過去ログ - 少女「ずっと、愛してる」
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238:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:19:52.31 ID:87ru5DuQ0
昼間……ルケンと会った時、カランは廊下の突き当たりに彼がいたことを知っていた。ルケンの視線を追っていくと、柱の陰に隠れている彼のマントと思われるものがチラリと見えたのだ。それどころか、あそこまでルケンに近づかれたのに正気を失わなかったのは、ゼマルディのレモンの香りがしたからだったのだ。
彼は悪くない。
彼は、何一つとして悪くない。
そもそもの本質が違うのだ。

以下略



239:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:20:23.56 ID:87ru5DuQ0


 やってしまった。
迂闊だった……つい今日、彼女に言った言葉をあまりの緊張で忘れてしまっていた。

以下略



240:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:21:01.78 ID:87ru5DuQ0
――待ち伏せ。

その単語が頭に浮かび上がるのと、自分の体に投げ鎖――黒い一族の刑仕官が使用する、主に龍を捕縛するための道具が思い衝撃と共に捲きついたのは、殆ど同時のことだった。
鎖の先端には重さ一キロほどの分銅が取り付けられている。鎖が捲きつききると、それの錘に体のいたるところを殴りつけられ、溜まらず肺の中から息を吐き出す。
失策だった。
以下略



241:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:21:31.48 ID:87ru5DuQ0
どうも当たり所が悪かったらしい。状況を認識するより先に、右腕上腕に凄まじい痛みが走り、ねじ切られるようなその衝撃に叫び声を上げ、彼は地面に転がった。足や、首に至るまで鎖が捲きついているので身動きが取れない。分銅の位置にも寄るだろうが、右腕を集中的に打たれてしまっていた。骨が何段かで折れ曲がっているらしい。ありえない方向に腕が曲がり、鎖に締め付けられ骨が圧搾される鈍い音が響いている。

(な……何だ……?)

訳が分からない。
以下略



242:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:22:04.39 ID:87ru5DuQ0
首に引っかかった鎖を引かれ、無理矢理に状態を海老反りに起こされる。歯を食いしばると、脂汗浮いた目の前に、焼却炉脇の粗大ゴミの上に腰を下ろしてにやついているルケンの姿が映った。
そこは、小高い丘のようになっていた。積もっているのは全て白い里、黒い里から出てきたゴミ類だ。それが中央のかまどのようになっている、全長十メートル四方はある巨大焼却炉に放り込まれる仕組みになっている。
炎が燃えている焼却部はここからさらにもっと地下になっているが、熱く焼けた鉄は離れたここからでも分かるほど真っ赤に発熱していた。痛みと熱さ、そして混乱した頭が発する警鐘で目を白黒させながら、ゼマルディは手に火掻き棒を持って立ち上がったルケンを凝視していた。
彼は燃え盛る火など意にも介していないといった風に、先ほどまで棒の先端を焼却炉の入り口に突っ込んでいた。合成素材で出来ているその棒の先端が、真っ赤を通り越してオレンジ色に焼けている。


243:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:22:35.37 ID:87ru5DuQ0
ニタニタと笑いながら、十二、三ほどにしか見えないその男はゼマルディの前まで来ると、周りの刑仕官達が鎖をきつく絞り込んだのを確認して、ゼマルディが握り締めていた自分の花を指でつまんで取り上げた。そして胸ポケットにそれを指し。
彼はためらいもなく、焼けた火掻き棒の先端を、ゼマルディの右目に押し付けた。

一瞬、意味が分からなかった。

以下略



244:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:23:04.62 ID:87ru5DuQ0
生肉を焦がす青臭い、真っ黒な煙が彼の目から噴出している。ボダボダと垂れ流されているのは、顔面の肉が溶けて油となり、そして火がついて燃え尽きていく過程で出来た結露だった。
たっぷり十数秒は棒を押し付けると、それに張り付いた皮と共に、ルケンはポイ、と脇に凶器を放り出した。
白目を向いて痙攣しているゼマルディの体が弛緩し、鎖に支えられる形でダラリと垂れ下がる。ひょっとしたらショックで死んだのかもしれない。それ以前に、その時のゼマルディは、自分の魂が体に入っているのか、それとも三途の川の出口にいるのかさえも分からなかった。

痛みと熱さ、そんなものではない。
以下略



245:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:23:30.82 ID:87ru5DuQ0
まだ、溶けた肉と皮はポタポタと垂れ落ちていた。意外なことに血は殆ど出ていなかった。焼ききられてしまったのだ、蒸発して、それでおかしな形で癒着されてしまっている。右目は完全に破裂し、眼窟からは真っ黒に焦げた骨が覗いていた。その強烈な火傷は右顔から右頭頂部、そして左鼻を越えるところまで広がり、あまりの熱量を至近距離で浴びたがために、左目さえも白濁していた。
意識を失っているゼマルディを、たっぷり数分間は鑑賞した後。ルケンは興味を失ったように肩をすくめて、彼の無事な方の髪を掴んで顔を引き起こした。

「やあ、おはようマルディ」

以下略



246:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:24:09.37 ID:87ru5DuQ0
「さて」

「……」

「お前たち、あの『俊足のマルディ』をこうやって捕獲できたわけだが、どうする?」
以下略



247:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:24:38.67 ID:87ru5DuQ0
「じゃあ、こいつを俺のカランの目の前でひき肉にしようか」

「姫巫女宮にてでございますか? 流石にあそこで処刑を執り行うことは、元老院の御方々の逆鱗に触れかねないかと」

「構わん。俺がいいといったら、別にいいんだ。それに処刑じゃあない」
以下略



248:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:25:08.29 ID:87ru5DuQ0
「そろそろ発狂するかな? それとも失禁するかもしれないな。とりあえず前菜はこいつの兜煮にしてやろう。第一声が楽しみだよ」

ルケンは、ゼマルディの髪を掴んだまま、ずるずると引きずりつつ歩き出した。

「楽しみだよ。ほんとにさ」
以下略



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