣も具足も誇りも何もかもをかなぐり捨てて、街に流れてきた悪党だ!」 
  
  横目にガキと領主を見る。事の成り行きをを見守っているのか、微動だにしない。 
  
28: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/09(火) 13:58:16.49 ID:VN/U1bqQ0
  
 「善人ぶりやがって、てめえも盗人じゃねえか。その剣はどこで拾った!?」 
  
 「この剣は、お館様から預かったものだ!」 
  
29: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/09(火) 14:00:16.59 ID:VN/U1bqQ0
  
 「僕に、その剣は重すぎる。父の形見なんです。大事に使ってください」 
  
  ガキは、そう言うと腰に刺さったままの空の鞘を自ら俺に寄越してきた。 
  俺は、それを受け取り剣を納める。 
30:今日はここまで ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/09(火) 14:00:55.50 ID:VN/U1bqQ0
   
  流れ者の命を使って、街を守るつもりだろうが。 
  俺には、この街の為に命を捨てるつもりはねえ。 
  
  だが―――この剣があれば俺はまた戦える。 
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