20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/10/06(月) 21:40:52.39 ID:Ha53zHbko
屋上を降りて、デスクから荷物を取って、車へ乗り込んだ。
助手席でシートベルトを締めたあいさんの横顔を、僕は盗み見た。
彼女とは軽口を叩き合うくらいに、打ち解けているはずだった。
以前から、打ち解けていると思っていた。
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2014/10/06(月) 21:41:42.67 ID:Ha53zHbko
狭い車内が寒いほどに静かなのが気詰まりだったのか、
あいさんはカチリとカーラジオの電源を入れた。
色々チューニングを変えて、いつもの番組に落ち着いた。
ちょうどリクエストの曲が終わったところで、その曲とバンドについて解説していた。
22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/10/06(月) 21:43:57.28 ID:Ha53zHbko
ラジオは長々とした解説と雑談が済んで、ようやく次の曲に移った。
また同じバンドだった。
「好きってほど、好きじゃない。嫌いではないけど」
23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/10/06(月) 21:46:18.36 ID:Ha53zHbko
曲が終わり、長々とした解説と雑談のあと、また次の曲が始まって終わる頃、車は目的地へ着いた。
駐車場に停めて、二人で車を降りた。
昼下がりの蕩けるような太陽が、アスファルトにぼたぼたと日を落としていた。
僕らの他に人は居なくて、鮮やかでグロテスクな秋の陽があいさんの姿を写している。
24:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/10/06(月) 21:48:25.05 ID:MXjb6Z3ro
いいねいいね
俺もピース党だからたまらんね
25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/10/06(月) 21:48:32.58 ID:Ha53zHbko
――――
秋はいつの間にか始まって、いつの間にか終わるものらしい。
十一月ともなると、雪は降らないまでも乾いた風は斬りつけるような冷たさだ。
もうじき冬が来る。
26:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/10/06(月) 21:49:55.81 ID:Ha53zHbko
あれ以来、一度もあいさんに好きだと言っていない。
もしかしたら、僕が彼女を好きだということも、伝わっていないのかもしれない。
もう一度言う勇気はある。本当だ。
本当だが、あいさんに何度言っても伝わらないと、不思議と確信を持っていた。
27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/10/06(月) 21:52:25.40 ID:Ha53zHbko
秋の終わり、夕暮れの土手の道を歩いている。
空は血が滲んだような赤紫で、映る物全てを影絵に変えていた。
燻る雲と対照的に空気は冷たく、風に身震いしてしまうほどだ。
高架の下をくぐり抜けて行ったところで、僕は足を止めた。
28:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/10/06(月) 21:54:45.17 ID:Ha53zHbko
踵を返し、高架下の土手を覗きこんだ。
誰かが土手に腰を下ろして、サックスを吹いていた。
あいさんだとすぐに分かった。
彼女の丸められた背中と同じく、サックスの音は弱々しくて今にも消えそうだった。
29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/10/06(月) 21:56:56.30 ID:Ha53zHbko
土手を歩いているうちに、早送りの太陽が地平の裏へ転げて見えなくなった。
空はまぶたを閉じて、暴力的な赤を失い、夜へと翻った。
僕はこの夜にあいさんが取り残されているのが怖かった。
冷たい空気が指先を濡らすので、僕は高架下へ戻ることにした。
30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/10/06(月) 21:58:21.24 ID:Ha53zHbko
「いつも、ここでサックスを吹いているんですか」
ようやく息切れが収まって、僕は言った。
「君は……その、なにしてるんだ」
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