180: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/09(月) 21:33:50.95 ID:0nmeJ36Po
私は彼女の才覚だけではない。その人間性にも、そしてその姿勢にも惹かれた。強いて言うならそれが根拠だ。それ以上の説明はできない。
もしこの言い分が通らず、彼女が受け入れられなかったなら、彼女を受け入れてくれる事務所を探すつもりさえあった。
(もしそうなると、移籍の正式な契約書にサインする前に辞表を提出することになるのかな)
181: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/09(月) 21:34:17.10 ID:0nmeJ36Po
「良いだろう、Pくんに任せよう」
その社長の一言が、この面会の要旨をすべて終了させた。社長は座っていたデスクから紙を二枚取り出すと、
「とりあえず、黒川くんだったかな」
182: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/09(月) 21:34:43.03 ID:0nmeJ36Po
「わかったわ、ありがとう、社長さん」
その所作一つとってみても、優雅さと言う物がにじみ出ている。そういえば、千秋さんは良家の子女だったな、と私は思いながら、千秋さんと社長の方を見ていた。
と、その様子を見ていた社長は、少しにやりとすると、
183: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/09(月) 21:37:31.13 ID:0nmeJ36Po
『社長……、流石に冗談が過ぎます』
「わっはは、これは悪かったね。しかし、いい子じゃないか。君の担当のアイドルになるんだ、しっかり支えてやりなさい」
『それはもちろんです。私が彼女の担当である限り、私の出来ることは全てやって見せます』
184: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/09(月) 21:37:56.74 ID:0nmeJ36Po
「失礼します、社長。零細プロダクション、という所から移籍の話が来たのですが……」
と、何やらまた移籍の話らしい。やはり、プロダクションの規模と人員が釣り合っていないと言うのもあるのだろう。ただ、少し神妙な顔をしていた社長だったが、少し顔を綻ばせる。
「奇遇なこともあるものだな……」
185: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/09(月) 21:38:27.78 ID:0nmeJ36Po
『……まあ、何とかなって良かったよ』
私は呟きとも、声掛けともいえる調子で言った。これでもう、引き返すことはできない。
無論、引き返すつもりも、そうなる予定もなかったが、それでも少しばかりの罪悪感――千秋さんを巻き込んだかもしれない、という想いは簡単には拭えない。
186: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/09(月) 21:39:00.80 ID:0nmeJ36Po
『そ、そういって貰えると、スカウトした身としては非常に嬉しいですね』
私は誤魔化すようにそういうと、少し視線を逸らす。少し動悸が激しくなるのは、男性であれば致し方のないことだ。こればかりは批判してほしくはないものである……
「そ、それとよ、Pさん」
187: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/09(月) 21:39:46.87 ID:0nmeJ36Po
「し、社長さんの言っていた好みの女性、というのは、本当のことなのかしら」
責めるわけではないのだが、もうちょっと聞き方というか、オブラートに包んでくれれば誤魔化しようがあった。ところが、ランディ・ジョンソンも真っ青の、百マイルのド直球である。
『あー、えっと、ですね。私としては、その』
188: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/09(月) 21:40:29.94 ID:0nmeJ36Po
『そんな、とんでもないですよ、千秋さん。千秋さんほど、かわいらしくて、魅力的な女性が好みでない人なんて、居るもんですか』
……我ながら、短絡的というか、何というか。誤解をされたくない、という想いが先走ったせいで、何か言ってはいけないことまで言いすぎた気もする。
「あの、えと、Pさん?」
189: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/09(月) 21:41:20.78 ID:0nmeJ36Po
『でも不安も、辛さも、弱音も全部隠しながらがんばる弱さも、千秋さんは持っています。そんなときは、私を頼ってください。全部を含めて、私はあなたが魅力的に思うんですから』
このまま、言い切ろう。そう思って息を吸うが、肝心なところで理性が戻ってきてしまい、
『ですから、その。まあ、私から見れば、何と言いますか。もったいない、と言ったらおかしいですね、あの』
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