858:少年よ五百円玉を抱け 2/10 ◆1ImvWBFMVg
2012/08/01(水) 07:43:21.62 ID:idTh5FcP0
では財布まるごと行ってしまうかもしれない、などと勝手に一人盛り上がっていると、指
先があまりに現実を突きつけるような硬い感触に当たっていた。
五百円玉。それしかない。残金はきっちり五百円。何度も手繰ってみるが五百円だった。
そう。あまりにもうっかり忘れていたが、銀行にもなくまさしく素寒貧なのだ。バイトの
給料が入るまで五百円で戦わなければいけない身である。飲食業のうま味で飯ならタダで
859:少年よ五百円玉を抱け 3/10 ◆1ImvWBFMVg
2012/08/01(水) 07:44:26.83 ID:idTh5FcP0
空の光が急にいっそう力強く輝いた気がした。次の瞬間、自分はその場で気絶していた。
気づくと自分は道の端に仰向けで寝転がっていた。こんな往来の真ん中でごろりと昼間
からである。常識では考えられないことだ。急にすこし恥ずかしくなり、大急ぎで起き上
860:少年よ五百円玉を抱け 4/10 ◆1ImvWBFMVg
2012/08/01(水) 07:45:23.36 ID:idTh5FcP0
いなものです』
「天使……?」
『ちなみにいまわたしを抱きかかえることは出来ません。もちろんこれは、まだあなたが
そうしたいと思っているならの話ですが』
861:少年よ五百円玉を抱け 5/10 ◆1ImvWBFMVg
2012/08/01(水) 07:46:10.07 ID:idTh5FcP0
『彼らが動くとは思えません。もしかしたら事件の方は防げるかもしれませんが、ただそ
れでは起こした犯人自体を救うことが不可能になってしまいます』
「えぇ? 犯人を助ける? 一体なぜ?」
犯人の事まで救うとは。天使だから、当然といえば当然の考え方なのだろうか。たいそ
う立派な志であるが、なるべくなら面倒事は避けたいというのがこちらの本音だ。
862:少年よ五百円玉を抱け 6/10 ◆1ImvWBFMVg
2012/08/01(水) 07:47:02.41 ID:idTh5FcP0
生き生きしている』
シャツの下、手首に貼り付けた五百円玉から、少女ののどかな声が響いた。今から大惨
事が起きるかもしれないというのに、ずいぶん悠長なものだ。
『すいません。でもわたしは見ているだけですから。頑張ってください、ジェントル克俊
さん』
863:少年よ五百円玉を抱け 7/10 ◆1ImvWBFMVg
2012/08/01(水) 07:47:47.70 ID:idTh5FcP0
んだら何にも意味がないと言うのに。正也はあの時の妻の不穏な様子を見ながら、止めら
れなかった自分を強く呪った。
だが一ヶ月後、保険会社から届いた手紙の内容は、とてもじゃないが妻の悲痛な願いを
叶えてくれるような代物ではなかった。様々な言葉や保険のルール、法律などが事細かに
書かれている数枚の書類が入っていた。だが、結局言いたいことは最後の【保険は満額下
864:少年よ五百円玉を抱け 8/10 ◆1ImvWBFMVg
2012/08/01(水) 07:48:24.63 ID:idTh5FcP0
「メニューはよろしいでしょうか。お決まりならお伺いします」
「え?……あぁオーダーだ。えっと、とりあえずコーヒー」
目がうつろで視線が定まっていない。まるでさきほどまでベットで悪夢にうなされてい
た人のようだ。
「かしこまりました。コーヒーはホットとアイスどちらにしましょうか」
865:少年よ五百円玉を抱け 9/10 ◆1ImvWBFMVg
2012/08/01(水) 07:49:04.66 ID:idTh5FcP0
さきほどまで狂気を募らせていた父親の顔つきが、急に憑き物が落ちたみたいに真顔に
なった。それから必死で、こちらには聞こえない音を聞き漏らさないように真剣に耳を側
立てている父親。
「正美。ごめん、手術間に合わなくて。ごめん。いや父さんホントな、だめだ……」
涙する父親の手には、五百円玉が握られていた。なんということだろう。少女の名前は
866:少年よ五百円玉を抱け 10/10 ◆1ImvWBFMVg
2012/08/01(水) 07:50:07.58 ID:idTh5FcP0
見えたと。もちろんイケメンが好きな女の子にはジャニーズ風の男の子にみえるわけです。
わかりました?」
「そんなのありなの?」
「さぁ? まぁだから飢饉や重税で苦しんでいた中世の農民たちには、天使にみえたと。
あまり深入りは出来ないけど、あれも気休めぐらいにはなっていたのでしょうか。希望っ
867:少年よ五百円玉を抱け 11/10 ◆1ImvWBFMVg
2012/08/01(水) 07:52:16.60 ID:idTh5FcP0
投下終了ー
感想だけーだれかーたのむー
ぜんかんも書くからー
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