198: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/14(土) 04:12:02.73 ID:rrrgeDjMo
「……あれから、二年半ね」
『……そう、ですね』
私が、今のプロダクションへと引き抜かれ、あれよあれよと千秋さんの担当プロデューサーになってからもう二年半だ。
199: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/14(土) 04:12:28.59 ID:rrrgeDjMo
「やっぱり、私の目は間違っていなかったわ。きっと、Pさん以外がプロデューサーだったら、私はここまで来れていないと思うの」
『そんな、買いかぶりすぎですよ、千秋さん』
私は少し苦笑した。
200: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/14(土) 04:13:28.65 ID:rrrgeDjMo
『こんな私に、ついてきてくださって、本当にありがとうございました、千秋さん』
私はあえて、そういった。きっと、私以外のプロデューサーでは、彼女をここまで連れてくることはできても、彼女とここまで心を通わせることはできなかった。
それは、私が唯一自負を持っていることだ。
201: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/14(土) 04:13:54.84 ID:rrrgeDjMo
「おっ、見つけたよ、Pくん。元気にしておったかね?」
舞台袖に続く通路で二人、感傷に浸っていた私たちにそんな声がかけられる。ふと、そちらを向くと――。
『社長……? いや、本当にご無沙汰しております。おかげさまで、健康そのものですよ』
202: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/14(土) 04:14:29.35 ID:rrrgeDjMo
「はは、そうだったか。いや、なんだ。今日の大晦日フェスに、うちのアイドルも出るのでね。こうやって挨拶もかねて、会いに来たわけだよ、Pくん」
そういうと社長は、鷹揚そうな笑みを浮かべると私の背を叩き、笑った。あの時と何ら変わっていない。私はそれに少し嬉しくなり、思わず笑みが零れる。
『ああ、千秋さん。こちら、私が以前所属していた事務所の社長と、元同僚の一番手プロデューサーさんだ』
203: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/14(土) 04:14:58.71 ID:rrrgeDjMo
「こら、Pくんにも黒川さんにも失礼だ。慎みなさい」
「へへ、いや、すみません。どうにも嬉しくなっちまったもんで。Pさんがプロデューサーってのは、意外っちゃ意外でしたけど、でも元同僚が活躍してるってのは聞くだけでテンションあがっちゃいますよ」
一番手プロデューサーは頭を掻くと、少しばかりはにかんだように笑う。
204: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/14(土) 04:15:49.27 ID:rrrgeDjMo
「まあ、挨拶はこれまでにして、今日は正々堂々と戦わせてもらうよ。うちはまだまだ弱小だが、ようやくここまで来れた。君の移籍がきっかけ、というのは少し皮肉な話だがね」
『ええ、もちろんです。もし対戦することがあれば、うちの千秋さんが存分にお相手いたしますよ。無論、負けるつもりはございませんから』
自信満々に、そういってのける。相手も侮っているわけではない。慢心しているわけでもない。千秋さんなら、出来る。絶対的な信頼とでもいうのだろうか。
205: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/14(土) 04:16:16.61 ID:rrrgeDjMo
『そう、かもしれないですね。あの社長がいたからこそ、今私はここに居ます。でも、あの社長に私は何も返せてない気がして……』
「大丈夫よ、Pさん」
私の言葉を遮るように、千秋さんはそんな言葉を私に掛ける。
206: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/14(土) 04:16:51.48 ID:rrrgeDjMo
『あの……。千秋さん?』
「……エスコート、してくださるかしら、”プロデューサー”?」
少し意地悪そうな微笑を添えて、彼女が言った。そして、私の方へと手を差し出してくる。純白の手袋に包まれた白い肌は、見ていると思わず引き込まれそうになる。
207: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/14(土) 04:17:22.79 ID:rrrgeDjMo
『……いつか』
ゆっくりと私は立ち上がり、彼女の目を見る。彼女の茶色がかった瞳が、微かに揺れる。
『千秋さんがトップアイドルになった時は、お約束します。その時はきっと』
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