過去ログ - 少女「ずっと、愛してる」
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395:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:10:27.75 ID:Z6fjuYRs0
何が良くて何が悪いか何て、考える必要はなかったんだ。
だって、俺が何もしなければ。
少なくとも俺が何もしなければ。
この子は外の世界も知ることもなく、外の暖かさを知ることもなく、男も、常識も、優しささえも知ることもなくただ生きて、殺されて魂に還っていた筈なのだ。
その循環の輪を壊してまで、自分は何をしたかったのだろうか。
以下略



396:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:11:00.23 ID:Z6fjuYRs0


気づいた時には、ゼマルディは白髪の妻の上半身を折るようにして覆いかぶさっていた。その無骨な左手……一本だけ残った腕で、棒のような彼女の首を握り締めていた。
カランは、何度か口をパクパクとさせると、一瞬だけ目を白黒とさせた。しかしすぐに、泣きそうに――いや、実際うっすらと涙を浮かべている夫の顔を見て、体の力をフッと抜いた。
ぐったりとしたカランを見て、ゼマルディはすぐに我に返った。そして慌てて彼女を抱き寄せ……ボロボロと大粒の涙を零した。
以下略



397:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:11:26.33 ID:Z6fjuYRs0
「…………こわい?」

先ほど喉を傷つけてしまったのだろうか。微妙にくぐもっている。
ゼマルディは、彼女の顔を直視することが出来なかった。

以下略



398:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:11:57.06 ID:Z6fjuYRs0
ゼマルディという一個の存在が今まで生きてきた中で、砂粒以下でしかない程の時間を占有した、その一言。
しかしそれは。
彼の今までの人生それ全てを押し流し、洗い流してしまうほど。
圧倒的に、優しすぎる言葉だった。

以下略



399:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:12:26.55 ID:Z6fjuYRs0


 それは唸り声だった。
純然たる、最も根幹的な威圧だった。
そしてそれは、笑っていた。
以下略



400:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:12:56.68 ID:Z6fjuYRs0
マンションの最上階から落下したルケンとゼマルディは、合成コンクリートの地面を深度二メートル以上もすり鉢型に陥没させていた。その中心に、ルケンは頭を抑えてうずくまっていた。
驚異的なのは、化け物の耐久力より先に生身であるはずのルケンが、落下の衝撃に耐え切っているという事実だった。左肩の骨が砕けているようで、奇妙な方向にダラリと垂れているが……後は頭を打っただけのようで、命に別状はない。
落下時の衝撃は、その重量と速度、高さにより加算されていく。トラックに正面衝突した時の非にならないほどの衝撃だったはずだ。
頭を振り、右手で左肩を押さえようとして、しかしルケンは痛みに小さく叫び声を上げた。
髪の間からぎらつく目を上げ、彼は自分を地面に叩きつけた張本人を視認し。
以下略



401:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:13:44.79 ID:Z6fjuYRs0
「カル、カル、カル、カル」

断続的に唸りながら、猫背のウロコ男がゆらゆらと足を踏み出す。

「なんだ……あれ……」
以下略



402:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:14:14.26 ID:Z6fjuYRs0
何が起こったのか、どこがどうしてああなったのか推し量ることなどできようもなかった。イレギュラーもイレギュラー。予想なんて出来ているはずもなかった。追いついたら目の前で四肢をもぎ、カランが狂乱している様を見せてやりながら殺すつもりだった。
それは、簡単に出来るはずだったのだ。

――無理だ。

以下略



403:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:14:54.76 ID:Z6fjuYRs0
理由も経緯も、それを考えるより先に、ルケンは本能的に逃走を選んでいた。痛みなんて感じている暇はなかった。砕けた左肩を気にかけるまでもなく、力が入らない足に無理矢理に意識を集中し、その場を飛びのこうとする。
しかしそこで、彼はまた……今度は背後から首を掴まれた。ハッとした時は、既にキリのような爪が喉の皮を破り、肉に食い込み。そして圧倒的な力で振り回されていた。
最初はもう一人奴の仲間がいるのかと思った。しかし背後に人影はない。加えて、目の前の大男には全く動きがなかった。
否。
怪物の左腕……そこが、半ばからなくなっていた。腕の断面が水面のようにゆらゆらと動いている。まるで切断されたかのように切れているのだ。
以下略



404:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:15:19.57 ID:Z6fjuYRs0
まるで重機のような力だった。逆らうことも出来た。しかしそれを行うと、支点として掴まれている自分の首が握りつぶされたり、へし折れたりする危険性がある。
ありえない。
蒼くなる。
奴の力は、体を別の空間に飛ばすことが出来るというもののはずだ。そう聞いていたし、事実目で確認もしている。
しかしこれは違う。全く別の能力だ。飛ばしているのではない。まるで空間それ自体を操作しているような……。


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