210:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:03:46.30 ID:87ru5DuQ0
ため息をついて花を置こうとすると、かろうじて繋がっていた根元部分がポキリと折れて、白い花びらがベッドにぶちまけられてしまった。
唖然とそれを目で追い……そして肩を落とす。
どうしてこんなことをルケンはしたんだろう。
よく、分からなかった。
211:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:04:15.46 ID:87ru5DuQ0
今も、泣きそうな顔をしているのをルケンは想像して笑っているのだろうか。
こんな無様な私のことを、彼は楽しんでいるのだろうか。
入り口近くの戸棚に目を向ける。そこには、一輪のバラのように茎も花びらも真っ赤なサクサンテの花が、コップに入れられて立っていた。ルケンの花だ。ゼマルディのものよりも数段大きく、また、彼のように繊細な造形ではない。花びらの枚数もとても少ない。大雑把な……造花ともいえないような代物だ。
そこに手を伸ばしかけて、しかし思いとどまってやめておく。
そしてカランは、唇を噛んで一つ一つゼマルディの花びらを拾い集め始めた。なくならないように、小さい頃から大事にしている道具箱に入れていく。
212:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:04:51.10 ID:87ru5DuQ0
三回目なので驚きはしなかった。
疲れなのか、ストレスからなのか。端正な顔……その目元にくまを浮かべているカランを壁に寄りかかるようにして見ていたゼマルディは、少し視線を宙に泳がせ……そしてポリポリと頬を指先で掻いた。
彼は横目で、戸棚にあるルケンの赤い花と……バラバラにされた自分の花を見て、また言葉を捜すように宙に視線を彷徨わせた。
そして、うなだれてまた花びらを拾い始めたカランに、素っ頓狂な声で笑いかける。
213:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:05:20.24 ID:87ru5DuQ0
「ごめんね。花壊れちゃった……」
いろいろなことが起こりすぎて、疲労も限界だった。何よりルケンに近づかれたせいで、鼻や胃がギリギリと痛い。顎をつままれたので変な臭いもする。一刻も早く風呂に入りたかったが、妹がいない今、また蹴られてしまうのではないかと思うと行くことが出来ない。
何より今は、夕方の定例礼拝の儀……その最中のはずだ。サボってここにいる以上、監査官にお咎めを喰らうかもしれない。
214:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:05:59.89 ID:87ru5DuQ0
「えーとお……出直した方がいいか?」
「……」
「リカラン? おい?」
215:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:06:32.61 ID:87ru5DuQ0
「ここの食い物はうめーからな。厨房に忍び込んでとってきてやっぞ?」
「……」
「風呂に行くか? 俺が入り口で見張っててやる」
216:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:07:25.18 ID:87ru5DuQ0
ゼマルディは途方に暮れたように頭を抑え、そして息をついた。
「そ、そっか。悪かったな……ほんじゃ俺ぁ戻るよ」
「やだよ」
217:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:07:53.84 ID:87ru5DuQ0
「ずっとここにいてよ……」
「あ…………ああ…………まぁ…………」
煮え切らない返事だった。
218:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:08:34.50 ID:87ru5DuQ0
「大変?」
「だろ?」
「大変じゃないよ」
219:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:09:06.16 ID:87ru5DuQ0
相当精神的にも肉体的にも疲労しているらしい。正直、ゼマルディからしてみても有頂天になっていたため、それが閉塞空間で囲われている少女の体力にどんな影響を与えるのか、それを推し量ってはいなかった。
何しろ五年以上前から狙っていた女の子なのだ。自分には到底届かないような高嶺の花だと思っていた。実際にそうだ。こうして喋っているところを他の誰かに見られれば、自分は黒い一族からの討伐隊にたちどころに駆除されてしまうだろう。
そう。
だからこそ……。
ゼマルディは真っ青になりながら、ルケンの花をチラチラと見ていた。その視線にやっとカランが気づき、不思議そうに口を開いた。
220:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:09:35.19 ID:87ru5DuQ0
生返事を返す。それをカランは、彼が苛立っている証拠ととったらしい。
「触りたくないんだよ」
慌ててそう言って、彼女はコップを手にとってルケンの花を突き出した。
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