67:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:00:05.04 ID:A45p+aH70
黒コートの男は、同様に黒色の細いサングラスをかけていた。あまりにもその色が濃いため、奥の瞳を確認することは出来ない。首から上以外が全てコートで隠れてしまっている。血を吐かされたというのに、彼は未だにコートのポケットから手を出そうとしなかった。
髪はオールバックにまとめられた灰色がかった黒髪。体格はかなり凄まじい。盛り上がった筋肉。肩幅が爪の比較にならない。
そして相手の顔面……その右半分からは、機械のコードのようなものが、いびつに所々飛び出していた。
(……アンドロイドか……?)
68:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:00:32.32 ID:A45p+aH70
「……選べ」
ボソリ、と言葉を発する。
それは、彼が師と話しているときのような、おぼつかなくあどけない喋り方ではなかった。もっと残悪な……邪悪で、どうしようもなくドス黒い、ドロ沼のようなへばりつく喋り方だった。
69:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:00:58.22 ID:A45p+aH70
それを見て、大男は地面を転がってフロアの向こう側に転がり込もうとした。馬鹿にするように鼻を鳴らし、次いで爪は、また上唇を舌でベロリと舐めた。
「メル、ア・レテナ、ゥルポス(逃げんなよ溝鼠)」
そして突き出した右手を、相手に向けて握りこむ。
70:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:01:26.70 ID:A45p+aH70
見た目は、ただのビンタだった。
しかし渾身の力で放たれたそれは、フロアの床をまるでウェハースのように貫通し、そしてその下のフロアも同様に突き抜け……実に五階建てのビル、地下フロアの床下まで突き飛ばした。
床に撃ち当たった瞬間に、大男の体は半分以上が四散してしまっていた。そもそも爪が手を叩きつけた部分が、泥玉を地面にぶつけた時のように握り拳大の肉片に破裂し、周囲の壁に前衛芸術のように張り付いている。
もくもくと立ち昇る床の破片。
そして、頭からずぶ濡れになった――他ならぬ、今しがた爆裂させた相手の血液で――若い魔法使いは、数秒間腰を落とした姿勢のままじっとしてから、大きく深呼吸をした。
71:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:02:01.25 ID:A45p+aH70
叩きつけた相手がぶつかった床は、直径一メートルほどの大穴になっていた。鉄骨や樹脂タイルなどが全て、破砕鉄球で砕かれたかのごとく粉々になっている。その周囲はおびただしい量の血液と肉片でコーティングされていた。
――人間一人が、弾丸のように吹き飛ばされて爆裂した。
その単純な事実をすぐに理解できる者は、おそらく警察でさえもいないだろう。
72:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:02:34.96 ID:A45p+aH70
――これは、確かに。
生体アンドロイドの体だ。その合成化学組織の味。有毒だ。
「ちっ……」
73:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:03:04.75 ID:A45p+aH70
(いっけねぇ……)
別に、その女達に対しての感情など何も湧かなかった。だが、爪の心にあったのは、今しがた誰とも分からない侵入者を叩き殺したことでも、命令を無視して勝手に行動していたことに対して教会から処分が下るだろうということに対する懸念でさえなかった。
脳裏に、ぎこちなく微笑んでいた華奢な師のことが浮かび上がる。
74:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:03:58.82 ID:A45p+aH70
パン、という軽い音がして。
その、頭が粉みじんになって吹き飛んだ。
文字通り、固形物であるはずの人間の体が、霧状の肉片と血液、そして骨の断片になって爆散したのだ。
支えるものがなくなってしまった首筋から、噴水のように数リットルの鮮血がぶちまけられる。それを真正面から浴び、また爪はベロリと上唇を舐めた。
75:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:04:28.60 ID:A45p+aH70
彼女達に向かって、右手を伸ばす。そしてふわっ、と揺らした途端、フロアの一角それ自体が、見えないビル破砕機で吹き飛ばされたかのように後方に弾け飛んだ。勢いはただ崩れただけに収まらず、実に十メートル以上もの四方空間を隣のビルまで抉り飛ばし、それは轟音と煙、そして火花を散らして倒壊し、眼下の地面へと崩れ落ちていく。
――楽しい。
――ああ、楽しい。
76:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:05:03.72 ID:A45p+aH70
一人殺るのも、百人殺るのも同じさ。
どうせこいつら、ほっといてもまた増えるし。
いいんだ、きっといいんだ。
むしろ沢山殺した方が、師匠は驚いてしまって怒っている場合じゃなくなるかもしれない。
さっき殺した魔法使いに全部罪を擦り付けて。
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