過去ログ - 高森藍子「7月25日。私は、ウサミン星でお散歩をしました」
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1:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:37:44.25 ID:s0xS1vQx0
とても遠いところから、ウインドチャイムの音がする。


「んぅ……?」

高森藍子は目を覚ました。意識はまだ少しまどろんでいて、けれど身体は妙にすっきりしている。
いつもは起きてまず伸びをして、顔を洗うまでも時間がかかってしまうのに。
身体の軽さに小首を傾げながら立ち上がり、そして、ここが自分の部屋ではないことを知った。

「あれ……? ここ、どこ……?」

横長に広い空間には淡いピンク色の座席が並んでいる。視界の上の方でハート型のつり革がぶらりぶらりと揺れていた。
腰を降ろす。座席は見た目よりもふかふかで、快適だった。
足元から微かな揺れと、鼓膜に直接響くようなウインドチャイムの音が聞こえて来る。

「あ……そっか」

藍子は非自覚的につぶやいた。そして非自覚的に理解した。ここがどこで、自分は何をしているのか。


「私、ウサミン星に行こうとしてるんだったっ」



――まえがき――
7月25日は高森藍子の誕生日です。

単発作品です。この物語での設定はこの物語のみの物となります。

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2:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:38:24.01 ID:s0xS1vQx0
窓の外にはいっぱいの銀河が広がっている。星の色が七色だということを藍子は初めて知った。初めて知って、いつもの癖でカメラを探そうとスカートのポケットを探して、途中からカメラではなくスマートフォンを探さなければならないという気持ちになった。
誰かにこの景色を見せてあげたいと思った。
例えば……例えば。……名前が、ちょっと出てこない。
今の自分は思い出さない方がいいような気がする。思い出さないような方がいい気がしてから、でもそれは世界の法則に逆らってでも思い出し口に出すべき名前だと本能が告げた。自分が2人になって喧嘩をしているようで心地が悪くて、藍子はぶんぶんと首を振る。

以下略



3:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:38:53.73 ID:s0xS1vQx0
「……聞こえない……」

ウインドチャイムの音がしなくなった。それがすごく寂しくて、少し汚いかも、と分かりつつ、床に寝そべるようにして耳を当てる。
それでも聞こえないから藍子は口をへの字に曲げ、目を瞑った。
絶対に聞いてやるっ。
以下略



4:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:39:23.86 ID:s0xS1vQx0
□ ■ □ ■ □

「どーして加蓮ちゃんはこうマイナスイメージと言いますかバッドイメージと言いますか! もっと使う言葉を選んでくださいよぉ!」
「菜々ちゃんがこだわりすぎなんだってばっ」
「禁止とか許されないとか、そういう堅い言葉には夢がないんですよ!」
以下略



5:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:39:53.80 ID:s0xS1vQx0
次に目を覚ました時、藍子の身体はまた座席に座っていた。
寝返りを打つように首を動かして、目を窓の外へ。銀河は秒ごとに景色を変えていく。同じ「暗闇と星が広がる場所」でしかないのに、空色と、森色と、海色と、兎色と、色とりどりで色とりどりで、息をするのも忘れてしまいたくなる。
電車――ではなくて銀河鉄道のうんと近くを、1つの星がすり抜けた。
まんまるクッキーの形をしていた。美味しそう、と頬を緩めた時だった。

以下略



6:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:40:54.28 ID:s0xS1vQx0
>>5
下から3行目、一部訂正させてください。
誤:髪飾りのような封は
正:髪飾りのような封には

以下略



7:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:41:23.85 ID:s0xS1vQx0
その時だった。
手を伸ばしてぎりぎり届かないくらいに近い場所に、いきなり輪郭のぼやけたウサミン星人が現れた。

「ひゃっ!?」
『お待たせしました! おもてなしには満足してもらえましたか? キャハッ☆ ウサミン星まであと5分ですよぉ! それまで楽しみに待っててくださいね! ご主人様、お嬢様っ!』
以下略



8:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:41:53.88 ID:s0xS1vQx0
□ ■ □ ■ □

「加蓮ちゃんらしさとか出してみます?」
「いや、私ウサミン星人じゃないし……」
「じゃあ今まで通りにしますね! さ! これで銀河鉄道編は完成です! 改めてやってみるのも面白いですよね、加蓮ちゃんっ♪」
以下略



9:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:42:24.08 ID:s0xS1vQx0
銀河鉄道が止まる。それと同時に、さっき車内アナウンスをしてくれたウサミン星人(案内役)が浮き上がるようにして現れた。

『こっちですよ〜っ』

導かれるままに藍子は出口へと向かう。3歩ほど踏み出した時だった。ぽんっ、と聞き慣れた音と共に頭の上に新たな感触が生まれた。
以下略



10:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:42:53.87 ID:s0xS1vQx0
お餅みたいな感触の地面に降り立つと同時に、銀河鉄道は流れ星のように消え去り、代わりに視界いっぱいにウサミン星の光景が広がった。

「わぁ…………!」

吸い込まれるような夜空に幾つもの星が瞬き、目を離せない程の大きな満月が黄金色を発している。黄土色の地面には人が5人は並べるであろう真っ直ぐな道が広がっていて、腰ほどまでの高さのクリスタルフラワーで彩られていた。
以下略



11:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:43:23.94 ID:s0xS1vQx0
『さ、いっぱい楽しんでいってくださいね、お嬢様っ♪』
「はいっ! あっ、歩くのはもう少し……ここで見てからでいいですか?」
『もちろんオッケーですよ! キャハッ☆』

遊んでいるウサミン星人の1匹――1人が藍子の方を見た。つぶらな瞳が、ぱちくりぱちくりと瞬いている。
以下略



12:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:43:53.81 ID:s0xS1vQx0
『うさみんっ♪』
『うさみんっ♪』
『ミンミンウサミンっ♪』

小さなウサミン星人はさっきよりもさらに嬉しそうに跳ねていた。そうしてからそれぞれ元いた場所に戻――ろうとしたけれど、2歩ほど進んだところで、くるり、と藍子の方を向き直した。
以下略



13:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:44:23.93 ID:s0xS1vQx0
満足したウサミン星人達が今度こそは元いた場所に戻る。楽しんでいってねー! とソプラノボイスをぴったり合わせてから。

上気した息を整えて、また藍子は景色を仰ぐ。
左手側にはミニステージらしき場所。それからカフェテラス席。噴水の周りでは楽しそうに何かを頬張っているウサミン星人がたくさんいる。
右手側には大きな滑り台に観覧車。それと公園。花柄のベンチと桜色の樹木。
以下略



14:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:47:24.04 ID:s0xS1vQx0
>>13
再度申し訳ございません。1行目の一部を修正させてください。
誤:満足したウサミン星人達が
正:満足したウサミン星人たちが

以下略



15:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:47:53.98 ID:s0xS1vQx0
「あれ? あの子、こっちを見てる」

桜色の樹木の陰からこちらを伺っているウサミン星人がいることに気がついた。
藍子は1つ笑って、残した半分の人参を渡してあげた。
ウサミン星人は思いっきり飛び跳ねて、ウサミミを曲げ曲げお礼を言いながら去っていった。
以下略



16:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:48:23.97 ID:s0xS1vQx0
「いろいろあるなぁ……」

辺りを見渡しながら、進んでいく。
向こうの方で、ぱっ、と何かが弾けていた。じっくり見ていると、ぱっ、ともう1度。
さっきからよく見る彼女らよりもさらに小さな、子どものウサミン星人が両手をあげて喜んでいた。
以下略



17:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:48:54.36 ID:s0xS1vQx0
自分のウサミミが、何かを伝えるように身じろいだ。

もしかしたらっ、と、手のひらに力を込める。

「ん〜〜〜〜〜〜〜、えい!」
以下略



18:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:49:24.12 ID:s0xS1vQx0
「今度は、あっちに行ってみようっ」

しばらく歩いていると出店を見つけた。覗いてみるとウサミン焼きを売っていた。
食べたいけれど藍子はお金を持っていない。困っているとウサミン星人(案内役)がやってきて、何かあげればウサミン焼きをもらえるとアドバイスしてくれた。
唇に指を置いて、少し、考えて。
以下略



19:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:49:54.06 ID:s0xS1vQx0
「ふふ……♪ あっちのは何だろ?」

少し離れたところに宙を浮く何かがある。小走りで近づいて見ると球体のそれは思ったよりも大きかった。藍子の身体は、球体の影にすっぽりと隠れてしまい、手を伸ばしても指先ですら触れることができない。
思い切って大ジャンプしてみたら、少し、ほんの少しだけ、爪の先端が当たった。
こつん、という乾いた音がした。小惑星を叩い――撫でた時のような音だった。
以下略



20:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:50:54.84 ID:s0xS1vQx0
『おおっと申し訳ない。立てますか?』
「は、はいっ……びっくりしちゃった」

差し伸べてもらった手を掴んで、起き上がって。改めて、少し離れたところから浮遊するそれを眺める。

以下略



21:名無しNIPPER[saga]
2016/07/25(月) 19:51:24.05 ID:s0xS1vQx0
□ ■ □ ■ □

「シンボルとかってさ、来た人がすぐ見れる方がいいんじゃない? こう、電車から降りた時にさ、わー! 兎の形だ! ってすぐ分かるようにしたら面白いと思うんだけどなぁ」
「ナナ的にはウサミン星でいっぱい遊んで、その後で見てほしいんですよねぇ。ウサミン星の歴史って感じで! 最初はこう、とにかくスゴイって方がよくありません?」
「菜々ちゃんが言うならそうなのかなぁ……。あ、じゃあさ、最初にウサミン星人がいっぱいお出迎えしてくれるっていうのは?」
以下略



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