過去ログ - 全身が鉄でできている人の話
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42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 19:57:07.65 ID:SluoaBc3o
結局彼は何も状況を変えようとせずに、忙しさの合間を縫って
たまにベンチに遊びに来る彼女を待っているだけだった。

十分に満足だったのだ。
彼女がわざわざ自分と話しに来てくれるという、それだけで。
以下略



43:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 20:08:07.42 ID:SluoaBc3o



彼は卒業式には出なかった。
惜しむべき学生生活も振り返るべき思い出も特にない。
以下略



44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 20:12:04.32 ID:SluoaBc3o
「似合ってるじゃないですか」

その声が聞こえたのは数十ページほど物語が進んだ後で、
彼は本を畳んで顔を上げた。

以下略



45:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 20:16:07.85 ID:SluoaBc3o
特にない、と彼は言った。

似合っているだとか、かわいいだとか、本当はそんな感じの
言葉を口にしようかとは思ったのだけれど、
それを実際に言う気恥ずかしさにはとても耐えられそうになかった。
以下略



46:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 20:19:45.14 ID:SluoaBc3o
もう卒業ですね、と言いながら彼女は彼の左隣、
いつもの位置に腰掛けた。

「あっという間な気がします」

以下略



47:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 20:23:06.66 ID:SluoaBc3o
「最初は興味本位だったんですよ」
鉄さんに話しかけたのは、と彼女は言った。

彼はゆっくり頷いた。
それはとっくに分かっていた。
以下略



48:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 20:27:30.05 ID:SluoaBc3o
「でも、なんだか小さな子供みたいにも見えたんですよ。
 一人で本を読んでいる鉄さんの姿が、
 遊びに誘われるのを期待しているような、
 母親の帰りを待っているような子供みたいに。
 だからその次は同情だったんだと思います。
以下略



49:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 20:31:35.23 ID:SluoaBc3o
怒りましたか、と不安そうなその問いに対して、
彼は緩やかに首を振って、「どうでもいいさ」と答えた。

突き放したようにも聞こえるその言葉に、
しかし彼女は「ありがとうございます」と言った。
以下略



50:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 20:35:30.46 ID:SluoaBc3o
「このあとはサークルの皆で打ち上げです。
 卒業記念です。
 皆、就職やら進学やらでバラバラになりますからね。
 私も遠くに就職ですし」

以下略



51:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 20:38:52.81 ID:SluoaBc3o
「なにも言うことはないんですか」

彼女は彼のほうに顔を向けて、尋ねた。
今度は笑ってはいなかった。
彼はその視線から逃げるように、
以下略



52:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/08/02(土) 20:42:18.88 ID:SluoaBc3o
求めている答えが、さっきとは違う類の物であることには勘付いていた。
それでも、彼はやっぱり何も言わなかった。

重苦しい沈黙だけが二人の間に横たわり、そして時間が過ぎていった。
風が木々を揺らす音と、どこか遠くから聞こえてくる
以下略



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