過去ログ - アンリ士郎「汝の欲す所を安価にて為せ!(キリッ」一同「へー」
1- 20
628:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/03/10(土) 21:34:37.61 ID:yheQES6i0
「はい。不動明王もいいですが、こちらの童子も好きです」


 私は微笑しながら答える。僧衣の男性と口をきいたのは、冬木の寺の者以来だ。

以下略



629:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/03/10(土) 21:36:52.01 ID:yheQES6i0
「この怒りの形相こそ、慈悲の窮極の姿です。
 炎は一切衆生の煩悩を焼き尽くし、私共の菩提心を開発するのです」


「慈悲と怒りがどうして一緒になるのですか」
以下略



630:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/03/10(土) 21:39:37.84 ID:yheQES6i0
「このお不動様の本当の姿が如来様だと思うと、そのお気持ちが分かる気がします」


「知っていたのですか」

以下略



631:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/03/10(土) 21:47:12.02 ID:yheQES6i0
 あのときの予感は正しかった。
 サクラの死を目撃した瞬間、全身から血の気がひき、〈幸せはきのうまでで終わったのだ〉と考えた。
 時間がそこを境にして変質していた。目が見、耳が聴き、手が触れるものすべてが無意味になっていた。
 それはまだ続いている。おぞましいくらいに続いている。自分は生ける屍も同然だ。

以下略



632:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/03/10(土) 21:50:51.01 ID:yheQES6i0
「ついて来なさい」


 僧が言った。命令口調ではなかった。私は僧の背中を見ながら、堂の外に出る。

以下略



633:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2012/03/10(土) 21:57:14.24 ID:yheQES6i0
 僧はしかし、滝の方向には目もくれず、左側の建物に向かった。手前に門があり、木の扉が半開きになっていた。
 立札には〈用なき者、立入りを禁ず〉と墨書してある。
 僧は木扉を両側に大きく開いて、中に踏み込む。


以下略



634:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/03/10(土) 22:00:57.10 ID:yheQES6i0
 正面にまわり、石段を上がったところで言われた。
 靴下を通して触れた木の床は、しかし冷たくはなかった。
 ぶ厚い杉の板は、空気の温もりを吸い込んでいるかのように、ほんのりと暖かい。
 二重の障子の内側にはいると、寒気が遠のく。部屋は三方が障子で、広さは二十畳か三十畳くらいはあるだろう。
 正面に金色のすだれがかかっていた。
以下略



635:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/03/10(土) 22:04:59.37 ID:yheQES6i0
「そうです。生と死の境なんて、もともとないに等しいのです。
 試しに、あなたの頭のなかには、生きているものだけがありますか」


 僧は微笑したままの顔で訊いた。私は考えたあとかぶりを振る。
以下略



636:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/03/10(土) 22:09:51.28 ID:yheQES6i0
「無ですから、苦しみも悲しみもない。いや悲しみはあるかもしれません。
 無そのものに悲しみの味が秘められていますから。喜びさえも悲しみに包まれています。
 いや無や悲しみが外側を彩っているので、すべてが喜びの色合を帯びてくるのです。
 白く降り積む雪、鳥の声、岩清水の音、路傍の花──」

以下略



637:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/03/10(土) 22:15:52.32 ID:yheQES6i0
「読経は僧がするものです。あなたのような方は、読経しなくてもその境地に辿りつくことができます。
 

「簡単なことです。僧だから難しく、普通の人はたやすいのです」

以下略



1002Res/442.29 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice