過去ログ - える「折木さんも…ご経験がおありなんですか?」奉太郎「」
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2012/09/16(日) 04:11:44.86 ID:2r6A/1tO0
そんな想像をしていると、数少ない三年生の知り合いを見つけた。男にしては長めの髪、背は高く、頭が切れそうなすっとした眼差し。
去年の五月……か六月だったか、とある一件で顔見知りになった先輩だ。遠垣外将司。壁新聞部の元部長で、なんでも実家は神山市内の中等教育に影響のある名家らしい。まあ、本当に顔を知っているだけで、俺はそれ以上遠垣内について知らないが。
と、そのとき、遠垣内と視線が交錯した。思い過ごしだと思ったが、明らかに彼は俺を見て一瞬眉間に皺を寄せた……ような気がする。これだけの人数、在校生と来賓と保護者を合わせれば千人はくだらない中、俺を偶然見つけるとは、卒業式まで苦い思いをさせてしまったようだ。
すぐに彼の姿は見えなくなったが、なんとなく申し訳なくなった俺は、
先輩、おめでとうございます。あのことは墓まで持っていきますよ。
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2012/09/16(日) 04:12:39.72 ID:2r6A/1tO0
卒業式の後、ホームルームが終わると、俺は古典部の部室に来ていた。特別棟四回、地学準備室である。部室の窓の前まで椅子を持ってきて、窓枠に腕を乗せて眼下に広がる運動場を眺める。運動場では、卒業生と一緒に記念写真を撮っている生徒たちがたくさんいた。中には別れに涙している人もいるようだ。何故かサッカーをしている生徒もいる。サッカー部だろうか、最後の壮行試合、みたいなものか。
欠伸をひとつして、腕時計を見ると、十二時を回ったところだった。今頃古典部の皆は、卒業生に挨拶でもしているだろうか。
聡は、総務委員会と手芸部で、当然世話になった先輩がいるだろうから、古典部に顔を出すのは遅くなるかもしれない。伊原も同じく、漫画研究会で別れの会でもやっているだろう。では、もう一人の部員は――
「こんにちは、折木さん」
と思ったところで、部室のドアが開く音ともに、凛と透き通った声がした。この学校で、俺を「さん」付けで呼ぶ奴は一人しかいない。
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2012/09/16(日) 04:13:28.67 ID:2r6A/1tO0
千反田える、古典部の部長であり、俺の省エネ主義を揺るがしかけている少女である。
千反田は部室の長机に自分の鞄を置くと、俺の傍までやって来て外を眺めた。
「いいものですね、卒業式って」
「そうだな」
俺は適当に同意し、二度目の欠伸をかみ殺した。千反田を見やると、彼女は微笑を携えて、優しい目をしていた。彼女の長く綺麗な黒髪が、そよ風に揺られていた。まるで母親のような横顔だ、と俺は思った。
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2012/09/16(日) 04:14:17.02 ID:2r6A/1tO0
千反田は口元に手を当てた。何かを思い出そうとしている仕草に見える。
「折木さん、先ほど、遠垣内さんに挨拶した時のことなんですが」
俺は曖昧に「ああ」と相槌を打った。
「折木さんって、遠垣内さんと親しかったんですか?」
「いや、特に」
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2012/09/16(日) 04:14:57.96 ID:2r6A/1tO0
「でしたら!」
千反田の大きな目が、輝いている。
「どうして、折木さんとあまり接点のない遠垣内さんが、折木さんによろしくと言ったのか、」
俺は舌打ちをしたい気分だった。もしかしたら、遠垣内はこうなることを見越して、千反田に言伝を寄越したのではないだろうか。
「私、気になります!」
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2012/09/16(日) 04:16:32.02 ID:2r6A/1tO0
俺はどうしたものか、と額に手を当てて考えた。
おそらく、遠垣内の「よろしく」とは釘を指すという意味に違いない。自分が卒業した後で、あのことを他人に――千反田に話すな、ということだろう。
事の顛末は去年の春、古典部の文集「氷菓」のバックナンバーを探しているときまで遡る。姉貴の受け売りで文集は「部室の薬品金庫の中」と事前に知っていた俺は、二年前、姉貴が卒業する前まで古典部の部室だった、生物準備室に文集があると踏んだのだった。現在は壁新聞部の部室となっていた生物準備室で、俺は壁新聞部の部長である遠垣内と知り合った。
そのとき、生物準備室を見渡しても薬品金庫らしきものは見当たらなかった。そして、遠垣内は何故か部室を物色されるのを極端に嫌がった。薬品金庫の中に、煙草とライターを隠していたからだ。彼は部室で煙草を吸っていたのだ。
俺はそれをネタに半ば遠垣内を脅して、文集を引っ張り出させた、とこういうわけである。
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2012/09/16(日) 04:17:19.51 ID:2r6A/1tO0
何でも、千反田と遠垣内は、家同士の繋がりがあるらしい。千反田の家は、神山市では有名な豪農で、名家の縁で年末に顔合わせをするのだそうだ。
つまり、名家の御曹司である遠垣内は、豪農の令嬢である千反田に喫煙の事実を知られるわけにはいかないのだ。体裁的に悪いのだろう。
まあもっとも、伊原には口は堅いかと念押しして、遠垣内のことを話したあの時、その場に千反田もいたのだ。しかし、千反田は見つかった文集に心奪われていて、全く会話を聞いていなかった。だから、知らないままならその方がいいだろうと思っていたのだ。
俺は嘆息して、窓際から机まで椅子を戻す。さて、どう言い訳したものか。
千反田はというと、俺の推論が開始されるとでも思っているのか、わくわくした笑顔で、俺の隣に腰掛けた。
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2012/09/16(日) 04:18:13.56 ID:2r6A/1tO0
「どうかしましたか、折木さん?」
微笑む千反田を横目に見やり、俺は出掛かっていたため息を飲み込んだ。俺は自分でもよく分からない感情に振り回されている。
俺はおそらく、今の千反田に、知られたくないのだ。あの時、俺がどうやって、遠垣内から文集を手に入れたのか。
たとえ、遠垣内の喫煙を知ったとしても、千反田はそれだけで人格を否定するような奴ではない。俺が脅迫じみたことをしたと知っても、彼女は俺を責めはしないだろう。
俺は、自分の後ろ暗い側面を、千反田に見られるのが怖くなってしまっている。彼女はとても感じやすく、故に自分を責めてしまうから。
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2012/09/16(日) 04:21:04.24 ID:XtTyK/vDO
ぱんつ脱いだ
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2012/09/16(日) 04:21:05.69 ID:2r6A/1tO0
◇ ◇ ◇
「……以上だ」
話し終えると、俺は視線だけを動かして千反田を見、そして不思議に思った。てっきり、落ち込んだ顔をすると思ったからだ。彼女は口元に指を当てて、首を傾げている。俺の説明が悪かったか?
「あの、折木さん」
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