33:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/16(水) 18:20:57.63 ID:TmyX6+Eao
あれは。
そう、「大好きだ」というあの言葉は。
夫の最期の言葉だ。
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2014/07/16(水) 18:22:06.35 ID:TmyX6+Eao
小さい頃は町住みで猫を飼っていた。
その頃は自分も人並みに明るい性格で笑顔もそれなりに上手だったように記憶している。
人と自分がどこか違うと感じるようになったのは猫がすっかり大人になったあたりで、みんなと同じように物を考えることがいつの間にかできなくなっていた。
35:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/16(水) 18:22:34.55 ID:TmyX6+Eao
確か自分が十四歳になった頃だ。
猫が死んだ。
干からびるほど泣いた。
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2014/07/16(水) 18:23:11.23 ID:TmyX6+Eao
各地をさすらっているうちに、自分が魔女であることを知った。
世の不思議、魔法とともにある存在らしい。
確かにいろいろなことが不思議と思い通りになるなとは思っていた。
だがどうでもよかった。
37:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/16(水) 18:23:53.92 ID:TmyX6+Eao
そんなことが何回も続いた。
つまり何回も青年の顔を見ることになった。
本当奇遇だねえと彼は笑ったがこちらは理由が分かっていた。
魔法だ。
38:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/16(水) 18:24:45.73 ID:TmyX6+Eao
あるとき山越えでドジを踏んだ。
地面の窪みに気づかずに足を挫いたのだ。
あまりにひどくひねったのでそこから一歩も動けなくなった。
食料は最低限しかなく防寒の準備も十分ではないのに雪が降りそうな空模様だ。
39:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/16(水) 18:25:18.76 ID:TmyX6+Eao
それからいろいろあった。
海に出て一緒に釣りをしたり長い地底洞窟を手をつないで歩いたり。
ある村に住まいを定めてからは大きな出来事はそうそう起きなくなったが、それでもいろいろあったことには違いない。
40:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/16(水) 18:25:56.20 ID:TmyX6+Eao
夫は流行り風邪で肺を悪くして亡くなった。
大好きだ。
彼はあえぐように言った。
大好きだよ、ヘレナ。
41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/16(水) 18:26:24.49 ID:TmyX6+Eao
どうということはない。
その時に頭に浮かんだのはそういう乾いた言葉で、本当に心からどうでもいいと思った。
一人だったのがそうじゃなくなり、そしてまた一人に戻ったというだけだ。
だから自分は泣かなかった。
42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/16(水) 18:27:07.12 ID:TmyX6+Eao
風車屋敷が建って数年後。
娘がいきなり訪ねてきた。
自分にとっては孫にあたる女の子を一人預かってほしいという。
43:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/16(水) 18:28:50.01 ID:TmyX6+Eao
「いい子じゃない」
走馬灯のように流れる景色の中で声が言った。
当り前だよ、と彼女は答えた。なんたってわたしたちの孫だからね。
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