276:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/04(火) 07:40:10.06 ID:10ecUgk1o
◇
「猫は長い間ツキの家で飼われていた。
わたしはその子のことが好きだったし、ツキだってその子のことが好きだった。
277:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/04(火) 07:40:48.95 ID:10ecUgk1o
「続きを、話してもらえますか?」
「……続き?」
278:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/04(火) 07:41:27.14 ID:10ecUgk1o
「あなたはシラユキの死に、どんなことを思ったのですか?」
わたしは。
279:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/04(火) 07:42:11.43 ID:10ecUgk1o
「生き続けて苦しむより、何もかも終わりにしてしまった方が楽だったってことですか?」
「……うん。そういうことになるんだと、思う」
280:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/04(火) 07:42:51.15 ID:10ecUgk1o
「そんな言い方をするということは、あなたは既に思い出しているはずです。
自分が誰によって苦しめられていたのか。そのことをちゃんと理解しているはずです」
「……そんなの」
281:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/04(火) 07:44:10.38 ID:10ecUgk1o
「あなたにとって、家は安らげる空間ではありませんでした。
学校に行くことだって、家から離れられる安堵を除けば、楽しいことでもなかったでしょう。
苦しいばかりだったでしょうね。唯一の友だちだったツキと、その家族。それからシラユキという子猫。
もし苦しみではないところがあるとしたら、そうした人々との交流くらいでしょう」
282:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/04(火) 07:45:25.19 ID:10ecUgk1o
「そうして、あなたは死にました」とシラユキは言った。
他人事のようなニュアンス。そのことが、むしろ事実を際立たせていた。
283:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/04(火) 07:46:21.18 ID:10ecUgk1o
父親はいつも仕事で帰りが遅かったし、義母は父の前では良き妻を演じていた。
……いや、良き妻だったのだろう。きっと良き母にもなれたはずだ。
でも彼女はそれを拒んだのだと思う。きっと、そうだと思う。
284:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/04(火) 07:47:00.49 ID:10ecUgk1o
「ひとつだけ、聞いておきたいことがあります」
シラユキは真剣な瞳でわたしを見つめた。
鳶色の、まんまるの瞳。あの猫ではない、と彼女は言った。でも、よく似ている。
285:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/04(火) 07:47:50.93 ID:10ecUgk1o
「では、まだ生きて帰る術があると聞いても、あなたは嫌がるだけなのでしょうね」
その言葉に、彼女の言う通り、嫌な気持ちになる。
選択の余地がないこと、選択が終わったあとだからこそ、解放されたと言えるのだ。
286:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/04(火) 07:48:17.79 ID:10ecUgk1o
つづく
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