過去ログ - 傭兵「この世で金が一番大事」僧侶「じゃありません」
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1: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 21:52:27.70 ID:sWnNovzn0
* * *

傭兵「七百万だ。それ以上はまからん」

 目の前の傭兵さんは言いました。きっぱりと。そりゃもう、きっぱりと。
 酒場の椅子に座って、体はこちらに向けていますが、左手は丸テーブルの上のエールのジョッキから決して離そうとはしていません。飲酒を続けたいがために適当な返事をしているのではないはずです。……たぶん。

 ひとを何人か殺しているふうな顔がわたしをじっと見るものですから、思わず錫杖を握る手に力を籠めました。
 だめです。しっかりしてください、わたし。この方がこの辺りでは最も腕が立つと、斡旋所の方もおっしゃっていたじゃありませんか。

 酒場は殆どのテーブルが埋まっています。こちらに意識を向けている人はいません。いたとしても、傭兵さんの一睨みでそっぽを向いてしまうのでした。
 誰かに助けてもらおうだなんてこれっぽっちも思ってはいませんでしたが、流石に少し、心細くもなります。

僧侶「そっ、それにしても、七百万なんて!」

傭兵「一日七十万。十日で七百万。寧ろ安いもんだと思うがな。十日を超えたらその分は差っ引いてやるって言ってるんだ」



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2: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 21:53:19.61 ID:sWnNovzn0

僧侶「ただの護衛ですよ!?」

傭兵「『ただの』とあんたが思うなら、俺以外を雇うといい。こなしてくれるだろうさ」

以下略



3: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 21:55:01.73 ID:sWnNovzn0

傭兵「どうした、貧乏人。払えないか」

僧侶「……はい」

以下略



4: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 21:55:47.97 ID:sWnNovzn0

 大陸を東西に横断し、人間の居住地域を南北に分断する大森林。そこが通れないとなれば、交易にも、派兵にも、大きな影響が出ます。というか、事実出ているのです。
 小麦は北部からの輸入ですから、当然パンの値段は高騰します。市場に流れる魚の種類も大きく減りました。隣国がこの機に乗じて攻め込んでこないとも限りませんが、兵力の投入だって難しい状態。

 名うての冒険者はそれでも大森林に足を踏み入れますが、良い噂はあまり聞きません。
以下略



5: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 21:56:33.87 ID:sWnNovzn0

 ついに傭兵さんはわたしからエールへと視線をずらしました。それを一気にごくごくと呷れば、あっという間にエールは空になってしまいます。そして、おかわり。
 店員さんが新しいジョッキを持ってくるや否や、傭兵さんはそれに口をつけ始めました。

僧侶「お金はなんとかして必ず用意します! だから……」
以下略



6: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 21:57:43.46 ID:sWnNovzn0

僧侶「とりあえず、これがわたしの手持ち全てです。これを手付金として渡します。ですから、三日。三日だけいてください。その間に残りの四百万、稼ぎます」

傭兵「どうやって。カジノか? 悪いが博才にあふれているようには見えないな」

以下略



7: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 21:58:42.17 ID:sWnNovzn0

傭兵「正気とは思えんな」

僧侶「並行して周囲の魔物も狩っていきます。斡旋所で手配書も見ました。近くにオークの棲家がありますね。少しは足しになるでしょう」

以下略



8: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 21:59:56.99 ID:sWnNovzn0

 と、そのとき、背後からずんぐりむっくりとした熊のような男性が向かってくるのがわかりました。足取りこそ荒っぽいですが、その指には豪華な宝石のリングがいくつも嵌められています。さぞかし成金なのでしょう。

熊男「おい、お嬢ちゃん。今の話、本当かい」

以下略



9: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 22:00:45.54 ID:sWnNovzn0

騎士「僕は単なる騎士だよ。ちょっとばかりおせっかい焼きの、ね」

傭兵「おせっかい焼きなのはわかる。で、なんだ。あんたがこのちんちくりんを買ってくれるのか」

以下略



10: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 22:01:57.93 ID:sWnNovzn0

 わかります。こういう、困っている人を見過ごせないおせっかいな人はどこにだっているものです。

 僧侶と言う職業上、わたしだってよく施しを行いますが、ここまで見境なしじゃあありません。ありがたくはあるのですが、余計に事態を混乱させているだけのような気もします。

以下略



11: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 22:02:59.05 ID:sWnNovzn0
※ ※ ※

騎士「ばかな……有り得ない……」

 がっくりと肩を落とし、地面にひざまずいた自意識肥大ナルシーおぼっちゃんは、俺に負けたことが依然信じられないようだった。愚か者め。
以下略



12: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 22:04:49.46 ID:sWnNovzn0

傭兵「おい」

騎士「話が違う、かい?」

以下略



13: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 22:05:28.97 ID:sWnNovzn0

僧侶「いいんですか?」

 素っ頓狂な声をあげる僧侶だった。あいつの手に銀貨が渡るのは、業腹だが赦そう。しかしあれを売り払われると困る。
 欲しいのはコネクションで、銀貨はその証左となる。この世は金が全てだが、後ろ盾のない金は危険に過ぎるからだ。まさかこんな辺鄙な酒場で僥倖が転がり込んでくるとは、と甘い期待は打ち砕かれたけれど、一度見てしまった銀貨を手放すのは、流石に惜しい。
以下略



14: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 22:06:06.91 ID:sWnNovzn0

* * *

 お礼を言おうと振り向いたところ、あの騎士さんはいなくなっていました。周囲の人に聞けば、いつの間にか消えていたということで、私は忘我を悔やみます。このご恩はいつか返さないといけません。

以下略



15: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 22:07:03.27 ID:sWnNovzn0

 床に直に腰を下ろした傭兵さんは、懐から羊皮紙を取り出しました。紐解けばそれはどうやら地図のようです。しかもかなり詳細な。これだけで余程の値段はするでしょう。

傭兵「まず契約の確認だ。俺はお前をラブレザッハまで連れて行く。いいな」

以下略



16: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 22:07:58.51 ID:sWnNovzn0

 大きく息を吸って、吐きます。
 戦えるかと傭兵さんは尋ねました。自衛できるか、と。ならば答えはイエスです。

 かばんの中から重厚な鉄の塊を取り出しました。
以下略



17: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 22:09:05.70 ID:sWnNovzn0

※ ※ ※

傭兵「はぁ? 使えない?」

以下略



18: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 22:10:08.17 ID:sWnNovzn0

僧侶「縫製はできます。維持も充填も、自慢じゃないですけどアカデミーではトップでした。けど、放出がどうしてもできなくて」

 魔法の理論に詳しくない俺でも、縫製、維持、充填、放出の四項目くらいは聞いたことがあった。
 縫製――魔力を編みこんで特定の性質を与える。
以下略



19: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 22:11:16.35 ID:sWnNovzn0

 なかなか面白いじゃないか、と素直に思った。
 マジックアイテムのワンオフ化だ。魔力を通せば誰でも固定の呪文が使えるあれらとは異なり、柔軟性を持たせてある。回復の際は回復呪文を、解毒の際は解毒呪文をそれぞれ装填した弾丸を撃ちだすのだろう。

 ……撃ちだす?
以下略



20: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 22:12:00.01 ID:sWnNovzn0

 叫びださないのが奇跡だった。奇跡のような努力の賜物だった。
 ということはなんだ。つまりあれか。こいつは他人を治すとき、いちいち拳銃をぶっ放して、他人に弾痕を作らないといけないわけか。
 撃たれたところも結局治るからいいやと。

以下略



21: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/05/13(火) 22:14:58.88 ID:sWnNovzn0

 大森林にすむエルフは決して人間に対して友好的ではないが、少なくとも敵対してはいない。彼らの技術力や資源は俺たちにとって必要不可欠で、人間側――特に隣接し直接取引をする俺たちの国は大々的にエルフへの援助を申し出ている。
 が、当然魔王軍がそれを許すはずはなかった。交易の要衝となる地点には砦が立てられ、人間側とのにらみ合いが続いている状態にある。

 砦の数や魔物の質は魔王領のある西域に近づくにつれて上昇する。残念なことに俺たちが現在いる地点はかなりの西寄りだった。覚悟を決めなければ。
以下略



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