37:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 19:38:01.32 ID:SluoaBc3o
他にも、彼女はいろんなことをしては彼の心を揺さぶった。
例えばその冬の日はこうだった。
寒さが苦手らしく、彼女は全身をニットに包んだ服装をしていた。
38:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 19:41:08.92 ID:SluoaBc3o
「鉄さんは寒くないんですか?」
「いやあんまり」
「なんでですか、鉄なんですから身体がすぐに冷えるでしょう」
39:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 19:46:53.05 ID:SluoaBc3o
「暑いとか寒いとか、お前らにとっちゃただ煩わしいだけのもんなんだろうけど
俺はそれをどれだけ願っても感じられないんだぞ。
ただ想像することしかできないんだ」
感覚が他人より少ないこと。
40:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 19:50:11.37 ID:SluoaBc3o
彼女は右手袋を外して、本を支えていた彼の左手に自分の右手をそっと添えた。
「冷たっ!」と彼女は叫び声を上げた。
彼の心臓は飛び跳ねた。
叫び声ではなくて、もちろん彼女の手のせいだ。
41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 19:53:42.39 ID:SluoaBc3o
これはもう言うまでもないことだろうけれど、彼は彼女のことが結構好きだった。
でも「全身鉄でできている人はさすがにちょっと」なんて言われてしまうんじゃないかと思って、
例えばデートに誘ったりだとか、思いの丈をぶつけたりだとか、
そういった行動を起こす気にはなれなかった。
42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 19:57:07.65 ID:SluoaBc3o
結局彼は何も状況を変えようとせずに、忙しさの合間を縫って
たまにベンチに遊びに来る彼女を待っているだけだった。
十分に満足だったのだ。
彼女がわざわざ自分と話しに来てくれるという、それだけで。
43:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 20:08:07.42 ID:SluoaBc3o
*
彼は卒業式には出なかった。
惜しむべき学生生活も振り返るべき思い出も特にない。
44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 20:12:04.32 ID:SluoaBc3o
「似合ってるじゃないですか」
その声が聞こえたのは数十ページほど物語が進んだ後で、
彼は本を畳んで顔を上げた。
45:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 20:16:07.85 ID:SluoaBc3o
特にない、と彼は言った。
似合っているだとか、かわいいだとか、本当はそんな感じの
言葉を口にしようかとは思ったのだけれど、
それを実際に言う気恥ずかしさにはとても耐えられそうになかった。
46:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 20:19:45.14 ID:SluoaBc3o
もう卒業ですね、と言いながら彼女は彼の左隣、
いつもの位置に腰掛けた。
「あっという間な気がします」
47:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 20:23:06.66 ID:SluoaBc3o
「最初は興味本位だったんですよ」
鉄さんに話しかけたのは、と彼女は言った。
彼はゆっくり頷いた。
それはとっくに分かっていた。
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