過去ログ - 律子「待ちくたびれたプロデューサーへ」
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15:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/23(火) 02:10:29.76 ID:O6N65gcso

 わざわざ、気を使わなくてもいい――心からそう思っていたら、口に出すものか。
 本当は気を使ってほしい、贅沢を言えば忘れないでいてほしかった。

 私のファンや、以前に仕事をした人、学生時代の友だち、家族――色んな人が私の誕生日を祝ってくれた。
以下略



16:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/23(火) 02:10:56.29 ID:O6N65gcso

「私、なんだか、おかしな勘違いをしちゃったな」

 ほろ苦さにもう一度笑う気力はなく、今日まだ途切れない雨を傘で断つ。
 踏みつけた水たまりは思ったよりも柔らかく、スニーカーの布地に染みる冷たい感覚が足を引っ張った。
以下略



17:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/23(火) 02:11:34.76 ID:O6N65gcso
 5

 ステージ衣装を着ると、まさに身が引き締まる。
 身体のラインを綺麗に見せるために、少しタイトに作ってあるせいかもしれない。

以下略



18:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/23(火) 02:12:01.46 ID:O6N65gcso
 衣装合わせにはたっぷり時間をとるのがプロデューサーのやり方だった。
 スタジオで実際に衣装を着て、パフォーマンスに支障がないか確かめる。
 衣装の中には以前に使ったものもあって、なんだか懐かしい気持ちになる。

 ふと、プロデューサーは口を開いた。
以下略



19:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/23(火) 02:12:42.53 ID:O6N65gcso

 ラストコンサートは目前に迫っていた。準備の方もいよいよ峠を越えたらしい。
 プロデューサーは、やっと寝る時間ができたと冗談めかして笑っていた。

 私はと言えば、まだどこか信じられない気がしていた。
以下略



20:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/23(火) 02:13:12.86 ID:O6N65gcso
 6

 リハーサルではまず会場の大きさに圧倒されたけれど、観客が入り始めると、また違う種類の緊張が身体の中に意識される。
 私の身長くらいありそうなスピーカーが、開演までの間を埋めるようにBGMを流している。

以下略



21:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/23(火) 02:13:39.60 ID:O6N65gcso
 開演十分前を知らせるアナウンスが会場へ放送されると、熱せられたように観客の声が波立った。
 嫌でも、身体に力が入る。

「リラックスしろ」

以下略



22:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/23(火) 02:14:05.51 ID:O6N65gcso
 会場のほうでわあっ、と歓声が湧いたのが聞こえた。
 流れていたBGMがいつの間にか、消えていた。じっとりと空気が張り詰める。

 いよいよ、開演する。これで、最後なんだ。

以下略



23:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/23(火) 02:14:33.14 ID:O6N65gcso

「……ね、プロデューサーは、私のこと、どう思ってた?」

「律子のこと?」

以下略



24:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/23(火) 02:15:39.96 ID:O6N65gcso
 7

 私は幾千の目をほどくように手を振って、ステージを降りた。
 裏は開演前と相変わらず、薄暗い。
 プロデューサーが一番に、私を待っていることは分かっていた。
以下略



25:名無しNIPPER[sage saga]
2015/06/23(火) 02:16:05.38 ID:O6N65gcso

 少し走ると息が切れてしまって、河川の上へかかる橋の途中で立ち止まった。
 最後だと、これで最後なんだと分かっていたはずなのに。
 私は橋の欄干にしがみついて、やっとの思いで立っている。
 ステージの上へ、やっとの思いで立っていたように。
以下略



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