過去ログ - 【モバマスSS】香水 あるプロデューサーの物語
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10:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:11:50.81 ID:mPSzAJE90



 ジュースキントの、「香水 ある人殺しの物語」という小説をご存じだろうか。
超人的な嗅覚を持つ主人公グルヌイユが、街中で出会った女性の香りに憧憬を抱き、その香りを香水で再現しようとして、次第に狂気に取り憑かれていく物語である。
以下略



11:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:12:43.22 ID:mPSzAJE90
「これが例の香水か。ただの水にしか見えないけどな」

「間違っても飲んじゃダメだよ。試すなら、一吹きだけにしてね。名付けて、『サテュリオン』なのだ」

「ラブ・ポーションじゃないのな」
以下略



12:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:13:23.77 ID:mPSzAJE90
 慶は、一ノ瀬志希に自分のタワーマンションの一部屋を与えていた。慶が、フロアごと借りているうちの一室である。
 志希と出会ったのは、慶が以前にアメリカにいた時だ。
 偶然慶が住んでいた都市に、飛び級で大学に入学し、化学を専攻している日本人がいると聞いて、興味本位で会いに行ったのだ。
 
 アイビーリーグの某大学に、飛び級で進学しているとあって、当初、彼女との会話にはついていけなかった。
以下略



13:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:14:12.97 ID:mPSzAJE90
“……では特別に、奥様だけにお教えしましょう。いいですか? 例えばマチンという薬を最初は一グラム、次の日は二グラムと量を増やしていくと、二十日目には二十グラムのマチンを一度に摂取することになりますが、死ぬことはございません”

“まあ、そうなの?”

“しかし、最初から二十グラムも接種してしまうと、その人にとって猛毒になるのです。こうすれば、同じ瓶から飲んでも、相手だけ殺せるでしょう?”
以下略



14:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:14:56.14 ID:mPSzAJE90
 その日は、穏やかな日差しの昼下がりだった。
 大学の図書館には、幾人かの学生の姿が見受けられ、アメリカン・ボザール様式の館内は、学問に対しての誠実さを要求してくるような、森厳な雰囲気を醸成している。
 しかし、その一角で交わされている慶と志希の会話は、鴆毒に等しいものだった。外の天気とは正反対に、そこだけ淫雨が降り注いでいるようだ。

「……そんじゃあさ、あたしも連れてってくれない?」
以下略



15:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:15:38.97 ID:mPSzAJE90
 そんな慶の内心を知ってか知らずか、志希は机に置いてあったハードカバーを、慶の目線に持ち上げて見せる。
 その表紙には、「Das Parfum – Die Geschichte eines Mörders」と記されていた。

「ジュースキントか」

以下略



16:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:16:30.32 ID:mPSzAJE90
「……けど、その香水を観衆にふりかけて、自分に死刑を求刑した者たちを魅了して、判決を覆しちゃうんだ。人間の精神を捻じ曲げる香水……そんなものがあったら、すごいと思わない?」

 そんなものがあったら、すごいどころの話ではない。呆然とする慶の表情に満足しているのか、志希は話を続けた。

「そこで志希ちゃんは思いました。ファンタジーの中で、惚れ薬ってのが出てくるでしょ? ほら、おとぎ話の魔女が、悪い顔しながら鍋をかきまぜてたり……誰もが現実にはあり得ないと思ってるけど、なんとか再現できないかなーって」
以下略



17:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:17:25.39 ID:mPSzAJE90
「だからさ、志希ちゃんのギフテッドの頭脳と嗅覚と、キミの財力がタッグを組めば、向かうところ敵なしってわけ」

 怪訝な顔をする慶を嘲笑するように、志希は更に言葉を継ぐ。

「惚れ薬があれば、キミはどんな女も掌中にできる。惚れさせるということは、つまり傀儡にできるってわけだからね。鷦鷯深林に巣くうも一枝に過ぎず、って誰かさんは言ったらしいけど、キミの野心が世間の片隅に収まるとは思えないなー」
以下略



18:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:18:05.30 ID:mPSzAJE90
 慶は目の前にいる少女を、まるで蛇のように錯覚した。アダムとイヴに、失楽園を齎す蛇の誘惑。
 しかし、慶はその誘惑に乗ることにした。志希の言うとおり、このまま財閥の次男として燻っているのも癪である。ここはひとつ、蛇の甘言に従い、荒淫と頽廃で身を崩すのも良いのではないか。
 慶は黙ったまま、志希に右手を差し出した。志希は脂下がった顔で、両手で慶の右手を包み込み、ブンブンと上下に振る。

「けーやくせーりつー♪ どんどんぱふぱふー♪ これであたしとキミは一蓮托生……ま、一つよろしく!」
以下略



19:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:18:50.27 ID:mPSzAJE90
 脳内の遠くで、彼女との契約を回想しつつ、慶はスプレーボトルを見つめる。

「しっかし、グルヌイユの香水を本当に再現できるとはねぇ」

「何なら試してみる?」
以下略



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