8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/26(木) 02:52:07.57 ID:UHZTgUVzo
そう言うとプロデューサーさんは立ち上がり、話が長くなりそうだからといって給湯室に入っていった。紅茶で良いかという少し張った声に、反射的にお願いしますと答える。
プロデューサーの淹れる紅茶は嫌いではない。昔に齧った程度の知識らしいのだけど、普通にボクが淹れるよりかは美味しい。それがまた、女の子としても悔しいところだったりする。
ソファーにもたれかかりながら、プロデューサーさんを待つ。部屋の中は暖かい。冬のこんな時期だというのに、暖かいというのは幸せなことなのだろう。
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2013/12/26(木) 02:52:35.29 ID:UHZTgUVzo
「何やってるの?」
「ひゃ、ひゃい!?」
突然かけられた声に素っ頓狂な声をあげて、後ろを振り向く。盆の上にポットとカップを載せ、俄然悠然と立っているプロデューサーさんだった。
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/26(木) 02:53:02.50 ID:UHZTgUVzo
カップに紅茶を注ぎながらぽつりぽつりと話しだす。紅茶が入る前のカップは、ほんのりと温かかった。
「営業先の人とかにね横柄な態度を取られたり。まぁ理由は言わなくても、幸子ならわかるよね」
その言葉に胸を詰まらせる。今はもうないけれども、ボクがデビューし初めの頃なんかは、その、言葉に表したくないことだってあった。
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/26(木) 02:53:51.40 ID:UHZTgUVzo
「まぁ纏めるとね、仕事柄ナメられるってのはあってはならないんだよ。それが自分の身長のせいになるのは申し訳ないところが、ね?」
「……見返せばいいじゃないですか」
「幸子みたいに?」
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/26(木) 02:54:19.96 ID:UHZTgUVzo
「自覚は足りなかっただろうね。でも幸子、考えてみてよ」
「……何がですか?」
「今こうして、みんなが事務所から出払っているわけかな」
13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/26(木) 02:55:02.56 ID:UHZTgUVzo
「まぁまぁ、でもこういうこと、本当はあんまり誰かに話すつもりもなかったんだけどね、つい言っちゃった」
「それはきっとボクだからですね。カワイイは罪、はっきりわかりますねぇ」
そう言うとプロデューサーさんは大きくはっはっはっと笑い出した。何がおかしいのか、ボクがカワイイことに間違いはないのに。
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/26(木) 02:55:38.24 ID:UHZTgUVzo
初めてのライブ、初めての歌。緊張しないアイドルなんていないだろう。
菜々さんや、茜さん。他にも同じ日に初ライブのアイドルがいた中、ボクは気丈に、いえ、虚勢を張って皆さんを鼓舞していたのは記憶の奥底に焼き付いている。
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/26(木) 02:57:15.90 ID:UHZTgUVzo
「あの時から良くも悪くも、12cmの距離だったんだよね」
「それは、身長的にですか?」
「悪くはそうだけど、ほら、幸子が初ライブの時に言っただろ?」
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/26(木) 02:57:58.89 ID:UHZTgUVzo
「それでどうなんです?」
「いいや、埋まってないさ」
「それじゃあどうして」
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/26(木) 02:58:28.94 ID:UHZTgUVzo
ぐぬぬと、一つ悔しそうに畝る。プロデューサーさんは、それを見るなり一つ笑みを零し一つ言葉を伝える。
「だから、良くも悪くも12cm。紅茶が冷めちゃったね、淹れ直してくるよ」
立ち上がるプロデューサーさん。そのスーツの袖を掴んで一つ、意を決する。
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/26(木) 02:58:57.34 ID:UHZTgUVzo
驚いてこちらを振り向くプロデューサーさんの頬を手で挟む。ひんやりとしたボクの掌が、プロデューサーさんの暖かな頬を撫でる。
「12cmの距離は――」
ぐっと顔を引き寄せる。どんな顔をしていいのかわからなくなる。きっと、ボクの頬は、耳はとても紅くなっているのだろう。だけど知ったものか。
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