1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/05/05(月) 19:09:31.88 ID:wBxpcr1o0
  
  私の朝は、一日の予定を新堂から聞く事で始まる。  
  この身体は、既に私の物では無い。  
  水瀬グループという巨大な組織の長としての膨大な責務を果たす為に、私は生きている。  
    
  「旦那様、今日は経団連の米川会長と昼食会、午後3時からは水瀬重工の定例役員会と新ラインの視察でございます」  
    
  恭しくスケジュールを伝える新堂の姿も、もう何年と変わっていない。  
    
  「ふむ、午前中は予定なし、か。珍しい事もある」  
  「旦那様は、殆どこちらにいらっしゃらないですからな。たまにはゆっくり、伊織お嬢様と話でも」  
  「それだがな、新堂」  
  「は?」  
  「伊織が、アイドルをやりたいと言い出した」  
  「なんと…」  
  「…簡単に言ってしまえば、私や兄達に認めて欲しいから。そう言っていたよ」  
  「…」  
  「お嬢様も、旦那様に似て自主独立のお心が強いですな」  
  「…しかし、まさかアイドルとはな」  
  「ええ…奥様は、ご存知なのですか?」  
  「明日には帰ってくるのだろう?その時に話すさ…どこを受けるつもりかな」  
  「は、既に幾つかのの芸能事務所のオーディションに応募はしているようですが」  
  「芳しくない、か?」  
  「はい」  
    
  我が娘だからというわけではないが、伊織は可愛らしい見た目だし、それなりに猫を被ることも知っている。  
  だが、それだけではダメだ。  
  人を惹きつける力があるか無いか。  
  それは企業の社長だってそうだ。  
    
  「さて…どうしたものか」  
    
  水瀬の力を持ってすれば、大手事務所に入らせることも可能だ。  
  だがそれは、伊織の最も望まない方法だろうし、私も同感だ。  
    
  「…そうだ、思い出した。新堂、午前のスケジュールは無いのだな?」  
  「はい」  
  「一つ、用事ができた。車を出せ」  
  
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2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/05/05(月) 19:13:53.82 ID:wBxpcr1o0
  
 都内ならどこにでもある雑居ビルの3階を訪れた私は、旧友の男にとある頼み事をしにきた。 
 狭い事務所は、人の背丈ほどのパーテーションで区切られただけで、応接間と言うのもおこがましい物だが、この事務所の雰囲気と、その主を見ていると、その方が落ち着く。 
  
 「ああ、音無君、いつもの番茶じゃなくて、玉露で頼むよ」 
3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/05/05(月) 19:16:00.35 ID:wBxpcr1o0
  
 執務を終えて家へ帰り付くと、早速新堂から面白い報告が入った。 
  
 「そうか、伊織は765プロに入ったか」 
 「しかし、よろしいのですか?」 
4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/05/05(月) 19:16:54.68 ID:wBxpcr1o0
  
  
 あれから数ヶ月。 
 伊織は、 私の予想よりもアイドルというものに入れ込んでいるようだ。 
 だが、まだまだデビューまでは程遠い。 
5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/05/05(月) 19:18:06.88 ID:wBxpcr1o0
  
  
 その日の夜、伊織が私の部屋を訪れていた。 
 この部屋に伊織が入るのは久しぶりかも知れない。 
 いや、伊織と顔を合わせて話すこと自体が、久し振りだろう。 
6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/05/05(月) 19:18:32.89 ID:4DTnkYBK0
 sagaは? 
7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/05/05(月) 19:18:41.76 ID:wBxpcr1o0
  
 「それだけの事だ。お前は水瀬の令嬢として、水瀬グループで働き、水瀬グループの後継者一族として、経営に参画していった。それだけだ」 
  
 私の言葉に、伊織は何も答えなかった。 
 だが、伊織なりに何かを感じ取ってくれたのかもしれない。 
8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/05/05(月) 19:23:12.63 ID:wBxpcr1o0
  
 それから、また大分経った頃だった。 
 伊織達は、誰が見ても人気のアイドルとして芸能界を席巻していた。 
 わずか一年と少しでここまで上り詰めたのは、伊織達の実力か、はたまたあのプロデューサーの手腕か、運なのか。 
 庭の木々が色づき始めた頃に、私がいつも通りに今日の予定を新堂へ問うと、私の予想もしない答えが返ってきた。 
9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/05/05(月) 19:24:41.53 ID:wBxpcr1o0
  
 「おお、きてくれたのかい」 
 「高木の差し金か?」 
 「何のことかね?」 
  
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/05/05(月) 19:28:11.44 ID:wBxpcr1o0
  
 「こちらです」 
  
 扉の奥は、薄暗いアリーナ。 
 ライブの開始前の熱気に、空調が効いているはずなのに、汗ばむ様な温度だった。 
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/05/05(月) 19:30:57.29 ID:wBxpcr1o0
  
 萩原さんが言い終えたタイミングで、緞帳の向こう側に13人のシルエットが映る。 
 ピアノから始まる前奏に合わせ、アリーナ全体が揺れるような声で、ファンの声援が鳴り響く。 
 緞帳が上がりきり、伊織達が階段を駆け下りてくる。 
  
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/05/05(月) 19:33:12.26 ID:wBxpcr1o0
 伊織!お誕生日おめでとう!新幹線車中より祝いの気持ちを込めて! 
13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/05/05(月) 19:36:51.89 ID:TrOf5BBXo
 おつ 
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/05/05(月) 19:41:38.69 ID:yP9S1FLl0
 乙 
 このシリーズ大好き 
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/05/05(月) 22:31:40.02 ID:uMTc5q6Y0
 このシリーズのリンクを貼って下さいお願いします>>1さん 
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/05/06(火) 15:09:29.08 ID:oAJOvQe50
 こういう目線いいよね乙 
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