38:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 00:32:25.86 ID:bOaug2Ec0
男「さっきのはノーザンクロス、北十字星だ。
夏の代表的な星座で、
夜空に羽を広げた白鳥座の中心の辺りが、十字架の形に見えるってやつ。」
39:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 00:34:33.25 ID:bOaug2Ec0
さわやかな秋の時計の盤面には、
青く灼かれたはがねの二本の針が、くっきり十一時を指した。
みんなは、一ぺんに下りて、車室の中はがらんとなってしまった。
40:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 00:36:50.80 ID:bOaug2Ec0
そこから幅の広いみちが、まっすぐに銀河の青光の中へ通っていた。
さきに降りた人たちは、もうどこへ行ったか一人も見えなかった。
その白い道を、女を先頭にして行くと、二人の影は、ちょうど四方に窓のある室の中の、二本の柱の影のように、また二つの車輪の輻のように幾本も幾本も四方へ出るのだった。
41:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 00:38:37.30 ID:bOaug2Ec0
河原のれきは、みんなすきとおって、たしかに水晶や黄玉や、またくしゃくしゃに曲がった地層のかけらや、また角から霧のような青白い光を出す鋼玉やらだった。
男はその渚に行って、水に手をひたした。
けれどもあやしいその銀河の水は、水素よりももっとすきとおっていたのだ。
42:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 00:39:30.43 ID:bOaug2Ec0
男「女、あっちにも行ってみようよ。」
女「うん、ちょっと待ってて。」
43:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 00:41:08.10 ID:bOaug2Ec0
その白い岩になった処の入口に、
〔プリオシン海岸〕という、瀬戸物のつるつるした標札が立って、向うの渚には、
ところどころ、細い鉄の欄干も植えられ、木製のきれいなベンチも置いてあった。
44:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 00:42:14.17 ID:bOaug2Ec0
だんだん近付いて見ると、一人のせいの高い、ひどい近眼鏡をかけ、長靴をはいた学者らしい人が、手帳に何かせわしそうに書きつけながら、鶴嘴をふりあげたり、スコープをつかったりしている、三人の助手らしい人たちに夢中でいろいろ指図をしていた。
「そこのその突起を壊さないように。スコープを使いたまえ、スコープを。
おっと、も少し遠くから掘って。いけない、いけない。なぜそんな乱暴をするんだ。」
45:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 00:43:43.71 ID:bOaug2Ec0
「くるみが沢山あったろう。それはまあ、ざっと百二十万年ぐらい前のくるみだよ。
ごく新らしい方のバタクルミというやつさ。
ここは百二十万年前、第三紀のあとのころは海岸でね、この下からは貝がらも出る。
いま川の流れているとこに、そっくり塩水が寄せたり引いたりもしていたのだ。
46:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 00:45:13.74 ID:bOaug2Ec0
女「いま何時?」
女が男の腕時計を覗き込みながら言った。
男も見ると、もう少しで汽車が出る時間だった。
47:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 00:49:34.11 ID:bOaug2Ec0
八、鳥を捕る人
48:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 00:50:58.00 ID:bOaug2Ec0
汽車はもう、しずかにうごいていたのだ。
車室の天上の、一つのあかりに黒い甲虫がとまってその影が大きく天井にうつっていた。
女は、なぜか先生に怒られている生徒のように、下を向いてじっとしていた。
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