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2014/10/06(月) 21:59:18.33 ID:Ha53zHbko
そう言うあいさんはジーンズにシャツ、それにカーディガンだけで寒そうに見えた。
僕は上着を脱いで、彼女の肩にかけた。
「寒そうです」
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2014/10/06(月) 22:01:57.62 ID:Ha53zHbko
「たまにね。ここにサックスを吹きにくる。夕方とか、夜とか。雰囲気あるだろう?」
「寒くないですか」
「平気さ。夏は蚊が出るからもうちょっと向こうで吹くんだが、秋から冬は高架下で」
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2014/10/06(月) 22:03:05.28 ID:Ha53zHbko
最後の一音を伸ばし、消すと、あいさんはサックスから口を離した。
さらさらと風が鳴った。
「素敵でした」
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2014/10/06(月) 22:05:19.27 ID:Ha53zHbko
あいさんはケースを抱えて、さっと立ち上がった。
夜を振り払うようにくるりと向き直って、冷たく僕を見下ろした。
「また、聴く?」
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2014/10/06(月) 22:06:32.54 ID:Ha53zHbko
あいさんは二、三度まばたきをしたあと、さっと土手を登っていった。
あいさんの後ろ姿が見えなくなって、目を夜空に戻すと、堪えていた涙がじわりと溢れてきた。
愛しさが思考をバラバラに切り裂いて、手を伸ばしても届かないなにかに届いたような気がした。
僕は一人で泣いていた。孤独だった。
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2014/10/06(月) 22:07:51.31 ID:Ha53zHbko
――――
仕事の終わりや、オフの日。
太陽が半分ほど隠れる時間に、例の高架下へ二人で座り込んだ。
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2014/10/06(月) 22:09:20.31 ID:Ha53zHbko
「今日はなにを吹いてくれるんですか」
その夕暮れのあいさんは少し、ぼんやりとしているようだった。
サックスを組み終えても、キーをパタパタいじるだけで、マウスピースに口を付けなかった。
38:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/10/06(月) 22:11:03.29 ID:Ha53zHbko
「……私がちょっとばかり有名になったから、かな」
「人のことなんで、よく分かんないですけど、
会いたくないなら会わなくていいんじゃないですか」
39:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/10/06(月) 22:13:14.86 ID:Ha53zHbko
「雪が降り始めたら、しばらくサックスもお休みだね」
あいさんは薄闇の中呟いた。
彼女の吐息は白く、外灯の灯りを受けて柔らかく光った。
40:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/10/06(月) 22:14:24.72 ID:Ha53zHbko
唇を離すと、あいさんは立って、逃げるように土手を登っていった。
僕はすぐに後を追った。
高架下の歩道をあいさんは急ぎ足に突っ切って行くところだった。
41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/10/06(月) 22:15:38.06 ID:Ha53zHbko
「好きです」
「私は……ダメだ」
「どうしてキスをしたんです」
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