422:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/13(木) 06:57:31.34 ID:gz5u5IpNo
石の壁。鏡台。絵画。机とティーカップ。自分が座っている椅子。
わたしの目の前には誰の姿もなかった。
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2013/06/13(木) 06:58:07.64 ID:gz5u5IpNo
わたしは燭台を掴みあげ、扉に向き直る。
行かなければ、と思う。
そう思うことができる。
424:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/13(木) 06:59:07.50 ID:gz5u5IpNo
どれだけの決意で臨もうと、世界はそれを無視してあっというまに通り過ぎてしまう。
この世界も、現実も、変わりはない。
ルールが既に決まっていて、わたしはその内側に従うことしかできない。
425:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/13(木) 06:59:51.32 ID:gz5u5IpNo
蝋燭の灯りを頼りに、わたしは急いで屋敷への通路を辿る。
運動はあまり得意じゃない。走るのは苦手だった。
ずっと昔、現実の学校で、体育の授業のとき、走り方が変だってバカにされたことがあった。
426:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/13(木) 07:00:19.04 ID:gz5u5IpNo
そのことはちょっとした学級問題にもなった。
たとえ自分が変に思ったことでも、一生懸命にやっている人を笑うのはやめましょう、と先生はみんなに言った。
もちろん、その理屈の方がよっぽど変だった。
427:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/13(木) 07:01:30.94 ID:gz5u5IpNo
いつも。ずっと。昔から。いつだって、わたしはわたしなりにまともになろうと思っていた。
そのための努力だって必死にしてきたつもりだった。
母がわたしを不快に思うのは、わたしが不快なことをしているからだと思った。
428:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/13(木) 07:01:57.48 ID:gz5u5IpNo
わたしが走ると、先生は満足そうに笑った。それを聞いて母はほっとした。
クラスメイトたちはわたしを笑っていた。
何も変わらなかった。
429:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/13(木) 07:02:42.37 ID:gz5u5IpNo
書庫に這い出るとき、埃のせいで咳が出た。
泥だらけのレインコートをその場で脱ぎ捨てる。
走ることが嫌になるよりも、ずっと前、あなたはどうしてそんなに醜いの? と母はわたしに訊ねた。
430:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/13(木) 07:03:14.58 ID:gz5u5IpNo
髪型が悪いのかもしれない。骨格が理由なのかもしれない。
体型かもしれないし、顔つきかもしれない。
何がそう見せるかは知らない。でも、醜いから、母はわたしを嫌う。
431:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/13(木) 07:04:35.01 ID:gz5u5IpNo
書庫から階段を駆け上がり屋敷の一階に出た。
地下から出ると、途端に外の明るさが目に突き刺さった。
廊下の窓から、シラユキが傘をさして中庭に立っているのが見えた。
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