572:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/23(日) 03:23:28.24 ID:seth9kfao
洞窟の中を歩き始める。冷たい岩の感触。雨の音が反響しながら後ろから追いかけてきていた。
それも、しばらく進んだら止んだ。でも、音が聞こえなくなっただけだ。
雨が止んだわけではない。
573:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/23(日) 03:24:02.23 ID:seth9kfao
不意にツキがうめき声をあげて、自分の足に体重をのせたようだった。
シラユキは咄嗟に支えようとしたが、彼はそれを断った。
「自分で立つ」
574:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/23(日) 03:25:37.07 ID:seth9kfao
雨に打たれ続け、森を歩き続け、今はこんな薄暗い場所にいる。
そんな無茶をしているにもかかわらず、わたしの体はまったく問題なく動いた。
もう実感がないのかもしれない。
575:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/23(日) 03:27:06.39 ID:seth9kfao
強い風が吹きすさぶような、そんな音が向こう側から聞こえた気がした。
激しい雨の音も。この向こう側は、きっと嵐なのだ。
そして、暗い。夜なのだろうか。それは荒々しく、寒々しく、硬質な気配だった。
576:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/23(日) 03:27:58.08 ID:seth9kfao
わたしは少しの間、その輪郭のぼやけた景色をじっと見つめた。
その先に何があるのかは、よくわからない。
それで、わたしはここを通るべきなのだろうか?
577:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/23(日) 03:29:42.17 ID:seth9kfao
わたしは現実に向かうべきなのかもしれない、と、そう考えてみることにした。
それから自分が嫌だと思ったこと、自分が逃げ出したもののことを思い出してみる。
すると、どれもこれもたいしたことではないような気がしてきた。
578:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/23(日) 03:30:40.90 ID:seth9kfao
「アヤメ」
不意に、ツキはわたしを呼んだ。
それから困ったように笑う。
579:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/23(日) 03:31:16.66 ID:seth9kfao
「雨が降っている間、ツキはわたしと一緒にいてくれた。
わたしはツキの家で過ごすことができた。シラユキの背中を撫でていることができた。
その時間が好きだった。一緒にいてくれて、嬉しかった」
580:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/23(日) 03:31:58.48 ID:seth9kfao
「アヤメ」
彼はもういちど、わたしの名前を呼んだ。それきり、しばらく黙り込んでしまった。
何度も苦しそうな顔をした。後悔しているようにも見えたし、何かを言いあぐねているようにも見えた。
581:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/23(日) 03:33:26.07 ID:seth9kfao
「たぶん俺も、もっとお前にいろんなことを言うべきだったし、いろんな態度を示すべきだったんだろうと思う。
でもそれは手遅れじゃないって思うんだよ。お前がもう一度、俺のところに来てくれさえすれば……」
それから彼は思い直すように頭を振った。わたしは悲しい気持ちになった。
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