過去ログ - 少女「ずっと、愛してる」
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152:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:14:02.34 ID:vAi26PND0
でも……。
でも、妹だけは分かってくれると思っていた。
言わなくても、分かってくれると……本当にただ安易にそう思っていた。
安心してしまっていたのだ。
マルディは、妹の思っているような男性ではない。そう、教えてあげるつもりだった。
以下略



153:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:14:31.81 ID:vAi26PND0
「あ……」

目が合った。
入ってきたのは、姫巫女候補の少女達だった。四人いる。カランよりも年上で、二十代の娘達だ。いわゆる『背水』の子供達だった。

以下略



154:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:15:02.59 ID:vAi26PND0
しかし、彼女にだって痛いのは嫌だった。ましてや傷が残るのなんてまっぴらだ。慌てて彼女達から離れようと、自分の頭だろうと体だろうとお構いなく投げ落とされる衣服を掻き分けて外に出ようとする。
そこで、一人の娘が足を上げ……まるで虫を踏み潰すかのように、這って出ようとしたカランの脇腹を踏みつけた。優しい踏み方ではなかった。胸骨が折れてしまったのではないかと言うくらい床に胸を叩きつけられ、ショックで思わず悲鳴を上げてしまう。
痛みが脳までジンジンと響いてきていた。恐怖と、先ほどの妹との喧嘩で呆けて訳が分からなくなっていた頭が本格的にパニックを起こしてしまう。
悲鳴を上げても、服を脱いでいる娘達は気づいた様子をしようとはしなかった。また別の娘が、今度はかかとの高い靴を履いたまま、奇妙な笑みを浮かべつつカランの右ふくらはぎにそれを踏みつけさせた。
骨と腱が圧迫され、正真正銘の切り裂くような激痛に、カランは掠れた叫び声を上げた。
以下略



155:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:15:35.93 ID:vAi26PND0
娘達の中でも年長の少女は、震えているカランを侮蔑をこめた目で見下ろし、ドン、と裸足の足で床を蹴った。

「ひっ……」

反射的にビクッと体を跳ねさせたカランを見て、娘達は動物ショーを見ているかのように甲高い、表向きだけは上品な笑い声を上げた。
以下略



156:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:16:09.44 ID:vAi26PND0
端的な声を上げて、腹を押さえて横向きに地面に固まる。一瞬羽が心配されたが、ゆったりとした生地が厚いローブだったため、折れる心配も外に飛び出る心配もなかったのがせめてもの救いだった。元々姫巫女候補の着る服は、羽を保護するように合成の樹脂針金が織り込まれている。だから背中辺りに衝撃を加えても、その殆どは拡散される。

「あったあった。あら……カラン、あなた変な臭いがするわよ?」

涎と、僅かに胃液のようなものを口の端から吐き出しているカランを見下ろし、娘は折角拾い上げた下着をポイ、とまた少女の方に投げ捨てた。そして彼女の白い髪を鷲掴みにし、自分の方に引き寄せる。
以下略



157:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:16:40.57 ID:vAi26PND0
「顔はやめなよ」

「ばれたら後が怖いよ」

流石に危機を感じたのか、他の娘達が口を開く。
以下略



158:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:17:11.39 ID:vAi26PND0
腹を抱えて、カランはやっとの思いで言葉を搾り出していた。その手は、腹に近いポケットに入れてあったゼマルディの花を掴み、握り潰さんばかりに力を込めていた。

「ごめんなさい……許してください……痛いのは嫌……痛いのはやめてください……」

「ねぇ何か言ってるよ?」
以下略



159:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:17:50.12 ID:vAi26PND0


――いつの間にか、気絶してしまっていたらしい。

気が遠くなることというのは今まで生きてきて何度か体験しているが、今回が一番深かったような気がする。途中で娘の一人が突き出した爪先がこめかみに当たってしまい。そこで意識が電灯の明かりを消すように途切れてしまったのだ。
以下略



160:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:18:29.53 ID:vAi26PND0
最初は幻覚かと思った。
カランは、小さい頃からそうだった。
夢想家という次元を通り越して、白昼夢を見ることが好きだったといった方がいいのかもしれない。妹から貸してもらった恋愛小説にはまったことがあることからも、それが影響を与えているのも少なからずあった。閉鎖的な空間で、そうでなくとも人間関係が限られる状況。しかしそこで、彼女は殆ど妹以外の人間と話をしたことがなかった。
そんな彼女がすがりついたのは、本だった。室の外からも頼めばあっさりと持ってきてもらえた。カランが不精な娘だったらそうはいかなかっただろう。
それが可能だったのは、つまることろ彼女の容姿。その美しさにあった。
以下略



161:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:18:57.28 ID:vAi26PND0
カランは、黒い一族筆頭の第一御曹司、ルケンのお気に入りだった。
とんでもないことだった。
何をやらせても人並み以下。容姿のみが取り得の、どんな羽かも分からない『足りない』娘が、それだけで選ばれるなんて他の候補にとってはあってはならないことだった。
それが結果的に。
自覚も、対処もさせないままカランを独りにしていた理由に過ぎなかった。
以下略



162:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/09(木) 20:19:34.26 ID:vAi26PND0
いや……お話の中の女の子は、助けてもらって泣いて抱きついたりしていたけども。実際にそういう状況になってみると、ただ、ただ一番最初に来るのは強烈な恥ずかしさだった。それに痛い。体中が痛くて、抱きついたりするどころの話ではない。
脱衣所の床に胡坐をかいて、丸まっているカランを膝に抱いていた男性……ゼマルディは、彼女が大きく息をついたのを見て、心底から安堵したように息を吐いた。

「お前一体どうしたのさ? 正真正銘びっくらこいたぞオレぁ。何だ? 喧嘩か?」

以下略



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