過去ログ - 少女「ずっと、愛してる」
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108:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:41:09.54 ID:vAi26PND0
あの……臭い花は。
ため息をついて、六畳ほどの狭い部屋……その隅の戸棚に無造作に突っ込んだ造花に目をやる。カランは十七になっても、電灯を薄く点けておかないと寝ることが出来ない。ここ、地下の里には当然ながら窓というものはない。明かりを得ることが出来るのは天井からのみだ。
おびただしい数の本が、部屋の周囲に敷き詰められた本棚に突っ込まれていた。年頃の娘の部屋とは思えないほど、本に溢れてぐちゃぐちゃになっている。収まりきらないものは床に積み重ねられていた。
枕元には、妹が最後まで『捨てろ』と騒いでいたあの白い花があった。それを指先でつまんで、くるくると回してみる。
何処となくレモンの香りがした。
以下略



109:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:41:41.80 ID:vAi26PND0
あの、赤い血のような薔薇の造花から発せられるドブ川の臭いはしない。
結局朝は、いつまでもがなり立てている妹に久しぶりに大声を出してしまった。
そのせいで、今日一日ずっと口をきいていない。

(後で謝らなくちゃいけないな……)
以下略



110:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:42:13.16 ID:vAi26PND0
――ゴミと神様を比べるようなことよ――

ゴミ?
ゴミって、一体何なんだろう。

以下略



111:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:42:44.47 ID:vAi26PND0
好きで蝿を手で触る?
触らないでしょう。

それと同じことなのに……。

以下略



112:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:43:21.12 ID:vAi26PND0
――レモンの、匂いがした。

人がいた。鍵をかけて、ちゃんと戸棚の中の道具箱に閉まったはずなのに。
ベッドに入ってから、ずっと起きていたはずなのに。
何の気配も感じさせずに、その人は背中を丸めて椅子に腰掛けていた。
以下略



113:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:44:12.57 ID:vAi26PND0
しかし薄電灯に照らし出されたその顔は、その体格や服の様子とは似ても似つかないほどの明朗快活としたものだった。長く、茶色い髪の毛を合成樹脂で固めている。顔には部族の男性が正装する時のように、目元に赤い顔料で三本の線が、それぞれ右、左と引かれていた。線は口元まで伸ばされ、そこで切れている。
まるで鷹のような青い目をした男性だった。二十代前半だろう。明らかにカランよりも年上だが、しかし目はいたずらをする子供のように輝き、優しい光を放っていた。
足を広げた姿勢で座ったまま、彼はカランがこちらを向いてポカンとしているのを見て、にっこりと安心させるように笑ってみせた。

「よ、こんばんは」
以下略



114:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:45:02.52 ID:vAi26PND0
「え……」

予想だにしていなかったことだった。
いや……頭が完全についていかない。色々な考えが沸いて消えてを繰り返す。
カランは、決して聡い娘ではなかった。いや、妹の言う通りにかなり『トロい』人間であるというのは、誇張がなく本当のことだった。自分が周りの姫巫女候補の女の子達から、忌み嫌われて様々な嫌がらせを受けているという事実は知っていることには知っていたが、あまりに安穏としている穏やかな正確なため、大概は気づかずに呆然としてしまう。それが結果的には更なる虐めを誘発するという事実に、彼女は気づいていなかった。
以下略



115:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:47:12.83 ID:vAi26PND0
「あれ、どうしたの姫様。それ」

「きゃ……」

大分遅れて悲鳴が出た。
以下略



116:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:48:04.61 ID:vAi26PND0
彼は少しだけ泣きそうに顔を歪めた後、ポリポリと頭を掻いた。
数秒間、男性とカランは見詰め合っていた。
悲鳴をあげかけたのは反射的なものだった。
驚きが理性についてこなかったのだ。
幸い……と言っては何なのだが、この男性が押さえつけてくれたおかげで、僅かにカランも冷静にものを考えることが出来る余裕が生まれていた。
以下略



117:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:48:48.40 ID:vAi26PND0
ニヤニヤと笑いながら、また上半身を起こした彼女のことを嘗め回すように、上から下まで見つめる。
しかし彼は、肝心の彼女に反応がないのを少しの間沈黙して確認すると、困ったようにまた頭を掻いた。そしてマントの内側に縫い付けられていたポケットに手を入れ、しばらくガチャガチャとかき回し、中から親指の先くらいの金属製の薬箱を取り出した。

「ほいっ、と」

以下略



118:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 19:49:54.91 ID:vAi26PND0
生ぬるさと奇妙な刺激臭に、思わず体を硬直させる。少女は腕の痛みに眉をひそめた。しかし抵抗はしない。ただおとなしく治療と言っていいのか分からない、粗雑な行為を見ている。
男性は一折薬を塗ると、手馴れた動作で元通りに包帯を捲き直した。

「捲く時はさぁ、ここを、こうやって……締め付けすぎないようにしなきゃぁな。関節のところは何度か折りながら回すんだ。じゃなきゃ、腕曲がんないでしょ?」

以下略



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