87: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/17(土) 05:38:23.93 ID:4Y+/Hkh9o
ずんずん、一人で社長室の出口へと歩いていく。行動だけ見ていれば唯我独尊、傍若無人とでもいえそうだ。だが、その裏には、しっかりと綿密に織り込まれた配慮が見え隠れしていた。
効率的な行動を好みつつも、人を見る才能と、人を使う才能に長けているのだろう。私はそう感じた。
そうして、社長ともども、呆気に取られているうちに、シンデレラガールズの社長は帰って行った。社長室の外で、二番手プロデューサーが挨拶している声が聞こえる。
88: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/17(土) 05:39:22.63 ID:4Y+/Hkh9o
なにせ、役立たずもいい所なのだ。この事務所が今上手く行っていないのも、私が営業と広報をしているからだ。
無能な私が、広報と営業と言う、他者とのパイプラインのほとんどを担っているからこそ、この様なのだと。
実際、産休で居ない女性社員が営業をしていた時は、ここまで苦しくはなかった気がする。
89: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/17(土) 05:39:48.49 ID:4Y+/Hkh9o
『お言葉ですが社長。私はどうしようもなく平凡で、無能です。社会人として、このようなことを言うのは、間違っていると重々承知ですが、この事務所がここまで苦しいのは私に責任があると……』
「おい、図に乗るなよ、Pくん」
私の言葉は、そんな社長の一喝で遮られる。静かな言葉だったが、どこか人生の先達として、酸いも甘いもかみ分けてきた人間の老練さがにじみ出ていた。
90: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/17(土) 05:40:14.69 ID:4Y+/Hkh9o
「君は、平凡と無能の違いを理解したほうがいい。君は君の言うとおり、きっと平凡なのだろうけどね、無能じゃない。それは忘れてはいけないよ」
私はわけがわからないまま、その言葉をとりあえず頭に刻む。昔、劇団に所属した時の名残だ。意味は分からなくとも、とにかくセリフを覚える必要があったが故の産物である。
なんにでも手を出した、中途半端がゆえの副産物が、こんなところで生きるとは思わなかったが……。
91: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/17(土) 05:40:48.28 ID:4Y+/Hkh9o
(……まあ、考えるのは後。今は先に仕事をしないと)
そう、内心で呟き、私はデスクへと着く。かたかた、と二番手のプロデューサーが叩くキーボードの音が響く。
それを聞きながら、私はコーヒーをすする。熱いその黒い液体は、私の口を駆け巡り、一気に胃袋へと落ちていく。
92: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/17(土) 05:41:17.55 ID:4Y+/Hkh9o
「はい、どうしました、Pさん?」
『本日の営業なのですが……』
そう切り出すと、二番手プロデューサーは少し苦笑し、
93: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/17(土) 05:41:43.73 ID:4Y+/Hkh9o
「へ、お仕事、取ってこれたんですか? 凄いですね、Pさん」
彼はそういって、少しばかり嬉しそうに封筒を受け取るのだ。私は少し不思議に思い、尋ねる。
『……凄い、とはどういうことですか?』
94: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/17(土) 05:42:15.28 ID:4Y+/Hkh9o
となると、三人のプロデューサーたちがこのところ忙しいのは、産休に入った彼女の仕事を一部、引き継いだからなのだろう。
「ですから、もっと自信を持っていいですよ……って、なんだかまるで、担当アイドルを励ましているようですね。いやはや、お恥ずかしい」
彼はそう言って笑った。そういえば、こうやって同僚と話したのは久しぶりかもしれない。
95: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/17(土) 05:42:45.99 ID:4Y+/Hkh9o
ただ、仮にだ。もし、もしもあのプロデューサーの言うとおり、私に営業の才能があるとするのならば――。
(やってやろうじゃあ、ないか)
少し気合を入れると、パソコンの電源を立ち上げる。また、営業で使う宣材を整理し、制作する作業に没頭するためだ。
96: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/17(土) 05:45:31.28 ID:4Y+/Hkh9o
今回の更新は以上です。
遅筆をどうにかしたいものですね。
>>83
前作と世界観、登場人物の一部は共有していますが、読んでいなくても問題のないストーリー立てにする予定です。
97:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/08/17(土) 12:38:40.36 ID:ntEDcWcTo
乙
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