64: ◆tSiWM5GIyDZg[saga]
2013/07/14(日) 18:51:03.22 ID:EnRHzSex0
「お前が、大学入学するまでは、死ねないから、安心しろ」
父は、母の気弱な言葉に対し、そうフォローしていた。
珍しく堅実な父が豪快に笑い、僕まで笑ってしまった。
65: ◆tSiWM5GIyDZg[saga]
2013/07/14(日) 18:52:03.35 ID:EnRHzSex0
そんな生活を続けて三週間程経ったある日、彼女が家へやってきた。
しばらく学校に出ない僕を心配していたのよ、と彼女は言った。
「これ、ご両親に」と、彼女はゼリーなどを買ってきてくれた。
66: ◆tSiWM5GIyDZg[saga]
2013/07/14(日) 18:52:38.71 ID:EnRHzSex0
それから数日。両親はもう、意識も定かではなかった。
食事を口に運んでも、結局はもどしてしまうのだ。
入院を勧めたが、頑なに拒むので、できなかった。
67: ◆tSiWM5GIyDZg[saga]
2013/07/14(日) 18:53:11.74 ID:EnRHzSex0
そうだ。僕は、どうして、こんな簡単な事に気が付かなかった?
あの日から、時間の概念だけが変わった世界が創造された。
そして、神様からのメールの内容だ。「平均寿命は?」だ。
68: ◆tSiWM5GIyDZg[saga]
2013/07/14(日) 18:53:40.65 ID:EnRHzSex0
あの日から換算して、両親は、十二月前には死に至ることになる。
彼女と僕は、僕の方が早生まれだが、卒業式前日に死に至る。
電話口から「どうした。返事しろよ」と先生の声が聞こえる。
69: ◆tSiWM5GIyDZg[saga]
2013/07/14(日) 18:54:07.74 ID:EnRHzSex0
僕の声で再び目を覚ましたのか、母が僕の部屋にやってきた。
「何を泣いているの?」と問われて、僕も「大丈夫だよ」と答えていた。
どこか、少しだけ、両親の気持ちが分かった気がした。辛いものだった。
70: ◆tSiWM5GIyDZg[saga]
2013/07/14(日) 18:54:41.04 ID:EnRHzSex0
「だって、時間がいっぱいあるのよ。立派な人になってほしい」
「そのお母さんは、すぐに怒るわよ。あなたの事が、心配だし」
71: ◆tSiWM5GIyDZg[saga]
2013/07/14(日) 18:55:07.77 ID:EnRHzSex0
僕は母に肩を貸し、再び寝室へと連れて行った。
眠りに落ちる直前まで、母は僕に対して、謝罪を続けていた。
謝るのは僕の方だ。人の運命すら捻じ曲げた人間なのだから。
72: ◆tSiWM5GIyDZg[saga]
2013/07/14(日) 18:55:33.47 ID:EnRHzSex0
あなたは 不幸せ です。
73: ◆tSiWM5GIyDZg[saga]
2013/07/14(日) 18:56:03.52 ID:EnRHzSex0
僕が意識を強く持ったのは、観測者から、不幸が告げられたからだ。
そうだ。僕は、幸せになる為に、不幸せにならなければならない。
僕が不幸で人生を終えれば、僕の願いは取り消され、世界は戻る。
74: ◆tSiWM5GIyDZg[saga]
2013/07/14(日) 18:56:39.65 ID:EnRHzSex0
「先生が言っていたように。わたしも、あなたを幸せにする」
彼女は、何かを決意したような声で言った。僕には分からなかった。
ありがとう。僕がそう言うと、気にしないで。そう言って、笑った。
133Res/129.69 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。