過去ログ - 少女「ずっと、愛してる」
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103:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:35:41.79 ID:vAi26PND0
取り出されたのは、女性の小指ほどの長さの小さな造花だった。

「これ」

植物繊維で織られているのか、緑色の芯……その先に、まるで針の先で作ったような数重もの白い、五つの花びらを持つ小さな小さな花がくっついている。
以下略



104:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:36:14.36 ID:vAi26PND0
思わず唾を飲み込んだ妹の目の前で、姉はあっけらかんと微笑んで、すらりと言い放った。

「マルディがくれたの。綺麗でしょう?」

「は……?」
以下略



105:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:36:44.05 ID:vAi26PND0
「マルディって……あれ? ……何? もしかしてあんなのの花受け取って、ルケン様の花捨てたの……?」

「だ……だって。ヤナンも見たでしょう。あんなに綺麗な花を作るのよ彼。それにあの人はルケンなんかよりずっと」

「行くよ! 早く花を回収しなきゃ!」
以下略



106:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:37:12.01 ID:vAi26PND0
ヒステリックに返して、青くなりながら妹は廊下を走り出した。もはや後方の姉を気にしている余裕なんてなかった。手を離し、姉の部屋へと駆け出す。

(あの人は本当に……)

走りながら、胸の中が電撃を孕んだ毒液に満たされたようにギリギリと痛むのが分かった。
以下略



107:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:40:27.49 ID:vAi26PND0
4 風が、強い日

 ぼんやりと、天井を見ていた。
あそこまで妹がヒステリックに怒るとは、夢にも思っていなかった。それ程カランにとっては、羽も……あの花も、心底どうでもいいものだったのだ。
厚くかかった毛布の中で、寝巻きの体をもぞもぞと動かす。
以下略



108:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:41:09.54 ID:vAi26PND0
あの……臭い花は。
ため息をついて、六畳ほどの狭い部屋……その隅の戸棚に無造作に突っ込んだ造花に目をやる。カランは十七になっても、電灯を薄く点けておかないと寝ることが出来ない。ここ、地下の里には当然ながら窓というものはない。明かりを得ることが出来るのは天井からのみだ。
おびただしい数の本が、部屋の周囲に敷き詰められた本棚に突っ込まれていた。年頃の娘の部屋とは思えないほど、本に溢れてぐちゃぐちゃになっている。収まりきらないものは床に積み重ねられていた。
枕元には、妹が最後まで『捨てろ』と騒いでいたあの白い花があった。それを指先でつまんで、くるくると回してみる。
何処となくレモンの香りがした。
以下略



109:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:41:41.80 ID:vAi26PND0
あの、赤い血のような薔薇の造花から発せられるドブ川の臭いはしない。
結局朝は、いつまでもがなり立てている妹に久しぶりに大声を出してしまった。
そのせいで、今日一日ずっと口をきいていない。

(後で謝らなくちゃいけないな……)
以下略



110:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:42:13.16 ID:vAi26PND0
――ゴミと神様を比べるようなことよ――

ゴミ?
ゴミって、一体何なんだろう。

以下略



111:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:42:44.47 ID:vAi26PND0
好きで蝿を手で触る?
触らないでしょう。

それと同じことなのに……。

以下略



112:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:43:21.12 ID:vAi26PND0
――レモンの、匂いがした。

人がいた。鍵をかけて、ちゃんと戸棚の中の道具箱に閉まったはずなのに。
ベッドに入ってから、ずっと起きていたはずなのに。
何の気配も感じさせずに、その人は背中を丸めて椅子に腰掛けていた。
以下略



113:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:44:12.57 ID:vAi26PND0
しかし薄電灯に照らし出されたその顔は、その体格や服の様子とは似ても似つかないほどの明朗快活としたものだった。長く、茶色い髪の毛を合成樹脂で固めている。顔には部族の男性が正装する時のように、目元に赤い顔料で三本の線が、それぞれ右、左と引かれていた。線は口元まで伸ばされ、そこで切れている。
まるで鷹のような青い目をした男性だった。二十代前半だろう。明らかにカランよりも年上だが、しかし目はいたずらをする子供のように輝き、優しい光を放っていた。
足を広げた姿勢で座ったまま、彼はカランがこちらを向いてポカンとしているのを見て、にっこりと安心させるように笑ってみせた。

「よ、こんばんは」
以下略



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