109: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 10:57:44.90 ID:90KdAnqB0
誰もいない休憩スペースの、窓際のソファに隣り合って腰を下ろす。
窓の外には夕焼けが広がっていた。
紅く照らされた速水さんは儚げで、今にも消え入りそうな気がして不安になる。感傷的になっているのかもしれない。
110: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:01:00.60 ID:90KdAnqB0
速水さんは丁寧に包装を開けていく。気に入ってもらえるだろうか。緊張で心臓が高鳴った。
筒状の箱を開けた彼女は、少し驚いたように息を吐いた。
「……綺麗」
111: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:03:54.98 ID:90KdAnqB0
「はは、いつになくテンション高いな」
「……浮かれてるかも。嬉しいんだもの、乙女ってそういうものよ」
「喜んでもらえてなによりだよ」
112: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:28:31.36 ID:90KdAnqB0
それからは本当に順調な日々だった。
疲労の溜まっていた奏を三日間休ませた。すると休み明けのレッスンは劇的によくなった。
動画の評価は回を重ねるごとによくなり、最終的に上層部からお褒めの言葉を頂戴した。アクセス数は当初の予想を遥かに超えたらしい。
113: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:31:31.72 ID:90KdAnqB0
俺たちの事情など関係ないように、定例ライブは幕を上げた。
客席はケミカルライトによって燦然と輝き、アイドルの歌声やダンスによって波打つ。きっとステージから眺めれば光の海に見えるだろう。
ステージはさらに煌びやかだ。ライトによって照らされ、アイドルによって色づけられていく。
114: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:34:03.23 ID:90KdAnqB0
察しろとはあまりに身勝手で、また無責任であろう。他人は理解し合えないのだ。気持ちを知れたらどれだけ楽か。
安っぽくなっても、馬鹿馬鹿しく思えても、言葉にしなければなにも伝わらない。
「奏を信じてる。この場にいる、どのアイドルよりも輝けると信じてるんだ。そして期待もしてる。俺にとってはさ、奏が一番なんだよ」
115: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:35:39.02 ID:90KdAnqB0
彼女を見送ってから、俺は関係者席へと移動する。約束だ。ステージの隅々まで見える位置に陣取る。
この次のアイドルが終えれば奏の番だ。わかっていても緊張する。心配や不安はない。絶対に上手くいく。
会場は熱気と歓声に包まれる。眩しいくらいに客席とステージは輝き、やっぱり現実味が希薄に思えた。
116: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:42:10.59 ID:90KdAnqB0
「大丈夫そうか?」
「なにがですか?」
隣りにやってきた先輩は開口一番そう言った。質問の意図が掴めず、俺は首をかしげる。
117: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:43:54.98 ID:90KdAnqB0
滑らかに大胆で。
緻密さと繊細さをもって。
細部にまで目を奪われる。
118: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:47:10.93 ID:90KdAnqB0
ステージ袖に移動する最中、
「すげーな……お前、なにしたんだよ」
感嘆したようにため息を吐いた先輩は、神妙な面持ちでそう言った。
130Res/131.93 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。